120.久々に船が戻ってきて
あれから一週間が経過した。
偽の情報を信じるルークさんの監視を受けながらナディア中佐とも連絡を取り合いゴーストシップ対策を確実に進めていく。
明日にはこっちに着くという事なのでそれから実物を探しに行くことになるけれど、何とかそれよりも先に当初の目的が完了した。
「あ!あそこにありますよ!」
「見た目はあまり変わりないですけど、全体的にちょっと長くなってますね」
エドさんから連絡を受けて向かったゼルファス・インダストリーのドック、毎日のように活躍してくれている白鯨の横に見覚えのある船が泊っていた。
遠くからでもわかる独特のフォルム、ローラさんの言うように全体的に長くなっている感じだが雰囲気はあまり変わっていない。
ひとまず近くまで行くと船の横で待機していたエドさんが深々と頭を下げた。
「皆様ようこそお越しくださいました」
「なんとか予定通り、って感じだな」
「大変お待たせして申し訳ありませんでした、お約束通りの仕上がりになっていますでしょうか」
「それは中を見てから判断します、マスター最初にどうぞ」
「いいのか?」
「マスターの船ですから当然です」
俺だけの船じゃないけれども、一応船長は俺ってことになっているのでその栄誉を甘んじて受けようじゃないか。
お馴染みの入り口に手をかざすとプシュっというエアー音の後スムーズに扉が開いた。
この辺は前と変わらない感じ、廊下もさほど変化ないように見えるけれども心なしか距離が長い。
そのまま奥へと進み、各自思い思いに中を探索していく。
「確かに広くなってるな」
「キッチンにも新しいテーブルが置けますし、個人用の部屋も四つあります。これだけでもかなり広くなったってわかりますね」
「コックピットは変わりなし・・・あれ、椅子が新しくなってる!」
「よくお気づきになりましたね、少々傷んでおりましたので各シートすべて張り替えさせていただいております」
「スキャンしてみましたが継ぎ目はほとんどわかりませんでした、これがゼルファス・インダストリーの技術力というわけですね」
「お褒めにあずかり光栄です」
これまで俺の分しか個人部屋がなかったけれど、これでイブさんとローラさんも安心して生活できるようになるだろう。部屋の中も広くなっているので色々と私物を置いても問題はなさそうだ。
アリスは個室を使わないそうなので、空いている部屋は護衛任務を受けた時に使う客用という事になった。
後はキッチンの増設とシャワールームの新設、メディカルポットを置いた専用の救護室もハンガーの近くに設置されるなどかなり手が加えられた感じだ。
普通に増設するだけでは難しいけれど、一度切断して任意の大きさにするのがゼルファス・インダストリーにしかできない特別な技術。
まぁ、こまごまとした部分は後で変更されてしまうけれど、大枠の部分はそのままになるので乗り換えずに拡張できたのは非常にありがたい。
ハンガーの容量も二倍以上になったので、白鯨並みとは言えないもののその半分は運べんじゃないだろうか。
この大きさがあれば例のコンテナを運び込んでも十分スペースがある。
「いかがでしたでしょうか」
「この短期間によくここまで大きくしてくれた、完璧だ。燃料も満タンにしてくれているしいう事なしだな」
「はぁ、よかった。これで私も肩の荷が下りましたよ」
「ぶっちゃけこれだけの改造ともなると当初の予算よりも足が出たんじゃないか?」
「正直なところかなり出ています。しかしながら皆様が白鯨と共に仕事をこなしてくださったおかげでそれを補填するだけの利益は出ていますので請求額に変更はありません。まさかあの船を乗りこなせる人がいるとは、友人も現役当時と変わらない雄姿を見れたと非常に喜んでおりました」
確かにオートパイロットもないあの船を自由に操縦できるのはローラさんぐらいなもんだろう、もちろんシップメーカーが集まっているだけに探せば他にもいるだろうけど実用的に運用できるかと聞かれると話は別だ。
ローラさんの場合明らかにセンスが違う、いくらアリスがすごくてもハッキングしきれないぐらいに古い船を自由に動かすのは難しいからなぁ。
