123.意外な趣味を確認して
「では、夕方にここ集合でお願いします」
「了解」
「それじゃあアリスさんローラさん行きましょうか!」
イブさんを先頭にアリスとローラさんの三人は勇ましい足取りでショッピングモールの奥へと消えてしまった。
なんでこんなところにいるかというと、ゴーストシップが大暴れすると色々とゆっくりする時間も無くなるという事で急遽休養日が設けられることになったからだ。
事が動き出すとのんびり買い物もできないし、ゴーストシップを制圧した後はおそらく軍に全権を委譲してそのままコロニーを出ることになるだろう。
そうなる前にしっかり買い物を楽しんでおきたいという彼女たちの願いを叶えるためとは言え、なんとも緊張感のない感じだなぁ。
因みにここは例のショッピングモール、いわくつきの場所ではあるけれど俺を誤認逮捕した張本人はコロニーからの出発に備え諸々の物資などをソルアレスに搬入してくれている。
何にでも使ってくださいと行っていたようにあれから色々と動いてくれているのだが、彼女的にも警備より今の仕事が性に合っているのかこの件が終われば部署移動をボッシュさんにお願いするそうだ。
「さて、俺達も行くか」
「そうですね」
「とはいえこの先にあるのはジャンク屋、決して小綺麗場所じゃないぞ?」
「何を誤解しているかわかりませんが別に小綺麗な場所に行きたいわけじゃありませんよ?」
「そうなのか?」
「私だってジャンク屋にはいきます。むしろ下手な服屋に行くぐらいならそこに行った方が面白いと思っているぐらいです」
宇宙軍の中佐ともあろうお人をジャンク屋に連れて行こうってのがそもそもあれなんだが、本人たっての希望であれば拒む理由はない。
しかし、天下の宇宙軍中佐がジャンク屋好きとはいい趣味してる。
前回行った時も中々いい品を見つけることが出来たので今回もそれに期待しつつ奥のジャンク屋へ移動、さっきまで仏頂面だった中佐だが、自分で言うだけあってすぐに目を輝かせた。
「それじゃあここからは自由時間で」
「貴方は何を見るんですか?」
「旧シップメーカーエンブレムを探しているんだ。他にも見た目が良さげなパーツとかオーディオチップなんかもあれば。そっちは?」
「私は大開拓時代のシップパーツです」
「こりゃまたレアなもの探してるな」
「あの時代の品は今に無い自由さを持ち合わせていますから」
その辺の理由はよくわからないけれど本人にしかない楽しさがあるんだろう。
ジャンク屋のおやじに挨拶をしてこの前のように棚の一つ一つをチェックしていく、あれからそんな時間は経っていないのに中身が全部入れ替わっているんじゃないかってぐらいに新しい物が増えていた。
よくまぁこんなに集まるもんだ、手を廃油で汚しながら一つ一つ確認しては棚に戻すのを繰り返す。
残念ながら今回はあまりエンブレムを見つけることはできなかったけれど、代わりに結構古い日用品なんかが多く転がっていた。
片方しかない通信モジュール、旧型の合成機、オーディオチップなんかはよくわからない音楽が入っているので案外マニアに人気があったりするんだよな。
後は使い終わったエネルギーチャージャー、これまで多くの企業が自社独自のデザインで作り続けているのでこれも結構人気がある。
稀に過充電されている奴もあるから注意が必要だけど、案外そういう物に限って希少元素を使っている場合があるから金になったりするらしい。
まぁ爆発するようなものを部屋に置くことはできないので今回はノータッチだ。
「お?」
探し始めて二時間ほど、途中休憩をはさみながら棚を漁っていると見たこともない物を発見した。
キラキラと輝く水晶が複数重なり合ったような不思議な物体が二本、小型の通信装置にぶっ刺さっている。
大きさは手のひらからちょっとはみ出すぐらいだが、オブジェとしてかなりポイントが高い見た目をしている。
「これは・・・」
「それは多重水晶を使った携帯用通信装置です。開拓時代には多層構造の水晶共振体を用いて異なる周波数帯を同時に震わせ、多次元の振動処理を行っていたんです。現在は量子同期型が使われていますからお役御免になりましたけどこの重なり合った水晶がきれいですよね」
