決死の一撃
少年の呼びかけに瞬く間に空が闇に染まり、一条の稲妻がチョップを撃ち抜く!
バリバリバリッと雷のオーラを全身に纏うチョップ。だが、強大な敵を計るように片眼で睨むと。
「まだだ……、これじゃ足りない……。ただの『海割り』じゃ、あいつは倒せない!」
ガラッガラガラッ!
ドガドガッ、ドガアァーッッ!!
もう一度左腕を天に向けると、数条のイカヅチが少年の身体を同時に貫く!
蒼白い電撃のオーラを、さらに厚く熱く漲らせるチョップだったが。
「まだだ、まだだ、まだだっ! もっと……、もっとだっ!」
ガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
ビシャーンッ! ドズーンッ! ドゴォッ!
ゴオオオッ! バリバリバリッ!
ドッガアアアァァァーーーンッ!!
発狂したように空から放たれる雷光を、チョップは一身に浴び続ける。
「ぐううっ!!」
集中砲火を受けて全身発光体と化し、あまりの高エネルギーに耐えきれず膝をつく。
だが、それでもチョップは!
「ま……、まだだあ! 僕の命でよければ、好きなだけ持っていけっ!! 僕は王国を守るためなら……」
マルガリータを護るためなら……。
「僕は、全てをくれてやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
『もう、やめてえーーーっ!!』
「!?」
絹を割くような少女の声に桟橋の方を向くと、そこには息を切らせたマルガリータの姿が。
(マルガリータ……?)
「チョップくん、もう無理しないで……。死んじゃやだよ……、わたしからいなくならないで……」
マルガリータは光の輪郭となったチョップに、涙をボロボロと流しながら訴える。
吹き荒れる嵐と爆音が轟く中、少女は心優しい少年の微笑みとともに、最期の言葉を確かに聞いた。
『さよなら、僕の愛しい人』と。
「チョップくんっっ!!」
『御免!』
タンッ! とジョン兵団長はマルガリータの背後から当て身を食らわせ、くたっと倒れる姫を抱え上げる。
チョップは後を頼みますとジョンにうなずくと、団長も意を得たと返してその場から離れた。
慈しむように二人の背中を見送ると、チョップは再び洋上の敵に相対する。
前方の異様な輝きをいぶかしく思ったか、進軍速度を緩めるヤマタノオロチ。
だが、次の瞬間。
ガアアアアアアアアアアアアァァァーーーッ!!
ドリルのような螺旋状の光線が、ケツのような顎の一つから放たれる。
それは、帝国の艦隊を一瞬で壊滅させた光の槍。
島のひとつなど軽く蒸発させる、破滅の閃光がサン・カリブ王国を襲う!
しかし!
キィアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
その前に忽然と現れたのは、蒼白く耀く巨大な鷹!
怪鳥の咆哮が響き渡ると、光線が島の手前で斜め上に滑るように跳ね上がる!
軌道を変えた破壊の光槍は、成層圏を越えて宇宙空間へと消えていく。
「はぁ……、はぁ……、危なかった……」
鷹匠のように水平に腕を構えた、水兵チョップ。
その頭上には、島を包むほどの雷の鷹がサン・カリブ王国に発現する。
雷鷹は彼の意思を汲み、王国を守護るかの如く立ちはだかる。
さすがの狂竜ヤマタノオロチも、突如として現れた化物の偉容に進撃を止める。
闇の中、嵐が吹き荒れる中。
悠久の時を経て、ついに向かい合う神話の巨竜と神雷の鷹。
だが凶竜はすぐさま眼前の敵を恫喝し、極太の光線を吐き出す!
しかし、チョップが左腕を払うと雷鷹も翼を羽ばたかせて躍動し、迫る一閃の進路を妨げる。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!
思いもよらぬ抵抗に、怒り頂点に達したヤマタノオロチは、八つ首の全ての咽喉から、次々と光殺砲を撃ち放つ!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「うおおおおおおおおおおーーーっ!!」
つるべ撃ちにされる無数の螺旋光を、チョップが操る雷の鷹が次々といなし、次々と反らし、次々と弾く!
だが、その連撃の暴虐的な破壊力に。
ドゴゴオォォォーーーッ!!
「ぐうっ!?」
数条の熱閃を被弾し、鷹はその雷影を揺らがせる。
なんとか後ろに被害をもたらす事無く、踏みとどまりはしたものの、チョップは自分の心臓の拍動が刻一刻と弱まるのを感じていた。
「僕が『雷撃の剣』を撃てるのはあと一回。僕の心臓が止まるまでに、あいつのスキを見い出さないと……。頼む! もうちょっとだけ持ちこたえてくれ!」
キィアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
左拳で胸をドンドンと叩きながら、自らを鼓舞するようにチョップが叫ぶ。
さらなる雷撃が降り注ぎ、水兵の意志を後押しする。
しかし!
