38話 取り戻した日常
バカ貴族の親子は、思っていた通り、金と権力を使い減刑を企んだ。
ただ、一つの誤算が。
俺も予想していなかった……というか、モブの中のモブキャラだったため、完全に忘れていたのだが、セフィーリアの父親は娘を溺愛しているのだ。
最愛の娘を害されて、セフィーリアの父親は激怒。
彼は公爵なので、バカ貴族の親子よりも上の権力を持ち……
その力を存分に振るい、極刑とまではいかないものの、バカ親子から貴族の位を剥奪。
ついでに、王都から追放してみせた。
真に恐ろしいのは、メインヒロインでもボスでもなくて、子を溺愛する親ということなのかもしれない。
俺がバカ親子の家を勝手に襲撃したことも、公爵が手を回してくれて、お咎めなしとなった。
感謝だ。
公爵は、汚名をかぶることになったとしてもセフィーリアを助けたことを強く感謝しているらしく、何度も何度もお礼を言われた。
それと、今度、家に招かれることに。
メインヒロインだけではなくて、その父親にも媚を売っておいて損はないので、もちろん、招きに応じることにした。
その時までに、良い顔を演じられるように鍛えておこう。
リアラは、事件で受けた心の傷が心配されたが、特に問題はなし。
ショックを見せることはなく、いつものように明るく優しい笑顔を見せてくれた。
安心した。
原作とは違う展開になることを恐れていた、というのは、正直ある。
ただ、女の子が涙を見せるような展開は嫌いだ。
そんなことにならなくて、ほっとしたというのも正直な気持ちだ。
そのような感じで、再び平穏な日々が戻ってきた。
ただ、一つ問題が。
その問題というのは……
――――――――――
「ノクト様、今日は、あたしがお茶を淹れてあげる。そこで、待っていてくださる?」
「私、がんばってクッキーを焼いてきたんです! その、よかったら食べていただけると……」
「えっと……」
いつものようにセフィーリアとリアラを城に招いて、のんびりした時間を過ごしていたのだけど。
なにやら二人の距離が近い。
ものすごく近い。
セフィーリアは、お茶を淹れる時は、なぜかあえて俺の隣に座り。
リアラは、なぜか、クッキーを食べさせようとしてくる。
以前は、このようなことはなかったと思うのだけど……
「……なあ、二人共」
「なにかしら?」
「なんですか?」
「俺の気のせいなのかもしれないが、最近、セフィーリアとリアラは、俺に対しての距離が……」
「距離がどうかした?」
「距離がどうしたんですか?」
この二人、ものすごい息がぴったりだ。
ついでに言うと、ニコニコ笑顔なのだけど、なぜか妙な圧を感じる。
「……」
「「どうしたの?」」
「……いや、なんでもない」
圧に負けて、言葉を引っ込めてしまう。
えっと……
俺、嫌われていないよな?
一応、二人からは好意的に思われているよな?
……たぶん。
やばい。
自信がなくなってきた。
どうして、こんな状況になっているのか?
この変化は?
先日の事件が関係しているように思うのだけど、しかし、詳細がわからない。
二人は、いったいなにを考えているのだろう?
「ノクト様、どうかした?」
「私、なにかしてしまったでしょうか……?」
「いや……なんでもない。最近、色々とあったからな。こうして平和な状況に浸り、ぼーっとしているだけだ」
なんでもいいか。
俺は悪役王子で。
セフィーリアは、悪役令嬢ものの悪役令嬢で。
そして、リアラは聖女。
ちぐはぐな三人だけど……
でも、不思議と、この関係が消えるようには思えなかった。
この先も、原作のようなイベントが起きるだろう。
あるいは、原作から外れた、予想外のイベントが起きるかもしれない。
ただ。
なにが起きても、セフィーリアとリアラと一緒にいられるような予感がした。
いや。
これは確信だろうか?
なにが起きるかわからない。
ただ、なにが起きたとしても、俺は立ち向かい、力と頭でねじ伏せていくだろう。
なぜ、そんな無茶をするのか?
答えは簡単だ。
「俺は、悪役王子だからな」
◇ お知らせ ◇
新作はじめました!『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』
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ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




