109.警備員に取り押さえられて
「マスター、今何をしておられますか?」
思い立ったらなんとやら、モールの奥まで移動しジャンク屋にしてはこぎれいな店だなと思って入ったら中はごちゃごちゃの宝探し状態、そうそうこういうのでいいんだよと夢中になってお宝を探しているところへアリスからの通信が入ってきた。
ハッと我に帰り古オイルのついてない小指で通信を受信する。
「モール最奥のジャンク屋で買い物中だ」
「場所は存じていますが・・・何か作るんですか?」
「そういうわけじゃないがまぁ色々な」
「もうすぐ買い物も終わりますのでそろそろお戻りください」
「いい物は買えたのか?」
「それはもう、希望通りセクシーなのを皆さん選ばれましたから楽しみにしてくださいね」
いや、楽しみにしてくださいねってさも当たり前のように俺の情報を共有するんじゃねぇよ。
っていうが何がどうセクシーなんだ?
一方的に通信が切られ、ため息をつきつつ発見したエンブレムを手にカウンターへ移動。
これだけ買っても5000ヴェイルとか安すぎだろ。
「毎度あり」
「ここにきて間もないんだが、ここ以外にこんなのを扱ってる店を知ってたら教えてくれ」
「旧エンブレムを集めるたぁお前さんいい趣味してるな。そういうのが好きなら第8ハンガー近くのジャンク屋に行くといい、あそこはうちと一緒で店が狭くて大きいのを扱えないから似たようなもんが置いてあるはずだ」
「そりゃいい、今度行ってみよう」
「大航海時代の開拓船の奴があったら拾っとけよ、物によっては10万はするからな」
「マジか」
「俺も一時集めてたんだ、そして気づけばこんな所で店をやってる」
俺からすればいい趣味だと思うが、一応忠告として聞いておこう。
合流する前に古オイルを洗い流してからアリス達と合流するべく来た道を戻る。
今日は中々いい買い物ができた。
部屋が狭いとこういうのを買うのも躊躇してしまうが、それも解消されるわけだし、何より文句を言う人もいないのでこれからは好きなようにやらせてもらおう。
エンブレムの他にも小型のエネルギーセルとかは色や形が豊富だし、旧型のインターフェイスチップは古めかしい感じがまた面白い。
そういやあそこにはアナログ音源のチップがあったな、再生機がないと聞けないけどアリスに言えばもしかしたら復活できるかもしれない。
ジャンク品は夢の塊、昔より自由に使えるお金があるだけに収集もストレスなく楽しめそうだ。
そんな感じで気分よく鼻歌を歌いながら歩いていると、端の方を一人の少女がうつむきながら歩いていることに気がつた。
年はまだ一桁台、比較的安全なモール内とはいえこの前のような事件を知っているだけについ目で追ってしまう。
親はいないし、この先はあのジャンク屋があるだけで子供の来る場所でもない。
ここで声をかけるべきかはたまたスルーするべきか・・・。
「おい、どうした?」
「?」
ふと例の事件が頭をよぎり、踵を返すととぼとぼと歩く少女に声をかける。
ビクリと体を震わせてこちらを見る少女、すぐにしゃがみ目線を合わせてやると少しずつ目を合わせてくれるようになった。
これも前職で覚えた知識、残念ながら元嫁とは子宝に恵まれなかったけれど稀に客が連れてくる子供と遊んだりしていたのでその時の経験が役に立ったようだ。
「名前は?」
「・・・」
「俺はトウマだ、名前を聞いてもいいか?」
「・・・リリィ」
「いい名前だな、一人で来たのか?」
ふるふると首を横に振る少女、受け答えや話し方から察するに学校には行っているだろうけどそんなに上の学年ではなさそうだ。
身なりはそこそこ、当たり前だが一人で来たわけじゃないようなので迷子か何かなんだろう。
「この先にはジャンク屋があるだけで誰もいないぞ、俺と一緒に行くか?」
「・・・」
