101.今後について色々と話し合って
「この度は弊社の紛失コンテナを発見、搬送いただき誠にありがとうございました。本来あってはならぬ事ですが、宙賊に襲われた場合は荷物よりも人命優先。どうしても年に数回はコンテナの紛失が起きてしまいます。大抵は宙賊の手に渡り戻ってくることはないのですが、今回は無事に戻ってきたとのことでほっとしております」
案内されたのはゼルファス・インダストリー内の応接室。
調度品は男爵の所のように豪華ではないけれど、比較的落ち着いた感じで座っているソファーの座り心地も悪くはない。
五人掛けのソファーの真ん中に俺、その横にイブさんとローラさんが座り、アリスは背もたれの後ろに控えている。
あくまでも交渉の主役は俺という事らしいが、随時耳につけたインカムにアリスからの情報が流れてくるのでそれをもとに話すだけのいわば代理みたいなものだ。
ちなみにここに来るまでにメーカーについての情報を仕入れていたのだが、ゼルファス・インダストリーがノヴァドッグの中では中堅どころに当たるシップメーカーで、主に工業用の機体を製造しているそうだ。
また、修繕関係も得意で他メーカーの修理を引き受けるほどに技術が高いんだとか。
あえてランク付けすると中の上、どっちかというと実直な仕事をするメーカーという位置づけだ。
そんな処がこんなやばい機体を作ったことに驚きだが、とりあえず今は黙っておこう。
「こちらとしても無事に返却出来てホッとしている。まさか宇宙のど真ん中に転がっているとは思わなかったが、幸い荒らされた様子もなかったし宙賊が取り逃したのかもしれないな」
「そうだといいのですが」
「よくあることなのか?」
「よくあるというと語弊はありますが、年に数回はどうしても発生してしまいます。重要なものに関しては護衛をつけたりしますので大きなトラブルになることはありませんが、取引額の小さい物や部品などはそういうわけにもいかずこのようなことになってしまうのです」
「確かにパーツ一つ一つに護衛をつけてたんじゃ船代が高くなりすぎる」
「とはいえ、こうやって戻ってきたわけですから何かの縁があるのでしょう。今回の報酬ですが・・・こちらのコロニーにはどのようなご用件で?」
「他所で仕入れた物を売りに来たってのもあるが、一番は船の改造だな」
改造、その単語を聞いた瞬間にエドさんの目がきらりと光ったのを俺は見逃さなかった。
こういう場に出てくるぐらいだからそれなりに経験は豊富なんだろう、商機を逃さないのはさすがというところだが・・・。
『マスター、もったいぶった感じでお願いします』
すかさずアリスからの注文が飛んできた。
もったいぶった感じってのがちょっとわからないけれど、とりあえずやるだけやってみるか。
「詳しくお聞きしても?」
「見ての通り今の船は人員の割に手狭でな、それに荷物を運ぶにもカーゴが狭い。今後に運びを増やしていこうと考えていくにもこの狭さじゃ鍾愛にならないからカーゴの増築を考えている。色々と調べてはいるがひとまずよさげなシップメーカーを探そうとやってきたわけだ」
「新造シップではなくあくまでも改造ですか」
「この船にはいろいろと愛着があるんだ」
「わかります、最近の方はすぐに船を乗り換えられますが長年乗り続けてきた船には魂が宿るというもの。先ほど拝見いたしましたが非常によく手入れをされていて大事にされているのが伝わってまいりました」
「腕のいい職人がいると聞いてきたんだが伝手もないし、しばらくは滞在しながら探すつもりでいる。とはいえ、流石にその間中置いておくわけにもいからこれが終わったら出ていくんで安心してくれ」
俺達は迷惑をかけている、そんな感じの雰囲気を出しつつ向こうがカードを切るのを待つ。
メーカーからすれば宙賊がレアメタルを背負って突っ込んできたようなもの、目の前に商売のネタが転がっているのに食いつかないわけがない。
向こうもそういうのには気づくだろうけど、今回はコンテナを拾ったという恩もあるので少々の値引きをちらつかせてくるに違いない。
「そのようなことをせずとも職人が見つかるまではどうぞ弊社のハンガーをご利用ください。見ての通り空きはありますし、なにより折角のご縁ですから」
「迷惑にならないか?」
「迷惑だなんて滅相もない、コンテナを運んでくださったお礼と思っていただければ。加えて差し出がましい申し出ではありますが弊社にも修理を専門に行う部署がございます。もちろん他メーカーと比べていただいてもかまいませんが、ぜひ一度うちで見積もりをお作りさせていただけませんでしょうか。今回の件も含め、精一杯勉強させていただきます」
「それはありがたい申し出だが・・・いいのか?」
「もちろんです。弊社としましても仕事をいただけるわけですし、なにより船を大事に乗っておられる方の力になりたいのです。具体的な改造プランなどはございますか?」
かかった。
向こうも同じことを思っているかもしれないけれど、大物を釣り上げたのは間違いなく俺達だ。
なんせあの船の中にはとんでもない爆弾が仕込んである、意気揚々と商談を始めるエドさんに同情しながらも大風呂敷を広げる感じでどんな改造がしたいかを話し続ける。
規模間としては2000~3000万ぐらいの仕事、最初は穏やかだったエドさんもどんどんとテンションが上がりだしまるで子供のようなはしゃぎようだ。
「そうです!その通りです!いやー、よくご存じで」
「間違いなくあれは一流の職人の仕事、異種の素材を寸分たがわず接合しつつ強度もしっかりと保つ。まさかここの職人がやってたとはなぁ」
「残念ながら当時の職人は残っておりませんがその遺志を受け継いだものがおります。どうぞ安心してお任せください」
「とはいえここまで盛り込むと運んできた船をうっぱらっても予算オーバーだ、ぶっちゃけいくらになる?」
「私の一存では決められませんがコンテナを運んでくださった恩もありますし上に掛け合ってまいります、今しばらくお待ちください」
最初の穏やかな感じはどこへやら、やる気満々という感じでエドさんは応接室を出ていった。
アリスのほうを振り向くと周囲を見回し小さくうなずいた。
どうやら監視されている様子はないらしい。
「あー疲れた」
「さすがマスター、まさかあの方をあそこまでやる気にさせるとは。詐欺師の素質をお持ちでしたか」
「もっと違う褒め方があるだろうが。ともかく言われた通りしっかりと盛り上げたからな、あとは任せたぞ」
「それはもう、マスターの頑張りを無駄には致しません」
「でもマテリアル結合なんて言葉よくご存じでしたね」
「前の仕事で何度か見かけたことがあったからな、明らかに質感の違う二つの素材を組み合わせた尾翼はものすごく印象的だったからよく覚えてる。まさかここの職人とは思わなかったが、まぁ盛り上がったから良しとしよう」
偶然の産物とはいえ、ここの職人が行っていた修理技術の話で盛り上がったことで一気に相手の懐へ入り込むことができた。
もちろん船を拡張したいのは事実だし、どんな風に拡張したいかも本当の希望を伝えている。
その結果費用が膨れ上がったのは致し方ないことなのだが、あとは例の爆弾をぶつけてどれぐらい値段を下げられるかだなぁ。
待つこと10分ほど、程よく緊張もほどけてきたところで大量の書類を抱えたエドさんが応接に戻ってきた。




