107.噂話を追いかけて
「ゴーストシップねぇ」
「突然目の前に現れては消えるっていう話だ。カメラには一切映らずそれでいてその場にいた全員の記憶にはしっかり残ってるらしい」
「何かするのか?」
「いや、現れては消えるただそれだけ、だからゴーストって呼ばれてるのさ」
傭兵ギルドで話を聞いていると面白い噂を耳にした。
酔っぱらいの他愛のない話なら聞き流しもするのだが、まだ酒も入っていない複数の傭兵から同様の話が上がったとなれば話は別だ。
別にその真意を問いただすつもりは端からないけれども、このご時世に幽霊ねぇ。
「どう思う?」
「それらに関する書き込みもここ二か月で上昇しております。しかしながら撮影された事実はなく、形状なども不鮮明で聞く人聞く人違う答えが返ってきているようですね。一説によれば集団洗脳もしくは集団錯覚ではないかともいわれていますが、医療ポッドでスキャンしても異常は見つからなかったとか」
「映像記録が残らないってのは?」
「特殊な電子ジャマーを使用しているという可能性はゼロではありませんが、情報提供者の一人に軍関係者がおりまして。彼らの目には特殊なセンサーが入っていますのでそれに映らないというのは今の技術的に考えにくいかと」
噂を収集しながら同時並行でアリスに星間ネットワークに転がっている情報を探してもらったのだが答えは同じ。
傭兵の戯言かと思いきやそこそこの件数がネットワークに上がっていることを考えるとあながち嘘ではなさそうだ。
「どこの部署かは知らないが、ともかく軍の最新技術をかいくぐってってのは難しいわけか」
「そういう事です」
「んー、とりあえずこの件は保留だな。ほかのやつはどうだ?」
「『排気エリアに出没する顔のないヒューマノイドが闇品を販売している』『25区画の奥にはアンティークヒューマノイドが眠っている』あとは『輸送コンテナの中から物品が忽然と消える』の三つですが、正直どれも眉唾物かと」
「調べるとそもそも25区画なんてないし、排気エリアなんてありすぎてどこの話かなんてさっぱりわからない。しかも顔のないヒューマノイドなんてただの整備不良だろ?最後のなんて誰かが盗んだだけじゃないのか」
「それに関してはなんとも。ネットワーク上の情報収集は継続いたしますので面白いものがありましたらご報告いたします」
ま、どれも噂話だしそこまで真剣に考えるのもばからしい。
人が多ければ多いほど噂というのは増えていくもの、99%が作り話もしくは終わった話というのがほとんどなのでそこまで気にするものでもない。
さて、今日やるべきことは終わったしあとはホテルに戻って飯の時間までゆっくりするだけ・・・。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、今そこの通路に顔のないやつが入っていったような・・・」
大通りを歩いていると少し先を歩いていた白いローブ姿の人物がすぐ横の路地に入っていくのが見えた。
曲がる際に深くかぶったフードの隙間からわずかに見えたのは真っ白い顔。
顔といっても目も鼻も顔を形成するパーツが何もなく、のっぺりとした感じだった。
まるでさっきの噂話に出てきたような奴だったが、まさかな。
「それはさっきの噂話の続き・・・いえ、確かにいますね」
「だよな!」
「監視カメラの映像に映っています。そしてあの路地の先にあるのは排気エリアです」
「よし!引き続き監視を継続、イブさん達には遅れるから待てなかったら先に食べておいてくれって連絡しておいてくれ」
「かしこまりました」
所詮噂話と思っていたのにそれを証明するような奴が目の前を通ったんだから追いかけない理由はない。
確か闇品を売ってるんだったか?
路地にはあまり監視カメラがないようだけど、リアルタイムで確認してもらいながらそのあとを追いかけていく。
角をいくつも曲がり薄暗くなってきた所で、パッと視界が開け見えてきたのは何本もの排気塔。
超高密度フィルターにより有害物質は除去されているものの、蒸気を含んだ白煙がコロニーの上部へと流れていく。
このどこかに例のヒューマノイドがいるはず、だが探せど探せどそいつの姿はどこにもなかった。
「おかしいな」
「監視カメラの映像では確かにこの先へと向かったようですが、残念ながらその先にカメラはなく確認ができませんでした」
「うーん、こっちはカメラにも映ってるし俺も実際に確認してるからなぁ」
「もう少し探しますか?」
「いや、とりあえずこのぐらいにして戻ろう」
「よろしいのですか?」
「カメラでどういう見た目かは確認できただろ?引き続き警戒しつつどこかに映ったら追跡、とりあえずいるという証拠を集めよう」
知らない街であまり深追いしてよろしくない連中に絡まれるのもうれしくない。
俺がイブさんみたいに強ければなんてことないのだが、残念ながらそうではないので慣れるまではおとなしくしておこう。
そんなわけで再び大通りへと戻り、予定よりも五分ほど遅れてホテルに到着。
てっきり先に行ったかと思っていたのだが、エドさんと話をしながら待っていたらしい。
「悪い、待たせた」
「大丈夫です。でも何かあったんですか?」
「ちょっとな。その辺の話は飯を食いながらでも話そう。エドさん、店は近いのか?」
「ここから歩いて数分の所にございます。まだ時間はありますがもう向かわれますか?」
「せっかくだし早めに行ってゆっくりさせてもらおう」
折角の超高級レストランだからな、せわしなく食べるのももったいない。
そんなわけでエドさんに連れて行ってもらったのは本物のステーキが食べられる本格レストラン、一般人は決して入ることができず、貴族かよっぽどの金持ちしか利用ができないような店。
しかもそこの個室を手配するんだからすごいよなぁ。
「ここ、無茶苦茶高いんじゃないか?」
「私も利用するのは初めてですが一人50万ヴェイル程となっています」
「・・・マジで?」
「もう少しお高いコースもありましたが、残念ながら予約なしでは難しいためこちらの価格しか用意できませんでした、誠に申し訳ありません」
この間惑星に滞在した時にはもっと高価なものを食べていたはずなのに、いざ値段を出されるとビビってしまうあたり俺もまだまだ貧乏人だなぁ。
流石のローラさんもイブさんも緊張した様子だったが、いざ料理が運ばれてくるとその見た目と味に大喜びしていた。
特にローラさんは初めて食べる本物の肉、目の前の鉄板で焼かれる様子に感動のあまり泣き出してしまったぐらいだ。
気持ちはわかる、一生こんなもの食べる機会はないと思っていたからいざ目の前に出てくると感情の制御ができないんだよな。
「なるほど、そんなことが」
「ただの噂話かと思っていたんだが、不思議なことはあるもんだ。エドさんは何か知らないか?」
「生憎とそちらの話には疎くて。ですが、ゴーストシップの件は私も聞いたことがあります」
「なるほどなぁ。また何かわかったら教えてくれ」
「かしこまりました」
それなりにお腹も膨らみ、デザートを待ちながら先程の件についてエドさんにも聞いてみたのだが答えは同じだった。
正体不明のゴーストシップそして闇品を売りさばくヒューマノイド。
ただの工業惑星と思いきや、他にも色々と面白いことがたくさんありそうな感じだ。




