35話 剣鬼
白髪混じりの髪を見る限り、歳はかなり上だろう。
60前後といったところか?
体は細身で、痩せすぎているくらいだ。
枯れ木のよう。
しかし、その身に宿す圧は計り知れない。
ただ強大な圧を有しているだけではなくて、禍々しさを感じる。
とても邪悪なオーラだ。
「……ここで剣鬼が出てくるか」
剣鬼ジストバイン。
本来なら、物語の中盤に出てくるボスだ。
剣を極めることだけを考えて。
そのためならば手段を選ぶことはない。
どのような悪行にも手を染める……まさしく剣鬼。
なぜ、中盤に出てくるはずのボスが、序盤の序盤……
幼少期の頃に、敵となり立ちはだかるのか?
やはり、本来の物語の力が働いていると考えるべきか。
俺という異分子。
それを排除するために、物語……
この世界の意思とでも呼べる、神のような存在が、剣鬼をよこしたのかもしれない。
ただ。
「それがどうした?」
本来の物語とズレている?
だから、おとなしく従え?
そんなものはごめんだね。
俺は、悪役王子だ。
悪役らしく、徹底的にわがままに。
そして、望むがまま、やりたいようにやらせてもらう。
「……相手は王族とはいえ、子供か」
「侮るな! これだけの兵士を一人でやってみせたのだぞ!?」
「わかっている。侮っているのではなく、喜んでいるのだ」
剣鬼が唇の端を吊り上げつつ、腰に下げていた剣を抜いた。
その者の心を表しているかのような、刃まで黒い剣だ。
「なかなかの強敵だ……斬るのが楽しみだな」
「そういう迷惑な趣味は一人で楽しんでくれ」
先に動いた。
強化した身体能力を活かして、剣鬼の背後に回り込む。
体全体を独楽のように動かして、回し蹴りを放つ。
「いい動きだ」
剣鬼は振り返ることなく、剣で俺の蹴りを受け止めてみせた。
そして、カウンター。
刃が閃いて、死が目の前に迫る。
ゾクリとした感覚を味わいつつも、俺は、恐怖に踊らされることなく、冷静に対処。
宙で体を捻り、攻撃を回避。
さらに魔法を唱えて風を生み出して、その反動で距離を取る。
「やるな。子供と侮るつもりはなかったが、しかし、無意識のうちに侮っていたのかもしれぬな……次は、外さぬ」
「そのまま侮っていてくれて構わないんだけど……なっ!」
今度は魔法を放つ。
さきほど使った、初級火魔法をレーザーのように放つものだ。
しかし、この魔法はレーザーのような威力を持つが、光で構成されているわけではないため、必中ではない。
剣鬼は、冷静に炎の軌道を見切り、避けてみせた。
そして、再びのカウンター。
投擲用のナイフを手にして、それを放つ。
こちらが回避することは想定内。
それを見通した上で動いて、回避直後でまともに動けない俺を狙う。
「土<アース>」
土属性の魔法で盾を作り、攻撃を防いだ。
やっぱりというか……こいつ、かなり強いな。
中盤に出てくる中ボスだけだって、相当なものだ。
改造コードの力がなければ、一瞬でやられていただろう。
さて、どうするか?
まともにやりえば……
まあ、勝てないことはないだろう。
改造コードで強化した身体能力と魔力。
そして、この一年、騎士団長と宮廷魔法使いを相手に重ねてきた鍛錬の力。
その二つがあれば、ギリギリ、いけないこともない。
ただ、セフィーリアとリアラがいる。
戦闘が長引けば、彼女達に危害が及ぶかもしれないし……
不測の事態が発生して……という展開もある。
そうならないように、迅速に。
そして、確実な決着をつけたいところだ。
「……アレをやるか」