「母親が探してるかもしれないぞ?」
「・・・うん」
「わかった、ちょっと待ってろ」
一応了承は取り付けたので急ぎコンソールに手を伸ばしてアリスを呼び出す。
「アリス、緊急事態だ」
「どうしまし・・・おや?誘拐ですか?」
「だれが誘拐か。迷子になったらしい、そっちでどの辺りではぐれたのか確認できないか?とりあえずカスタマーに連れていくつもりだ」
「かしこまりました。急ぎ解析してこちらも警備に連絡を入れておきます」
監視カメラの映像を追えばどのへんではぐれたのかすぐにわかるだろう。
もちろん俺が誘拐したわけじゃないこともそれで証明できるはず、アリスがすぐに誘拐だと聞いてきたという事は少女と一緒なのを確認できたという事だろう。
このご時世何を言われるかわからないからな、自衛はしておくべきだ。
「お待たせ、今母親を探してもらってるからすぐに見つかるだろう」
「ママに会える?」
「そりゃ会えるさ、だから安心して向こうに戻るぞ」
「・・・うん」
そんなわけで少女の手を引いてきた道をゆっくりと戻る。
人差し指を伸ばすとおずおずという感じではあったがしっかり握り返してきた。
子供がいるとこんな感じなのかとか一瞬考えてしまったが、まぁ縁のない話だ。
五分ほど歩くと少しずつ人の数が増えてきたが、通り過ぎる人通り過ぎる人に奇異の目を向けられる。
そりゃ顔も似てないし何なら泣きそうな顔をしているから怪しい感じに見えるかもしれないけど、別に悪いことをしているわけじゃないので堂々としていればいい。
それに、これだけ時間がたてばアリスが母親を探し出しているはず。
今頃本人に連絡を入れていることだろう。
そんな気楽な感じで戻っていたその時だ、前から警棒を持った警備員が向かってくるのが見えた。
どうやら迎えが来たらしい。
挨拶をするべく手を握っているのと反対の手を上にあげたその時だ、突然その警備員が腰に手を伸ばしたと思ったらホルスターに入れられていた銃を素早く抜いて俺の方へとむけた。
「今すぐその子を離しなさい!」
「おいおい、俺は何も・・・」
「いいから早く!」
弁解の余地も与えられず鋭い声で命令してくる女性警備員、抵抗するとめんどくさそうなので上げていた手をそのままにゆっくりと少女の方を見る。
彼女もまたどうしたらいいのかわからないという感じだったので、静かに頷き指をゆっくりと抜いて向こうに行くように促した。
「さぁ、早くこっちへ!」
警備員にも呼ばれポテポテと走っていく少女、何事かと人が集まってきたがとりあえず抵抗せずに静かにしておこう。
俺の無実はアリスが証明してくれるはず、少女を保護した警備員は両手を上げる俺に銃を向けながらゆっくりと近づき。後ろに回ると膝を蹴飛ばして無理やり膝立ちにさせてきた。
そのまま床に押さつけられ後ろ手に電子錠をかけられる。
「やっと姿を現したな誘拐犯。お前には少女連続誘拐の容疑がかけられている、たとえ黙秘しようとも私がその口を割らせてやるから覚悟しろよ!」
「いったい何の話だ?」
「この場に及んでしらばっくれるな!」
「別にしらばっくれているわけじゃない。俺は抵抗しないし連行するならすればいい。ただし、俺が無実だった時に自分がどうなるかよく考えた方が・・・」
「うるさい!もうしゃべるな!」
胸ぐらを掴まれて起こされたかと思ったら、今度は床に叩きつけられ頭を思い切り押さえつけてくる。
余りの痛さに苦悶の声が漏れるも抵抗すればもっと痛めつけられるのは間違いない。
たとえ自分が冤罪だとわかっていても変に抵抗しないほうが身のため、そうわかっていてもこの理不尽な状況に怒りが湧き上がってくる。
俺はただ迷子を助けただけなのに。
それから数分間、アリス達が向こうから走ってくるのが見えるまで湧き上がる怒りを静かにおさえつづけるのだった。




