104.新しいコロニーを探索して
ノヴァドッグ。
工業用コロニーの中でもシップメーカーが軒を連ねる国内有数の産業コロニー。
各社の新作を求めて多くの人が集まりそれを求めてさらに多くの娯楽や食料が集積する場所でもある。
規模はラインコロニーのざっと三倍、あそこでも十分大きいと思ったがこの規模になると小型の衛星レベルだな。
副社長との話し合いの後、エドさんが手配してくれたのはとんでもなく高級なホテルだった。
今時ヒューマノイドではなく人間にドアマンをさせているだけでも頭がおかしいのに、ロビーもフロントも部屋も何もかもピカピカで目が痛くなるぐらいだ。
俺みたいな庶民が使うなんておこがましい場所だが、あの副社長の名前は絶大なようでにこやかな笑顔と共に部屋に案内してもらった。
とりあえず今日はそこで終わり、エドさんは副社長に報告へと向かったが終わり次第ホテルに戻ってくるらしい。
ちゃっかり自分の部屋を借りているあたりしたたかというかなんというか、吹っ切れたっていう言葉通りの動きに見ているこっちも楽しくなってくる。
なんでも夕食はコロニーの中でも一・二を争う高級店に行くんだとか。
こういう人に世話してもらえるなんて、楽しいコロニー生活になりそうだ。
そんなわけで、部屋に戻ったもののまだ早い時間だったのでコロニー探索を兼ねて大通りへと向かったわけだが、あまりのスケールに思わず目が点になってしまった。
「おぉー」
「マスター、その反応は辺境惑星から来たみたいですよ」
「いや、誰でもこんな反応になるだろ。みろよこの人の数、エアカーは飛び回っているし通りがデカすぎて奥が見えないんだが?」
「人口はざっと5万、滞在者を含めると8万人が暮らしていますからそれを満たすだけの物資や住居を考えるとこれぐらいの大きさは必要でしょう」
8万人とか想像を絶する人数だが、首都のある惑星には億単位の人間が住んでいるっていうしこのぐらい少ない方なんだろうなぁ。
あまりきょろきょろしているとアリスの言うように田舎者っぽい感じが出るので少しおとなしくしようと横を見ると、俺だけでなくイブさんもローラさんも同じような反応をしていた。
つまりこの反応が普通ってことだ。
道のど真ん中にいつまでもいるのはあれなのでとりあえず近くの店に入り今後について話し合うことにした。
入ったのは本物の香茶を飲めるというお店、合成品じゃないものを出す店がさも当たり前のようにある時点でこのコロニーの規模感がわかるな。
「さて、今後についてだが・・・ソルアレスしばらく使えない。別の船を用意してもらえることになってるけどそれが用意できるのは早くても二日後らしい。準備ができ次第依頼を受けて仕事をするつもりだが、それまで特にすることはないし自由時間にするから各自でコロニー内を好きなように見て回ってくれ。買い物するもよし、観光するもよし、ただし買い物しすぎても置く場所がないからその辺は注意してくれよ」
「え、好きにしていいんですか?」
「別に四人揃ってぞろぞろ動く必要もないだろ?各自買いたい物も違うだろうし、それに付き合う必要もない」
「つまりマスターは私たちに見られたくないものを買いたいそうです」
「なるほど」
「いや、そういうんじゃないから。そういう誤解を生むようなことを言うのは止めてくれ」
むしろイブさん達のほうが俺がいると買いにくいものがあるとおもって遠慮しただけなのになんでそんなことになっているんだろうか。
もっとも、そういう物を買ったところでアリスには筒抜け、まったくプライバシーを何だと思ってるんだ。
「えーどうしよう、ローラさんどうしますか?」
「それなら私は買い物に行こうかなと。ソルアレスにはあまり荷物を置けなかったので、今のうちに色々と買い足そうかなと思ってます」
「ほとんど捨てちゃいましたしね」
「ここなら色々とありそうですし、折角ですからイブさんも一緒に行きますか?」
「いきます!」
元気いっぱいに返事をするイブさん、二人ともこの前の宙賊掃討作戦でもそれなりに稼いでいるのでお金はそれなりに持っているからよほどの物を買わない限り足りないという事はないだろう。
因みにうちの報酬分配方法だが、稼ぎの半分はまさかの俺。
次いで二割ずつがローラさんとイブさんで一割がアリスという事になっている。
戦闘全般を受け持つイブさんと操縦を一手に引き受けるローラさん、そこにサポート全般のアリスという布陣の中でただ座っているだけの俺が半分貰うのはどうかと思うんだけど、この辺は女性陣が譲らず今の形に落ち着いているのだが、アリスに至っては自分で稼いだ金を使う場所がないからとソルアレスの共用資金にしてしまった。
最初のころは全額俺の稼ぎだったのでこれでも本人からしたら譲歩したほうなんだろう。
今回の改造費用もかなり安くなったので資金はそれなりに残っているが、惑星を購入することを考えれば金はいくらあっても困らない。
ソルアレスが戻ってくる間にもそれなりに仕事はできそうなので今のうち市にっかりと準備しておこう。
「トウマさんはどうするんですか?」
「んー、俺も買い物・・・いや、先にギルドに挨拶しておくか」
「えー!一緒に買い物行かないんですか?」
「さっきも言っただろ、俺がいると買い難い物もあるだろうからゆっくり回ってくれ。俺の場合は買う物もほとんどないしな」
「わかりました」
イブさんは不服そうな感じだが女性と一緒に服を買いに行って色々と大変な目にあってきているだけに避けられる戦いは避けた方がいい。
特に下着を買いに行ったときのあの気まずい感じと視線、ほかの人への影響を考えてもそういうところにおっさんは近づかないほうがいいからな。
「では私はマスターに同行します」
「ん?みんなと一緒に行かないのか?」
「私も買うものはありませんし、それにこれだけの人の中で迷子になられても困りますので」
「子供かよ」
「それとも一緒にいると買いにくい物でも?」
「だからそういうのじゃないって、まったく好きにしろ」
アリスにはアリスの理由があるんだろう、別に女性全員で行く必要もないのでとりあえず今日は二手に分かれて食事まで時間をつぶすことにした。
「まずはどちらへ?」
「いつもの通りだ。まずは輸送ギルド、それから傭兵ギルドだな。しばらく世話になるわけだし、顔を合わせておいた方がいいだろ」
「かなりの人数がいますから覚えてもらえるかはわかりませんよ?」
「それはそれ、輸送依頼はネットワークにあるだろうからいい感じのを探しておいてくれ」
「了解しました」
これだけ多くの船が行き来しているんだから同業者もかなりいるんだろう。
いつもは通りの端にあるようなギルドがここでは大通りの一等地にあることが何よりの証拠、自動ドアを抜けた先に広がっていたのは想像以上の光景だった。
「でっか」
「これぐらい普通ですよ」
「これが普通?じゃあ今までのは何だったんだ?」
「規模間の違いですね、首都の輸送ギルドにもなればここの二倍いや三倍の広さはあるんじゃないでしょうか」
天井は高く、シャンデリアがキラキラと輝き床はふかふかのじゅうたんが敷き詰められている。
アリス曰く良い仕事をするにはそれにふさわしい施設が必要とのことだけど、それじゃあいままでのぼろいギルドは何だったのかと思ってしまうわけで。
まぁ建物と仕事するわけじゃないしその辺は別にいいんだけど、そんなことを考えながらホテルのような豪華なフロントへと足を向けるのだった。




