100.工業コロニーに到着して
色々なことがありながらも、とりあえず無事に当初の目的地である工業コロニーへと到着した。
すぐ横を大型の輸送船が何隻も飛び交い、その間を縫うように大小さまざまな船が移動している。
ものづくりが盛んであればあるほど出来上がった商品を運ぶ仕事が潤う、そしてその仕事を求めて多くの業者が集まってくるというわけだ。
「ここがノヴァドッグか」
「想像していたよりもかなり大きいです」
「これだけの船が揃っていると圧巻ね」
「工業用コロニーの中でも最大級の大きさがあります。この中に大小さまざまな新造シップメーカーがひしめき合い、お互いのしのぎを削っているわけです」
「そしてその中の一つがこいつを作ったと」
「そういうことですね」
例の無人機は再びコンテナに格納し、宙賊船のカーゴに放り込んである。
流石にあの見た目の物を外に出していると何を言われるかわからないからな、幸いここは新造シップが多数出入りする場所なので船をスキャンされたところで不審に思われることはないだろう。
「こちらノヴァドッグコントロール、ソルアレス聞こえますか?」
「こちらソルアレス通信良好、着艦許可は出ましたか?」
「お待たせして申し訳ありません、現在全てのハンガーが埋まっており案内する場所がありません。順番に誘導しておりますので今しばらくお待ちください」
「了解しました」
着艦申請を出して早一時間、やっと管制から返事が来たと思ったらまさかの内容だった。
これだけ大きなコロニーなんだからどこぞが開いているだろうと思っていたけれども、どうやらそういうわけではないらしい。
「これだけあるのにどこもいっぱいなのか、あそこなんてガラガラだぞ?」
「空いているように見える場所はどこもシップメーカー所有のハンガーのようです。一般向けはどこもいっぱい、現時点で38番目の案内だそうです」
「数字だけ見ればかなり後ろだが、実際どのぐらい待つんだ?」
「推定待機時間は三日ですね」
「みっ・・・」
余りの長さに思わず絶句してしまった。
いやいや、コロニーに入るだけで三日とかマジ舐めてんのかっていうレベルだ。
遠路はるばるやってきた船だとしたら燃料が尽きて死んでしまう可能性だってあるし、食料が尽きる可能性もゼロじゃない。
って、だからさっきから小さい船がうろうろしているのか。
船と船の間を飛ぶように移動しているのは超小型船、積載量は非常に少ないが小回りが利くので主にコロニー近辺で活躍しているタイプの船だ。
そいつが何で飛び回っているかというと、こうやって待機している船に燃料や食料を売るべく飛び回っているんだろう。
商売上手というかなんというか、もしかして彼らを設けさせるために着艦を渋ってるとかそういうことはないよな?
「そんなに待つんですか」
「普通にいけばそうなります」
「じゃあ普通じゃない方法は何があるの?」
「シップメーカーと交渉して彼らの所有するハンガーに着艦するのが一番手っ取り早いでしょう。彼らも商売ですので、お金さえ積めば優先的に案内してくれるはずです。ここの相場はまだ調べていませんが・・・ざっと見積もって30~50万ヴェイルというところでしょうか」
ただ優先的に船をハンガーにつけるだけでそんなに金をとるとかぼったくりもいいとこだ。
とはいえ時間に追われている業者もいるだろうし、そういう人がいる限りその商売はなくならないんだろうなぁ。
幸い俺達は急いでいないので三日間ゆっくりするのも悪くはない。
「せっかくの稼ぎをそれで使うのはもったいないし、おとなしく待つか」
「そうですね」
「おや、皆さん待つおつもりですか?」
「そりゃそうだろ、わざわざそんな金払うのはもったいない」
「それはまぁそうですが、折角なら向こうからぜひ来てほしいと言わせるほうがよくないですか?」
ん?
向こうから?
普通は金を払うのにそれを抜きにして向こうから案内?
「わかった、例のシップメーカーに声をかけるのね」
「その通りです。大事な荷物を運んできたんですから、それぐらいしてくれてもおかしくありませんよね?」
「・・・それは脅しじゃないのか?」
「そんなことはありません。あくまでも私達は落ちていた荷物を届けに来ただけ、つい先ほどコンタクトを取りましたのでおそらくもうすぐ・・・」
その時だ。
メインモニターにコンタクトを希望する通知が現れた。
それを見て満足げに頷くアリス、確かに向こうから連絡してきたけれどもいったいどんなメッセージを送ったのやら。
「こちらソルアレス、何の用だ?」
「突然の通信失礼いたします。我々はゼルファス・インダストリーというシップメーカーでして、この度弊社の紛失コンテナを届けに来てくださったとの連絡を受けましてご連絡差し上げました。よろしければ弊社ハンガーへ着艦いただくことはできますでしょうか」
「それはありがたい話だが、それだけで金をとるとか言わないよな?」
「もちろんでございます!皆様は弊社の荷物を届けてくださった大事なお客様、どうぞ遠慮なくご利用くださいませ」
「そういう事なら遠慮なく使わせてもらおう。ハンガーの場所を教えてくれ、そっちに向かう」
通信は音声のみで相手の表情などはうかがえなかったが、明らかに慌てたような感じがあった。
そしてアリスの読み通り無料でハンガーへ誘導してもらえることに。
まったく、本人はしてやったりみたいな顔してるけど本当に大丈夫なんだろうな。
「誘導信号きました、ローラ様お願いします」
「了解。オートパイロットもいいけど、やっぱり自分で操縦しないとね」
「そういうものなのか?」
「オートのほうが楽だけど、自分のタイミングで着艦したほうが安心だしなにより船に傷がつかないのよ」
「なるほどなぁ」
俺からすれば自動で移動してくれたほうが楽できると思うんだが、パイロット的にはそれは邪道なんだろう。
モニターに表示される仮想航路をなぞるようにコロニーの反対側へ移動、こちらもまた多くの船でにぎわっている中でぽっかりと空いた格納庫へと誘導される。
絶妙な操縦技術でソルアレスとトラクタービームでけん引している宙賊船を誘導、ゴトン!と小さな音を立てて無事着艦することができた。
「やれやれ、やっと着いた」
「ここからが本当の戦いです、気合を入れていきましょう」
「これは戦いなのか?」
「交渉は戦いです、最大の利を生み出すためにもここで負けるわけにはいきません」
「ほどほどで頼むぞ、絶対に脅すなよ」
俺達はあくまでも落とし物を届けに来ただけであって脅しに来たわけじゃない。
本人がどう思っているのかはわからないけどできるだけくぎを刺しておかないと暴走しかねないからなぁ。
隔壁が閉じ格納庫内に空気が充填されるのを確認してから外へ出ると、そこには大勢の職員らしき人たちがハンガーに列をなしていた。
お出迎えというかなんというか、その割に全員顔が強張っているんだけど一体なにを言われてきたんだろうか。
「ようこそゼルファス・インダストリーへ。わたくしは皆様の案内を仰せつかったエドワードと申します、お気軽にエドとお呼びくださいませ」
そんな中、職員の先頭に立っていた初老の男性が深々と頭を下げる。
うっすらと白髪の混ざった髪をオールバックにし、如何にも仕事できますという感じ。
やれやれ、何とかコロニーに到着したわけだけどアリスの言うようにここからが大変なんだろうなぁ。




