106.別の場所でも顔を覚えられて
「また、お待ちしております」
ギルドの外にまで出て深々と頭を下げるハルアさんに見送られながら輸送ギルドを後にする。
後半は何を話しているかさっぱりわからなかったけど、とりあえずいい感じの仕事を回してもらえることになったらしい。
もちろんそこには男爵の威光や中佐の権力は噛んでいない、あくまでも俺達の実力と実績から得られたものであってその辺は誤解のないようにしておかなければならない。
どの仕事も舐められたら終わり、あいつは権力で仕事を取ってきているとか思われたくないしな。
「お綺麗な方でしたね」
「ん?あぁ、そうだな」
「立ち振る舞いも素敵でしたし、雰囲気もマスター好み。少々胸は小さめですがお尻は満点じゃないでしょうか」
「いやいや、そんな目で見てないから。っていうか初対面でそんな風に見たら失礼だろ」
「じゃあ見なかったんですか?」
「・・・少しは?」
「正直で結構」
そりゃ男なんだから好みの女性がいたらどうしても見てしまうだろ、そういう生き物なんだから!と反論したところで冷めた目を返されるだけなので何も言わないでおく。
とりあえず輸送ギルドへの挨拶は終わったので引き続き傭兵ギルドに向かって手続きを終わらせてしまおう。
大通りをそのまま北上、俺達が船を停めたのとは反対側のハンガーにほど近い場所にギルドはあった。
輸送ギルドと違って華やかさはないものの、大きさは中々のもの。
だが出入りしている面々はどこも同じようだ。
自動ドアではなく手動のスイングドアというホロムービーでしか見たことのないような入り口を抜けると、薄汚れた木造風の内装が目に飛び込んできた。
流石に前の惑星で見たような本物の木材は使っていないけれど雰囲気は中々のもの、そして向けられる視線もまたお馴染みの感じだ。
「なんだぁ?ひょろいのがセクサロイド連れてきたぞ、遊ばせてくれるのか?」
「やめとけよあんなひょろひょろの体、締りはいいかもしれないが揉みごたえないぞ」
「そうそう、やっぱり女は出るとこでとかなきゃなぁ」
向けられる侮蔑交じりの視線と言葉を全て聞き流し、というか存在を無視してカウンターへ。
多くの物資が出入りするという事はそれを狙う宙賊が多いという事、護衛任務もあれば宙賊そのものを対峙する仕事も多く仕事には事欠かないので多くの傭兵が仕事を求めてカウンターに押しかけていた。
輸送ギルドと違いギルド内もずいぶんと賑やかな感じで、お行儀よくできないやつらの罵倒や怒号が聞こえてくる。
あぁ、ここはどのコロニーでも同じなんだなぁと安心してしまった。
「託児所を探してるなら他を当たってくれ」
「生憎と子守には困ってなくてね」
「その通りです、むしろ子守をしているのは私の方ですから」
「はは!言うじゃねぇか、このヒューマノイド」
「恐れ入ります」
まさかヒューマノイドが自分の主人を馬鹿にするとは思っていなかったんだろう、予想外の反応にむすっとした顔をした受付のオッサンが急に笑顔になる。
そりゃ普通のヒューマノイドならこんな事絶対言わないからなぁ、言うとしてもそういう風に設定している奴だけ。
つまり俺が罵倒されて喜ぶ変態みたいに思われてしまうわけだが・・・面倒なのでさっさと訂正しておこう。
「あー、こいつを気に入ってくれているところ悪いが仕事の話をしたい。しばらくここに滞在するから挨拶しに来たんだ、登録してもらって構わないか?」
「お前が?まぁいい、インプラントを出せ」
「ここでいいか?」
「そこ以外にどこがある、早くしないと腕切り落とすぞ」
明らかに弱そうな俺にイライラするオッサン、しぶしぶという感じでインプラント情報を読み取ったあとバーチャルコンソールに表示された内容を見ても動じることはなかった。
いや、正確には興味がなさ過ぎてみていなかったんだろう、改めてペンを当てながら中身を確認し始める。
「あー、名前はトウマで年は35、戦績は・・・は?90!?」
その時点でやっと異変に気付いたのか、大きな声と共に俺とデータを何度も見直している。
もうそんなに撃墜していたのか。
大規模掃討作戦でもそれなりに撃墜していたし、この間無人機で落としたのもカウントされているのかもしれない。
もうすぐ100隻、確か三桁になると称号的なものがもらえたと思うんだが・・・また後で調べてもらうか。
「そうか、まだ100隻になってなかったか」
「お前が・・・?嘘だろ?」
「正確にはうちのクルーだけどな。とはいえ実績に間違いはない」
「その実績の他にも宇宙軍ナディア中佐からも特別功労賞を頂戴しています。隣の宙域で行われた大規模掃討作戦ご存じありませんか?」
「そういやそんなのもあったと思うが・・・マジかよ」
まだ信じられないという顔をするが、最初と違って舐めたような態度をとることはなくなった。
傭兵の世界では結果が全て、宙賊をどれだけ倒したかによって年齢に関係なく評価されるのは非常にありがたいことだ。
「何か問題でも?」
「何もない。どんな奴でも実力があるのなら大歓迎だ、しばらく滞在するのか?」
「あぁ、愛機を修理に出しているからそれまでは」
「それじゃあそれが終わったらまた教えてくれ、最高の仕事を用意しておく」
「そりゃどうも」
とりあえず挨拶はした、貸してもらう船はただの輸送船なので宙賊を迎撃する手段がついていない。
もちろんアリスに何とかしてもらうという手もあるけれど、近づかなければその力を発揮できないのでソルアレスが戻ってくるまでは傭兵業は休業だ。
カウンターを離れ入り口に向かったとこで、さっき俺に向かって軽口を叩いてきた三人組が俺の実績を聞いて露骨に目をそらしてくる。
もちろんそれに対して何かちょっかいをかけるようなことはしない、実際すごいのはイブさんであって俺じゃないのでそれに対してとやかく言うつもりはない。
・・・俺はな。
「おや、随分と貧相な傭兵がいますね。こんなところでくだをまくしか能がないみたいですが、いつお仕事するんでしょうか」
「アリス」
何か?」
「余りいじめてやるな、本当に仕事のできるやつは今も外で働いている、それが出来ないってことはその程度ってことだろ?」
「そうですね、失礼しました」
何も言わないつもりだったのだが、折角の機会なのでアリスを注意する体で三人組をディスっておく。
これを聞いて反撃してくるなら良しと思いながらも結局何も言わずにギルドを出て行ってしまった。
なんだ所詮はこの程度か。
「兄ちゃんも中々言うじゃねぇか」
「横の姉ちゃんも可愛いくせに容赦ねぇな」
「それより90隻もどうやって落としたんだ?詳しく聞かせてくれよ」
「俺も聞きたい!」
「俺も!」
三人組を追い出したことで満足していた俺達だが、どうやらそれがほかの傭兵には新鮮だったようであっという間に周りを囲まれてしまった。
別に自慢するつもりはなかったんだけど・・・まぁ起きてしまったことは仕方ない。
ここで顔を売っておけば後々になって楽になるのは間違いない、もしかしたら合同依頼を受ける可能性もあるわけだしここはひとつ顔を売っておくとしよう。
そんなわけで時間ギリギリまで傭兵ギルドに滞在し彼らに顔と名前を売り続けた。




