34話 悪で構わない
「ぎゃあああああっ!?」
悲鳴と共に兵士が吹き飛んだ。
宙を舞い。
くるくると回転して、おもちゃのように吹き飛んで。
壁に激突。
そのまま地面に落ちて、昏倒した。
一応、生きている。
骨などは折れているだろうし、後遺症も残るかもしれないが、命があるだけマシだと思ってほしい。
本当なら、可能な限りの苦痛を与えて殺してやりたいところだけど……
セフィーリアとリアラの前で、それはまずい。
というか、さきほども、ついつい怒りに任せてやりすぎた。
二人には、あまり血なまぐさいところは見せたくない。
「ひ、怯むな! いけっ、囲めっ! 相手は一人だ!!」
「ぼ、僕達を守れぇ!?」
ナインベル家のバカ親子は、逃げるのではなくて、投降するわけでもなくて、あくまでも抵抗することを選んだ。
バカが。
ここでおとなしくなるのなら、最低限の温情は与えようと……
……いや。
嘘だな。
うん。
温情なんて与えない。
二人の前なので殺しはしないが、それに等しい苦痛と恐怖は味わってもらう。
セフィーリアを泣かせた。
リアラを傷つけた。
そのことは、決して許せることではない。
「吹き飛べ」
単純な突撃。
ただ、改造コードで身体能力を10倍に強化しているため、俺を止めることはできない。
暴走する馬車に立ち向かうようなもの。
兵士達が次々と吹き飛ばされていく。
脆い。
この程度で俺を止められると思っていたのだろうか?
だとしたら、ナインベル家のバカ親子は、相当なバカということになる。
バカではなくて、バカの極みだな。
……なんて。
そんなことを考える俺は、相当に頭に来ているみたいだ。
セフィーリアとリアラは、この物語のメインヒロインで。
悪役王子である俺の不倶戴天の天敵で。
二人と仲良くしたのは、バッドエンドを避けるためのはず……だったけど。
「ただ……俺は、自分で思っていた以上に、セフィーリアとリアラのことを好ましく思っていたみたいだな」
その二人に手を出した以上、覚悟してもらう。
兵士達を吹き飛ばして。
殴り倒して。
投げ伏せていく。
「な、なぜ、ここまで……」
「ひぃっ……こ、こんなこと……」
次々とやられていく兵士達を見て、ナインベル家のバカ親子は震えていた。
息子の方は、完全に戦意を喪失しているみたいだが……
ただ、親の方は、まだ抵抗の意思を瞳に宿していた。
「お、王族ともあろう方が、このようなことをしてタダで済むとでも!?」
「その言葉、そっくりそのまま返すが?」
公爵令嬢の誘拐。
一般市民の誘拐。
それと、暴行未遂。
どれも、許されることのない犯罪だ。
「し、しかし、執行する権利のないあなたが……! しかも、ここまで好き勝手に暴れるなど、あってはならないことだ! 王族であるあなたが、国の法を無視するというのか!? それでは暴君ではないか!」
「ああ、それで構わない」
正規の手順に従っていたら、間に合わなかっただろう。
リアラもセフィーリアも、一生消えることのない傷を負っていただろう。
それを許すというのなら、『正しさ』なんていらない。
悪でいい。
なぜなら……
俺は、悪役王子なのだから。
「くっ……こ、こうなれば……!」
バカ親は、力強くこちらを睨みつけた。
なにか切り札を持つか?
「おいっ、お前の出番だ!」
「……そのようだな」
バカ親の呼び声に応じて、新しい男が姿を見せた。