「そりゃ何よりだ。俺達もあの船のおかげで随分と稼がせてもらったが・・・流石に二機を運用するだけの予算はないからなぁ。支払いはどうすればいい?」
「こちらの受取書類に署名していただいてから24時間の猶予期間がございますので、問題がないことを確認の上お支払いいただければ大丈夫です」
「いや、すぐに払わせてくれ。アリスにも確認してもらって瑕疵は確認できなかったってことは大丈夫ってことだ」
「こちらとしては急いではおりませんが・・・いえ、それが皆様の誠意という事ですね」
「まぁそういう事だ。今回色々あってこういう形の受注になったが、結果任せてよかったと思ってる。これだけの短期間にこの仕上がりだからな、ボーナスとか出すのか?」
「それは上が決めることですので」
「じゃあ個人的に渡す分には問題ないだろ?アリス支払いを頼む、二割追加で」
「かしこまりました。エド様、端末をお願いします」
いい仕事にはいい報酬を出すべき、それが俺の考え方だ。
前職でも仕上がりがきれいだからとボーナス的な物を貰えた時は非常にうれしかったし、それがモチベーションにもつながったのは間違いない。
これだけの仕事をしてくれたのだから支払うのは当然の事、元々2000万も値引きしてもらっているし例のコンテナを無断で回収しているのでその分の代金と思えば安いもんだ。
エドさんが端末を操作し1200万ヴェイルの支払いが完了、これを見ると改めてこの間の弾丸惑星探索ツアーがぼった喰っているかがよくわかるなぁ。
代金は支払ってないけど、たった数時間の滞在と同額で船を買えてしまうわけだろ?
ぼろい商売というかなんというか・・・。
いや、それに見合うだけの投資をしているんだから当然と言えば当然か。
「確かに確認いたしました、この度はゼルファス・インダストリーをご利用いただき誠にありがとうございました」
「白鯨の持ち主にもよろしく言っといてくれ。それと、今後もこのドックはつかってもいいんだよな?」
「皆様が滞在される間はどうぞご利用ください」
「あと一週間ぐらいで出ていくからそれまで遠慮なく使わせてもらおう。代金は支払うから補給とかもお願いしていいか?」
「それぐらいでしたら・・・いえ、格安でお受けいたします」
「とりあえず今日は預けておいたコンテナを中に運び込んで、それから荷物の整理か。これだけで1日終わりそうだなぁ」
「では皆様私はこれで失礼いたします。ホテルは明日まで利用できますので最後の夜をお楽しみください」
「了解、オルドさんにもよろしく伝えておいてくれ、良い仕上がりだったってな」
「かしこまりました」
支払いが終了したという事はホテル住まいも今日で終了、明日からはソルアレスでの寝泊まりになる。
名残惜しい感じはあるけれどいつまでもあんな生活してたら元に戻れなくなるからなぁ。
「さて、あとは運ぶもん運び込んで明日を待つだけか」
「燃料も満タンですし外部はそのままで行けそうですので明日にはエンジンを含め、すべての改良が終了するでしょう。今であればベッドの硬さから必要な装置まで最新の設計図を使って導入することができますが皆様いかがされますか?」
「え、ライティングとかも変更できるんですか?」
「もちろんです」
「俺はせっかく買ったコレクションを入れる棚とかが欲しいから内装の変更をしてもらおうか。ベッドの位置も変えたいし・・・こりゃ大変だぞ?」
「もちろん今日中に全て決めろというわけではありません、小さな変更でしたら日を改めて行うことができますのでご安心を。イブ様、カーゴが広くなりましたのでご希望のトレーニングルームの他に銃座回りも改良できます。ちょうど宇宙軍から拝借した新装備の設計図もありますから色々と改良できますよ?」
もしかして前にナディア中佐の所に入り込んだのはこれが理由だったんだろうか。
再整備システムと内部進化シークエンスというぶっ飛んだ技術があるからこそできる荒業、プロトタイプとはいえもしこんなのが実用されていたら今頃シップメーカーはこれだけ栄えていなかっただろう。
マジで化け物みたいな船、マジで親父に感謝しないとなぁ。
そんなわけで久々に戻ってきたソルアレスの最終整備に向けて各自準備を始めるのだった。




