124.偶然対処法を発見して
「ただいま」
最後の休暇を終え、あとはゴーストシップへの対処法を見つけるだけというところまで来た俺達だが未だ糸口はつかめていなかった。
あれから仕事を休んでゴーストシップを探してはあれやこれやと試しながらハッキングを試みるも失敗、流石のアリスにも焦りの色が見えてきたけれど時間は待ってくれなかった。
「お帰りなさいませ、首尾はいかがでしたか?」
「残り時間はあとわずかって感じだ。ルークさんの話に他のシップメーカーが食いついたこともあって一気に開発が進んであと数日でお祭りが始まるらしい。今日も一緒にやらないかって誘われたが、丁重にお断りしておいた。そのかわり、始まる前にコロニーを出て行けってさ」
「手の内をばらされたくないのか、はたまた迷惑をかけない為なのか判断に困りますね」
「なんにせよ残された時間はそう多くない。で、どんな感じだ?」
「今日最後の可能性を試してみましたがやはりだめでした。入手したゴーストシップの技術をジャミングするプログラムを走らせてみましたが、やはり出力パーツそのものを変えないと難しそうです」
「となると一から規格外の物を作る必要があるわけか、シップメーカーならまだしも俺達がそれをやるってのは流石に無理があるなぁ」
どうやら今日も失敗に終わったらしい。
ルークさんがよからぬ連中に流したゴーストシップのデータをアリスが発見、元データを使えば楽にハッキング出来ると思いきや世の中そううまくはいかなかったようだ。
どれだけ工夫を凝らしてみても、スキャンする機械そのものの規格が変わらなければ相手を発見することはできないらしい。
それをやるには全く違う規格の物を用意しなければな罠いわけだけど、そんな部品が世に流れていたらそもそもゴーストシップなんてものは生まれていない。
そしてルークさんが売ろうとしているのは探しているそれそのもの、唯一無二の物だけに高値でも売れると今頃鼻息を荒くしていることだろう。
俺にはよくわからないけど、コロニー内にも序列的なものがあるらしく今回の件で第二ブロックだけでなく更に別のブロックにも勢力を伸ばそうとしているらしい。
そのためにゴーストシップを利用しようとするあたり目ざといというかなんというか、良い思いはさせてもらっても悪事に加担する気はさらさらないのでここらできっちり関係を清算するべきか。
「あれだけできると豪語しておきながら誠に申し訳ありません」
「いくらアリスがすごくても技術そのものを変えることはできないんだから仕方ないだろ。とはいえ、ハッキングはできなくてもせめて場所だけは分かるようにしたいよなぁ」
「それも考えましたが、レーダーに用いる通信規格が同じである以上難しそうです。特に今の物は量子同期型ですので自動で最良のものを設定してしまうので任意の波長を選択できないんです。せめて任意で選択できれば」
「任意の波長ねぇ、アリスが作られた時代でも自動制御だったんだろ?」
「そうですね、大開拓時代から多重水晶共鳴体を用いた通信が行われていましたので複数の通信チャンネルから同一の波長を設定して感知していました。それよりも前の単一水晶共鳴体を使う時代となると・・・ちょっと考えられません」
数百年前の存在であるアリスが考えられないというぐらいの大昔、その時代の通信ってのはものすごい大変だったんだろうなぁ。
今でさえ首都との連絡には日数を有するんだ、その頃の通信にはいったいどれ蔵の時間がかかるんだろうか。
「ん?多重水晶なら任意で設定できるのか?」
「任意でというか任意の波長体の間でという感じです。なので半自動、半手動でしょうか」
「つまりその範囲内にゴーストシップを感知できる波長体があればレーダーに捕捉できる?」
「まぁ、レーダーというのはそれぞれが発する波長を拾う事で認識していますから。もっとも、その規格がないから困っているんですけど・・・まさかお持ちで?」
「使えるかどうかはわからないが、ちょっと待ってろ」
