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35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する   作者: エルリア


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119.腹の探り合いをして

「ではマスター、ご武運を」


アリスに見送られて白鯨を後にした俺が向かったのはノヴァドッグ第二ブロック。


大人な男女を楽しませる店がいくつも並ぶそのエリアで一際輝いているのが、先日訪問したスペースバニーだ。


本当なら前回と同じくお楽しみを・・・と行きたいところなのだが、今回の目的はそうじゃない。


これから行くのは俺の戦場、百戦錬磨の相手に俺の口車がどこまで通用するのかわからないが必ず勝たないというわけではないので気楽にいかせてもらうつもりだ。


そこに行くことにこそ意味がある、そんなわけで昼間っから歓楽街を抜けてエリア一番店へと到着した。


相変わらず強面な方が入口を守っているけれど、二度目の訪問ともなると多少愛想もよくなるのか睨まれることもない。


もしかすると顔認証で何回目の訪問とか表示されているのかもしれないな。


「これはこれはトウマ様、ようこそお越しくださいました。今日はどうされましたか?」


「前回のかなり楽しませてもらったからルークさんにお礼をと思ったんだが、コンタクトを取ってもらうことはできるか?」


「生憎とお忙しい方ですから・・・少々お待ちいただけますでしょうか」


「時間はある、ゆっくりやってくれ」


店に入るなり前回担当してくれた黒服の男性が営業スマイル全開で近づいてきた。


また遊びに来たんだろうと思っていたかもしれないが、生憎とそういうわけじゃない。


一応ルークさんの紹介で来ているので無碍にされることもなく、別室で待つこと十分ほど、短いホロ動画を見ながらくつろいでいるとまさかのご本人が登場した。


「やぁ、あそこ以来だね」


「まさかこんな場所で再開できるとは思わなかったが、お元気そうで何よりだ」


部屋に入ってきたルークさんは相変わらずの飄々とした感じで、例の黒服の人を部屋の外に待機させ対面のソファーに腰かけた。


この人がこの第二ブロックを牛耳っているドン。


アリス曰く色々と黒いこともしているらしいけど、俺が許容できる範囲の黒さだったのでそこまで怖くはない。


薬とか人身売買は最悪だが、それ以外のはこういう店を運営するのに多少必要なんだろう。


「うちの店は気に入ってもらえたかな?」


「あぁ、最高だった。最高すぎて今度はツケで遊ばせてもらおうかと思ったんだが、残念ながら別件なんだ」


「別件?」


「前に教えてもらった例の噂だが、あれを動かしているのはルークさんだよな?」


ドストレートな問いかけに一瞬彼の動きが止まる、だがそこは百戦錬磨?なだけに表情を崩すことはなかった。


「どうしてそう思ったんだい?」


「どうして?だってあの後すぐにヒューマノイドに遭遇したし、言われた通りにマシンオイルを置いたら例のブツも手に入った。まさかあんなな情報だとは思わなかったが、全部ルークさんが手配したんだろ?」


「うーん、何のことだかさっぱり。僕はただあの噂について知っていることを伝えただけだよ。それよりも本当に遭遇したんだね」


「遭遇した?意図して会わせてくれたんだろ?」


「さっきも言ったように僕は知っていることを伝えただけだよ」


笑顔を崩さずにそういいはるルークさん、この辺の反応はアリスと打ち合わせた通りだ。


真面目な話をしつつバカみたいな理由を言うと途端にごまかしてくるはず、向こうのガードを崩すためにはいきなりストレートを出しても意味がないので緩急をつけながら確実に真実を突き付けていく。


本当はアリスが行くべきなんだろうけど、下手に行くと警戒されてしまうので顔の割れている俺が行くことになった。


「うーん、それはおかしな話だな。あのヒューマノイドが出る排気エリアはルークさんの知り合いが管理している場所だし、あそこに監視カメラの設置したのはスペースバニーのはず。なんなら例のデータチップへ最後に情報を書き込んだのは第二ブロックのサーバーでIPを見る限りスペースバニーの地下っぽいんだけど・・・本当にルークさんじゃないのか?」


「・・・一体何を言いたいのかな?」


「いや、もしルークさんが情報源なら安心して情報を回せたんだが、違うみたいだからもう一度他を当たってみる。呼び出したのに変なこと聞いてすまなかった、ちゃんと遊んで帰るから許してくれ」


この辺は全部アリスが調べ上げたもの、出所がわからないよう巧妙に細工されていたらしいけど、彼女の手にかかればこんな感じだ。


たとえ巧妙に隠されていても星間ネットワーク上の情報はすべて彼女の手の中、それこそオフラインストレージかこの前のようにアナログで管理しない限り確実に真実へとたどり着くだろう。


もちろんそれを突き付けても認めるかどうかはわからない、だが俺達がその情報に到達できるだけの力があると知らしめればイヤでも動いてくれるはずだ。


今回ここに来たのはまさにこのため、『俺は知っているんだぞ?』みたいなスパムじみたメッセージを送るよりも直接伝えた方が効果は高い。


「まったく、君は僕が思っていた以上に食わせ者みたいだねぇ」


「お褒めにあずかり光栄だよ」


「知っての通りあのヒューマノイドもあのチップも僕が用意したものだ。君はそれを手に入れ、中身を確認し、そして行動に出た。悪いとは思ったけどこっちでも色々と動きは確認させてもらっていてね、僕の思った通りに動いてくれて感謝しているんだ。それで、どんな情報を持ってきてくれたのかな?」


隠す必要が無くなったからか、ルークさんは脱力しながらソファーの背もたれに体を預ける。


お互いに手の内は分かっているだけにこれ以上の探り合いは不要だと判断したんだろう、後は向こうがどこまで俺達の動きを把握しているか、これに関しては探りを入れる必要がある。


「どこまで知られているかはわからないが、ゼルファス・インダストリーにはもう話をつけてある。新規格に関しては流石にすぐというわけにはいかないけれど、試作品程度であればそう時間もたたずに作れるはずだ。あとはルークさんがそれをどう使うかだけ、試作品が出来上がり次第設計図を例の場所に置くからあのヒューマノイドに確認してもらってくれ」


「おや、もうそこまで話が行っているんだね」


「元々ゼルファス・インダストリーは普通と違う物を作ることに特化しているからな、あのオルドさんもやる気だったからそう時間はからないはずだ」


「確かに、あんな機体を作れるぐらいだからね」


やはりルークさんは例の試作機についても知っているようだ。


あれだけ副社長が隠したがっていたのに案外情報が流出するのも時間の問題だったのかもしれない。


もしかするとゼルファス・インダストリーとも裏でつながっているかもしれないけれど、なんにせよ今のやり取りで確信した。


ルークさんは偽の情報を信じている。


ゼルファス・インダストリーに話をしているなんてのは真っ赤な嘘、これはアリスが偽装した情報で、それを流出先と思われる相手に流しただけだ。


それをあたかも本物として信じているあたりこちらの方がまだまだ上、やはり情報戦ではアリスにはかなわないみたいだな。


そしてこのやり取りでもう一つ分かったことがある。


これに関してはもう少し様子を見る必要があるけれど、どうやら俺達はとてつもなく大きな話に巻き込まれているらしい。


それもこれもあの試作機を拾ったから。


それによって得られたプラスも多いので文句は言わないけれど、勝手に巻き込まないでほしい物だ。


その後はあたりさわりのない話をして話は終了、かくして俺の戦いはこちらの勝利で幕を閉じたのだった。


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