125.そして標的は動き出して
「コロニー内の皆様にお伝えします。現在コロニー周辺では正体不明機による襲撃が確認されています。警備全力をあげて対処していますが不要不急の出発はお控えいただくようお願いいたします」
突然コロニー中に響き渡る緊急通信。
有事の際などよほどの状況でなければ使われることのないはずのそれが使用されたという事実は一瞬で住民を動揺させることに成功、即座に反応した住民が情報を求めて星間ネットワークへアクセスし警備の含めた公的な部署は一瞬にしてアクセス過多で機能を停止した。
公式から情報が得られないとなれば頼りになるのは人の情報だけ、噂が噂を呼びそして偽の情報に踊らされるという状況に一時間もかからずコロニーはパニックに陥っていた。
そんな状況をハンガーに停泊したソルアレス内で静かに見守る。
ここまではまぁ予定通りだ。
「いよいよ始まったな」
「そうみたいですね」
「状況は?」
「公式なサーバーはすべてダウン、放送を用いて事態の鎮静化を図っていますが効果はなし。幸い暴動にまでは発展していませんが、情報を出さないコロニー管理者に対する恨みつらみで星間ネットワーク上は大騒ぎです」
「ハッキングの可能性は?」
「多少はあるでしょうけど、現時点では純粋なアクセス方によるダウンと考えてよろしいかと」
最初は噂、それが実際に目につくようになり認知度が上がったところでの暴走。
ゴーストシップが民間船を襲撃したという事実は瞬く間に住民を恐怖の底へと陥れた。
なんせ肉眼では確認できてもレーダー系には一切反応しないという仕様だ、対処も出来ずなすすべなく襲われることしかできない。
そんなものがコロニーの外で暴れているとなると、いつ何時このコロニーが襲われないとも限らないという話にもなるんだろう。
規模感を知っている人からすればあんな船一隻で何ができるっていう話になるけれども、噂が噂を読んであと数時間で無数のゴーストシップがノヴァドックを襲撃する・・・という事になっているらしい。
「恐怖を煽って民間人を扇動、本来であれば容易く制圧できるはずなのに今回は相手の方が何枚も上って感じね」
「そのために色々と動き回っていたみたいだしなぁ。あとは噂通り十隻ほどの即席ゴーストシップでコロニーを襲えば準備は万端、万事窮すというところでルークさん達が颯爽と現れ一隻を撃破して残りを追い払うっていう筋書きだ」
「そこで大々的に対処法を開発したと謳えば大手シップメーカーを含めこぞってその技術を買いに来るというわけですね」
「技術って言っても規格の違う装置を一つつけるだけ、それだけで何十・何百万ヴェイルっていう大金が動くんだからぼろい商売だよなぁ」
「本来であれば事前にわかっているのを止めるべきなんでしょうけど、この次が待っているしとりあえず様子見しかないわね」
軍の偉いさんという立場であれば率先してこの状況を解決するべきなんだろうけど、今それをやると準備が台無しになってしまうので大人しくしておこう。
こっちもなんとかギリギリで準備は完了、ルークさんには申し訳ないけれど善良な考えで作られた技術を使って金儲けするのは止めてもらわないとなぁ。
「とりあえず俺達が動くのはルークさん達のデモンストレーションが終わってから、申し訳ないけどそれまでは辛抱してくれ」
「でもよくゼルファス・インダストリーが今回の件に関わらなかったですね、一枚かまないかって打診があったって聞きましたけど」
「それはオルドさんの英断があったからだな。社長は乗り気だったらしいけどあの人が全力で止めたらしい、下手に手を出すとろくなことにならないって身をもって知ったんじゃないか?」
「といいつつマスターが助言をしたんですよね?」
「助言なんてしてないさ。ただソルアレスをここまで仕上げてくれたお礼のついでに、よからぬうわさがあるって独り言を言っただけだ。それをエドさんか誰かが聞いてあの人の耳に入ったんだろう」
「独り言を聞かれていたのであれば仕方ないというわけですか」
試作機の件があったにせよ、ゼルファス・インダストリーにはソルアレスを丁寧に仕上げてくれた恩がある。
色々と良い思いもさせてもらったし、少しぐらい恩返しはしておかないとなぁ。