「という事は目的の時代の物なのか?」
「そうですがそれはもう持っているんです。でも、それがあるという事は一緒に使う多重水晶共鳴管があるはず、もし見つけらた教えてください」
なるほど、通信装置だったのか。
今でさえ当たり前のように長距離間の通信を行っているけれど、大昔はそれがかなわず通信が行き来するのに数か月長ければ年単位のロスがったんだとか。
それを解消するために研究が続けられ、この多重水晶が生まれ現在の量子同期水晶体にバトンが渡ったという感じなんだとか。
こんなのにも精通しているとは、好きだというだけのことはある。
それからしばらくは同じような場所でジャンク品を漁りつつ、わからないものは中佐に聞くという作業を繰り返した。
同じように見えるものでも異なる技術で作られているのがこの時代のいい所だと熱く語る姿はまるで子供のよう、もともと見た目が幼いだけにどうしてもそういう風に見えてしまう。
「さて、とりあえずはこんなもんか。そっちは・・・って多いな」
「そうですか?」
「それ全部持って帰るのか?」
「そちらの船においてもらうのは申し訳ないのでここから基地に送ってもらいます。でもいくつかは手元に置いておくつもりです」
因みに彼女の持っていたかごには山のようなパーツが放り込まれていた。
ジャンク品とは言うけれど物によっては結構な値段になることがある、宇宙軍って金持ってんだなぁ。
「そんなに気に入ったのか」
「残念ながら目的の物は見つかりませんでしたが、代わりに当時のアーカイブボックスをいくつか手に入れましたのでそれを解読しようかと」
「アーカイブボックス?あれってやばいウイルスが入ってたりするやつだろ?」
「それに関しては貴方のヒューマノイドに確認してもらってから開けるつもりですのでご安心を」
「アリス任せかよ」
「私も命は惜しいですから、その代わりゴーストシップに対抗するための情報が手に入るかもしれませんし」
「と言いつつ、大昔の誰かが残した秘密を見たいだけだったりして。ほんと、良い趣味して・・・」
「なにか?」
「別に?」
人の趣味にとやかく言うのはマナー違反、うちの骨董品はそれとガン無視してくるけれどもその辺はわきまえているつもりだ。
なるほど、この間アリスがナディア中佐のプライベートデータベースにハッキングを仕掛けて見つけたのはこれだったのか、何を見たのかは教えてもらえなかったけれどなかなかのものが入っていたんだろう。
触らぬデバイスにエラーなし、ということでこれ以上は触れないことにした。
後は会計をして戻ればいい感じの時間だろう。
今回の買い物は全部で4万ヴェイル、昔からすればかなりの大金だが今の俺にはそこまででもない。
中佐?
さぁ、知らないなぁ。
「そうだ、思い出した」
会計も終わり、さぁ戻ろうかと思ったところで店主に呼び止められた。
薄汚れたカウンターの下を漁り出てきたのは一枚のプレート。
「この間エンブレムを探していると言ってたね、よかったらこれを持っていくといい」
「これは?」
「大開拓時代にやってきた船から見つけたものだよ。どこのメーカーかはわからないけど、船体の一番正面についていたらしい。たくさん買ってくれたお礼だ」
「ありがたい、大事にするよ」
「それと、さっきの多重水晶だけど今の通信規格と違うからそのまま使っても反応しないよ。変換器を使って合わせることもできるけど、同波長の水晶共振体を探すならそのまま使うと見つけやすいし稀にそれを使って通信を試みている人もいるからもしかしたら繋がれるかもしれないね」
わざわざこの時代の物を今の波長に合わせる必要もない、これにはこれの良さがあるんだからそのままで楽しむべきだろう。
まぁ俺は部屋のインテリアにするつもりだから縁はないかもしれないけど。
「いい物を貰いましたね」
「あぁ、中佐も満足できたようで何よりだ」
「基地にいるといつも同じジャンクヤードにしか行けないので良い機会になりました」
こうしてナディア中佐とのジャンク屋めぐりというなんとも珍しイベントは大好評のまま幕を閉じたのだった。