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!
八体同時に放たれた、八条の閃光!
互いに干渉し合いながら、それぞれが大蛇のようにうねる軌道を描く。
「ぐっ、おおおおおおおおおおーーーっ!!」
ドゴォ! ドゴォ! ドゴゴゴゴゴオオッ!!!
チョップは全力を振り絞り、雷鷹は七条までを受け止める。
だが!
「だああああああああああーーーーーっっ!!!」
キュドンッ!
なんと最後の一閃を、チョップはそのまま正面に弾き返す!
鏡のような反衝は、一瞬で目標を穿ち抜く。
ギイャヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!!
被害を受けたのはヤマタノオロチの首、二本。
光閃が直撃した一本は千切れ飛んで海に沈み、もう一本も巨木の幹が抉れたかのようにメキメキメキと折れて海へと倒れる。
さすがの狂竜も、四分の一身を失う激痛に絶叫を上げた。
「い……、今だっ!!」
チョップが意識を集中すると、頭上の雷鷹が竜巻状に姿形を変え、渦潮のように左腕に吸い込まれていく。
さらに、空から極太の稲妻が満身創痍の水兵に力を与える!
チョップが闘気で形作るのは、ロングソード程度の一振りの剣。
だが、全ての力を結集した煌めきは、かつて黄金の国で天を裂き、大蛇を薙いだと云われる古の聖剣『天羽々斬』!!
「これが、最期だあああぁーーーっ! 無限出力、『雷撃の剣』ッ!!」
しかしっ!
《『海』、『竜』、『光』……》
「!!」
凶竜の十二の眼に邪悪な光が再び灯ると、地獄の底から湧き上がって 狂るような、世界を祟りし究極の呪い。
海面が沸騰したように泡立ち、高鳴り、一気に起ち上がる!
《混沌魔法、『世界の終焉』ッ!!!》
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオッ!!!
突如発生した、天を被うような大津波!!
禍々しく燃えて輝く赫い壁が、チョップを、サン・カリブ王国を、西海洋の全てを打ち砕かんと迫る!!
だが……。
チョップは怯む事なく一歩も退かず、蒼白いオーラを纏った左腕を静かに構えた。
英雄になるためでも、国を守るためでも、世界を救うためでもなく。
ただ、一人の少女を護るために。
「『海割り』……!」
さよなら、マルガリータ……。
「『水平斬り』っ!!!!!」
ズバアアッ!!!
チョップが横一閃に放った雷の刃で、大津波は胴薙ぎに割られて宙に浮き。
ゴオウッ!!!
空中で電気分解を受け、海は風となって消える。
月弧を描く雷刃は、さらに威力を増して海面を疾走り。
ゾオンッッ!!!
神話の凶竜ヤマタノオロチの、残り六本の頸を全て薙ぎ飛ばす。
これだけの事を一瞬で成し遂げ、聖なる刃が放射状に、海の彼方へと走り去った瞬間!
カッ……!!!
*
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!!
『うわあああああーーーっ!!』
とてつもないエネルギーによって巻き起こされた暴風が東の港、さらには港を見下ろす高台にまで吹き荒れる。
『ぐわあああああーーーっ!!』
『おわあああああーーーっ!!』
そこに避難していた屈強な水兵たちも、あおりを受けて吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がる者も続出する。
しばらくしてようやく風が収まるも、今まで眼前で繰り広げられてきた闘いに、呆然としたまま誰も言葉を発する事が出来ない。
「あいたたた……。おーい! お前ら無事か?」
『は、はい……』
『な、なんとか……』
第一部隊副隊長、赤髪のトーマスの呼び掛けに、団員たちは起き上がって返事を返す。
「おわーっ!? あの怪物がおらへんようになっとるやんけーっ!」
騒々しいチャカの叫び声に皆が反応すると、先ほどまで暴威を振るっていた狂竜の姿は跡形もなく、赤黒く染まっていた東の空も、夕焼け空の金色に輝いている。
さらには帝国や海賊の艦隊の影さえも消え去り、海は平穏ないつもの夕べの姿を取り戻していた。
ある一点を除いては。
「お、おい……、あれを見てみろ……!」
トーマス副隊長が指さす彼方に見えるのは、南北に裂かれた海のクレヴァス。
先に両断されていた東西の割れ目と合わせ、鮮やかな十文字が刻まれていた。
『海が……、四つに割れている……?』
『奇跡だ……。奇跡が起きた……!』
『俺たち、助かったんだっ!!』
『サン・カリブ王国、ばんざーい!!』
ワアアァーッ!! と、歓声を上げて喜びを爆発させる水兵団員たち。
その喧騒を複雑な表情で見守る、ジョン=ロンカドル水兵団長の傍らで、気を失っていたマルガリータ姫がゆっくりと目を覚ました。
「チョップくん……? チョップくんはどこにいるの……?」