「ルークさん的には俺をフックにゼルファス・インダストリーとの関係を作りたかったんだろうけど、残念ながらアテが外れたってことになる。でもそれに関しては俺は悪くない、そうだよな?」
「向こうからしたら今までの仕込みが無駄になったわけだから非常に痛手だったでしょうけどね」
「それは俺の知ったこっちゃない」
「マスターの仰る通りです」
俺がオルドさんに何かを言ったという証拠はどこにもない、だからゼルファス・インダストリーがルークさんに組しなかったのは俺のせいじゃない。
今更の話だけど、あの時キャロルさんにつかまったのも実は仕込まれていたんじゃないかと思っている。
突然ゼルファス・インダストリーの副社長と直接話の出来る駒が出てきたのなら、そりゃ使わない手はないだろう。
カメラもない場所で誰にも知られずに話をするには留置所がもってこい、だが善良な一般人を強引に留置所へ連れていくのは難しいとなればあれぐらい派手なことをしなきゃいけなかったんだろう。
まぁ、俺からすればいい迷惑だがいい思いもさせてもらったわけだしこれ以上は何も言わない。
「おや、増援が姿を現したようですね」
「いよいよメインイベントの開始か、モニター・・・って映らないのか」
「いえ、私達は映ります」
「お!そうだったそうだった」
「メインモニターに映像回します」
ジャンク屋で見つけた多重水晶を使いゴーストシップ対策を万全にした俺達に死角はない、ソルアレスのメインモニターに映し出されたのは見覚えのあるゴーストシップと、そのはるか遠方に見える複数の戦艦・・・いや、宙賊船?
なんとも貧相な船だけど、レーダーにもスキャンにも反応しない状況では恐怖の対象に他ならない。
「なんとも貧相だなぁ」
「大急ぎで改修したからでしょう、本来であればふさわしい形があると思いますが当てにしていた企業が助力してくれませんでしたから」
「その影響がここにきていると」
メインモニターの右側には、ノヴァドッグないの状況が映し出されている。
コロニー上にから見えるゴーストシップに恐れおののく住民たち、警備艇が出てもレーダーに捕捉できなければロックオンすることすらできず、結果撃ち落とされるだけ。
そんな相手が複数出てきたらこりゃやばいと思うよなぁ。
距離が遠すぎて肉眼ではどんな船かは確認できないので、ある一定距離から近づいてくることはなかった。
さぁ、そろそろルークさん達の出番かな?
「ノヴァドッグの皆様ご安心ください!我々はついにゴーストシップへの対処法を発見しました、この技術があれば例えどれだけやってきても問題ありません!これよりその技術をご覧に入れましょう!」
突然聞こえてきたルークさんの声、緊急放送を乗っ取るという中々耶馬げなことをしているけれども慌てふためく住民はそんなことに気づかない。
コロニー上部で飛び回るゴーストシップ、そこへ一隻のバトルシップが近づき・・・なんとも地味な戦いが始まった。
さっきまで攻撃どころかまともに追いかける事すらできなかった相手に対して、確実に追い込んで攻撃を仕掛けていく。
最初は恐怖していた住民たちもバトルシップが優勢になると大いに沸きあがり、そして見事に目のまで撃墜することに成功、それと同時に歓声が沸き上がり、それはもうすごいことになっている。
「ゴーストシップへの対策方法を知りたい方はどうぞ第二ブロックへ、これがあればもうゴーストシップにおびえる必要はありません!」
うーん、なんとも雑な宣伝なぁ。
わざわざコロニー上部から移動せずに戦いあうとか普通に考えればあり得ない話、それこそドッグファイトじゃないけどコロニーを使って飛び回るとかすればいいのに、そんなこともしないんだもんなぁ。
ゴーストシップが映像に映らなくても、あのバトルシップは映るんだから派手な戦いを演じたらもっと盛り上がったと思うんだけど、演出が足りないんじゃないか?
まぁ結果、これだけの人が大騒ぎしているわけだから成功といえば成功なんだろう。
むしろあれぐらいの方が逆にやらせっぽくないのかもしれない。
大騒ぎする住民たちの映像を見ながら全員で顔を見合わせ、苦笑いを受けばるのだった。