この前ナディア中佐といったジャンク屋、そこで買い付けたやつがそんなのだった気がする。
ジャンク屋の主人にもそのままじゃ使えないからって言われていたけど、言い換えれば今の規格に合っていないからってことになるわけで。
俺達が探しているのはまさにそれ、棚に飾っていたキラキラと輝く多重水晶を持っていくとアリスの目の色が変わった。
「これは・・・いったいどこでこれを?」
「この間行ったジャンク屋だ、綺麗だったでディスプレイにしようと思ったんだが使えるか?」
「使えるなんてものじゃありません!これさえあれば奴が受信する周波数帯を探ることができますよ!」
「ということは?」
「ハッキングはできなくとも場所は分かるという事です。あとはこれが発する通信波を増幅して戻ってきたのを受信できれば場所は分かるはず・・・、一緒に多重水晶共鳴管はありませんでしたか?」
「それもあるぞ」
「さすがマスター!すぐに持ってきてください!それと、できれば同じものがいくつかほしいんですがほかにありませんでしたか?」
いつなくハイテンションなアリスに一緒に買った多重水晶共鳴管を渡すとひったくるようにしてそれを受け取り、カーゴに消えてしまった。
ヒューマノイドにはありえないテンションの高さ、時々人間なんじゃないかと思ってしまうんだが中身を見ているだけにそうじゃないんだよなぁ。
「行っちゃいましたね」
「まぁ本人がやる気になってくれたらそれでいいんだが・・・」
「ほかにもあの綺麗な水晶をお持ちなんですか?」
「あのジャンク屋に売ってたのはアレだけだ。ほかにもってなるとまた別のジャンク屋に行くことになるんだが・・・そういや、第8ハンガーのジャンク屋に同じような物を売ってるって言ってたな」
あの後忙しくて行けなかったけど、大型ジャンク品が流れてこない珍しい場所らしいので急いで確認しに行ってみよう。
ルークさんと話した感じだったら今日明日にどうこうってわけでもなさそうだし、とりあえず今出来ることをやるしかない。
「すぐにいきましょう!」
「いや、イブさんは念のため留守番を頼む。実力行使に出る人じゃないと思うがもしもの時は対処してくれ。ローラさんも最悪の場合俺を置いて出航してくれて構わないから」
「まさか、おひとりで行くんですか?」
「さすがに護衛無しは怖いからキャロルさんについてきてもらうつもりだ。ともかく今はアリスが解決方法を見つけてくれるのを信じるしかない」
「ナディア中佐に連絡しておきますか?」
「あー・・・それは俺から連絡する」
「わかりました、どうぞお気をつけて」
急ぎキャロルさんに連絡をして第八ハンガーへ来てもらいつつ、ナディア中佐にもメッセージだけを入れておく。
どこで誰が通信を傍受しているかわからない、下手に通信するよりも直接話をした方が色々と安心なのでとりあえず現地に来てもらおう。
待つこと30分、ぶっちゃけもう少しかかると思っていたんだが特に嫌な顔をすることもなくナディア中佐がやってきた。
ジャンク屋と伝えたからだろうか、心なしか嬉しそうにも見える。
「急に呼び出して悪かったな」
「貴方の連絡だもの当然です」
「うれしいこと言ってくれるじゃないか。キャロルさん、ナディア中佐の名前を使っていいから今から誰も中に入れないでくれ。もし無理やり入ろうとしたらすぐに連絡をしてくれればいい」
「わかりました」
「因みにここも前の店と同じような商品を置いているらしいぞ」
「それは期待大ですね」
念のためキャロルさんには護衛に来てくれとしか伝えていない。
そこへ嬉しそうにやってきたナディアさんを見て色々と誤解しているような感じはあるけれど、弁解するのもめんどくさいのでとりあえずスルーしておこう。
今回の目的はあくまでも多重水晶共鳴体と多重水晶共鳴管、もしかすると他にも色々と買うかもしれないがそれはまぁおまけみたいなものだ。
アリスの実験が成功すれば大どんでん返しが待っている。
それに期待をしながら、連絡を待ちつつ買い物にいそしむのだった。




