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水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~  作者: マックロウXK
第五章 名も無き英雄

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『ポンコツ』

『えっ!?』

「国王様?」

「いえ、チョップ様。我々グアドループ一族は『聖者カリブ』様から国を預かりし、仮初めの王。カリブ様の末裔であらせられる貴方こそが、この国の真の王でございます」


 えええええーーーーーっ!?!?!?

 どえええええーーーーーっ!?!?!? 


『あの、ポンコツ水兵が……!?』

『チョップの奴が、聖者カリブの末裔だって!?』


 『?』と『!』マークが宙を飛び交い、観衆たちも水兵団員も騒然とする。


「貴方が見せた、奇跡の数々。あれこそが聖者の証に他なりません。貴方にマルガリータを(めと)らせ、私は王位を退きますので、是非これからは王としてサン・カリブ王国をお導きくださいませ」


 マルティニク=グアドループの言葉に、衆目の視線が壇上に集中する。

 観衆はゴクリと息を飲み、少年の次の動向に注目が集まる。

 だが、チョップは後ろを向きながら、静かに首を振った。


「……いえ、僕はそんな立派な人間なんかじゃありません。人違いです」

「えっ!? そんなはずが……?」

「もし、ここに聖者カリブの末裔がいたとしたら、きっとこう言うでしょう。『グアドループ家が王だからこそ、サン・カリブ王国は五百年続いた』と」

「!」


 チョップはマルティニクに向き直ると、頭を下げる。


「どうか国王様にはこれからもサン・カリブ王国の平和と、みんなの笑顔のために尽くしてくださりますよう、お願いします」

「しかし……」

「自慢じゃないですが、僕はすごい脳筋なんです。仮に僕なんかが王様になっちゃったら、サン・カリブ王国は大変な事になりますよ?」


 チョップの言いっぷりに、マルティニクは吹き出しながら立ち上がる。


「はっはっは、いやいや……。どうやらワシの早とちりだったようだ。皆を惑わせるような事を言ってすまなかった」


 民たちに告げるようにそう言うと、国王は残念そうに納得する。

 しかし。


「では、チョップ君。もう論功とか王とか関係なく、マルガリータと一緒になってくれまいか?」

『え?』

「ワシは単純にお主の事が気に入ってしまったのだ。マルガリータの相手は、お主しかいないと思っておる。これならば、聞き入れてもらえるだろう?」

「お父様……!」


 だが、チョップは視線を反らして、こう答える。


「実は、僕はマルガリータが苦手なんです」

「えっ……?」

「マルガリータは昔から、おてんばでわがままで僕の事を振り回してばっかりで……。僕はおしとやかで胸が小さな女性が好みなので、タイプじゃないんです」

『なんだとっ!』

『ありえんっ!!』

『そんな馬鹿なっ!?』


 会場にいる全ての男たちから怒号が上がる。

 ウソつけえ! このポンコツがモガッ!? と、飛び出そうとするチャカを、トーマスは最後まで黙って見てろと押さえつける。


「マルガリータ姫のお相手には、僕なんかよりもっとふさわしい方がいらっしゃるはず。お気持ちだけ頂いておきます」

「で、では、君は何のために……?」

「この国を守るのが、僕の祖父の遺言。そして、僕の一族の家訓ですから。だから、僕には何もいらないんです」


 三顧の礼もはっきりと断られ、茫然とする国王。マルガリータ姫は瞳を潤ませながら。


「チョップくん……。どうして、そんな悲しい事を言うの……?」

「……さよなら、マルガリータ。多分もう、二度と会わない」


 そう告げるとマルガリータに背を向けて、チョップはジョン兵団長の元へ赴く。


「団長、今日で僕は水兵団を辞めさせていただきます。長い間お世話になりました」

『何っ!?』


 水兵団員たちは驚きの声を上げるものの、改めて両腕と片眼と髪の色を失ったチョップの痛々しい姿を見て、二の句を継げなくなる。


「チョップ……、本当にそれで良いのか?」


 チョップは泣き崩れる姫を一瞥するが、ジョンに砕けた両腕を示し、寂しげな笑顔を見せる。


「僕はもう、ただの『ポンコツ』ですから」



 いつの間にか陽が傾き、夕刻を迎えていたサン・カリブ島。

 チョップはこれ以上の長居は無用と、皆に背を向けて壇上から降りる。


「第一部隊隊員、水兵チョップに敬礼!」


 サン・カリブ王国水兵団団長、ジョン=ロンカドルの号令に応え、一糸乱れぬ敬礼をする水兵団員たち。

 観衆たちは少年のために花道を空け、チョップは来た時と同じように、人の海を割るかのように夕陽の中に消えて行った……。



 後に編纂(へんさん)された、『サン・カリブ王国史』にはこう記される。

 建国から五百年を数えたその年、バミューダ帝国の策略、魔法を操る海賊提督の襲来、海を覆うような巨竜の出現など、王国は未曾有の危機にさらされる。

 だが、それらを聖なる(いかずち)で打ち払い、再び王国に平和をもたらしたのは、たった一人の『()()()()』であった。と。



 少年の姿を黙って見送る、グアドループ家の二人。

 マルガリータ姫は涙を拭い、決意に満ちた瞳をもってマルティニク王に口を開く。


「お父様……、おり入ってお願いしたい事があります」

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