31話 囚われの……
セフィーリアとリアラは光のない部屋に閉じ込められているものの、しかし、手足を拘束されて自由を奪われてはいない。
動くことができる。
喋ることもできる。
おまけに、二人一緒の部屋。
「……つまり、誘拐犯は、あたし達はなにもできやしない、と余裕を見せているのよ。どうせ逃げられない、どうせ抵抗できない、ってね」
「な、なるほど……!」
「その油断を突くわ」
セフィーリアは、暗闇の中、不敵に笑う。
「確かに、あたし達は子供よ。大人のような力は持たないけど……」
「でも、魔法を使うことができます!」
「その通りよ。すごく眩しいと思うけど、我慢してね……火<ファイア>」
セフィーリアは小さな火を魔法で生み出した。
眩しさに目を細めつつ、周囲を確認する。
「ここは……倉庫みたいね」
「でも、外にあるような倉庫とは、ちょっと違いますね」
「そうなの?」
「外にある倉庫は、もっと大きく、それと、作りが少し雑なので。ここは、色々と丁寧で……たぶん、どこかの屋敷にある倉庫なのだと思います」
「なるほどね……だいたい、予想通りの展開ね」
「セフィーリア様は、犯人に心当たりが?」
「十中八九、ノクト様に敵対する、頭がからっぽの貴族の仕業よ。あたしを交渉材料にしようと思ったんでしょうね。リアラは……ごめんなさい。あたしのせいで、巻き込まれただけよ」
「そんな、謝らないでください! むしろ、セフィーリア様を一人にすることなくて、よかったと思っています」
「リアラ……ありがとう」
このような状況でも絶望しない。
友達のことを一番に考えてくれる。
いい友達を持った。
セフィーリアは、リアラとの出会いを神様に感謝して……
そして、彼女との間にある絆に、なにか特別なものを感じるのだった。
「でも、頭がからっぽ……というのは?」
「ノクト様は王族よ。喧嘩を売るような真似を……というか、おもいきり売っているわね。そんなことをして、タダで済むはずがないわ。そんな、子供でもわかるようなことがわからないから、からっぽ、っていうこと」
「な、なるほど……」
あはは、とリアラが苦笑した。
「さあ、早くこんなところから脱出しましょう」
「はい!」
二人は扉を見つけて、魔法で解錠した。
ゆっくりと扉を開けて、廊下の様子をうかがう。
誰もいない。
セフィーリアが言うように、相手は子供と油断しているのかもしれない。
そのまま油断してほしい。
倉庫を抜け出したことに気づかず、どこかでのんびりしててほしい。
そんな期待をしつつ、セフィーリアは、リアラを連れて逃げる。
「とても広いお屋敷ですね……」
「貴族の屋敷で確定ね。でも、使用人がまったく見えないということは……外れの屋敷かもしれないわ」
「外れ……ですか?」
「貴族なら、複数の屋敷を持っていてもおかしくないわ。それだけの財力があるもの。で、本宅ではなくてサブを使い、そこで犯罪行為に手を染める……そのための屋敷っていうものがあるの。あたしは、それを勝手に外れ、って呼んでいるわ」
「それがここだと……?」
「おそらくね」
だとしたら、人の多いところに建てられていないだろう。
警備の人間はいなくても、外と行き来する扉は厳重な鍵がかけられているだろう。
脱出は難しいかもしれない。
ただ、セフィーリアは、今度はその可能性は口にしないでおいた。
絶望しかないため、リアラを不安にさせるだけだ。
(大丈夫、あたしならやれるわ)
不安になる心。
自身を鼓舞する。
軽く深呼吸。
それから、ノクトのことを思い浮かべた。
(ノクト様……あたしに力を)
不思議と落ち着きを取り戻すことができた。
勇気も湧いてきたような気がする。
「……ふふ」
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないの。ただ……」
「ただ?」
「……愛の力って、偉大ね」
「ふぇ?」
セフィーリアは微笑み、リアラはキョトンとした。
それから、二人は慎重に屋敷の探索を進めた。
今までいた場所は三階。
無理をせず、慎重に足を進めて、一階まで降りた。
窓は全て木製の戸で封鎖されている。
鍵で閉ざされているのではなくて、板を強引に打ちつけられていた。
魔法での解錠は不可能。
吹き飛ばすことは可能だろうが、しかし、確実に脱走がバレてしまう。
追手を覚悟で逃げてもいいが、捕まる可能性の方が高い。
最後の手段にした方がいいだろう。
それよりも、正規の出入り口を探すべきだ。
ここを利用する者がいる限り、出入り口は必ずある。
そこからなら、無事に脱出することができるはず。
そんな希望を抱いて探索を続けて……
一階正面のホールに出た。
表の大きな扉は鍵がかけられている。
特殊な構造で、魔法でロックもかかっていた。
ただ、板が打ちつけられているなど、強引な施錠はされていない。
(こういう場合のセオリーを外して、真正面の入り口が正規の場所、というわけね)
「リアラ、ここを開けて逃げるわよ」
「わかりました、お手伝いします」
「お願い。けっこう頑丈だから、時間がかかるかも……」
二人は、協力して扉の解錠に挑む。
なかなか開かない。
とても頑丈で複雑な構造だ。
あとどれくらいで開く?
そもそも、開けることができるのか?
焦りが募る。
早く。
早く開いてくれ。
そうでないと捕まってしまう。
脱走したことがバレたら、屋敷の者が押し寄せてくるだろう。
もしかしたら、すでにバレているかもしれない。
10秒後には、ここは包囲されるかもしれない。
そうなったら終わりだ。
成すすべはない。
抵抗することは許されず、捕まり……
脱出の芽は完全に摘まれてしまうだろう。
そんなことになる前に、どうにかして……
……その時、カチリという音が響いた。
「やった! これで……」
「あっ……セフィーリア様、この反応は!?」
「え? ……きゃあ!?」
バチリと紫電が走り、二人を包み込む。
雷魔法。
威力は低かったらしく、大した怪我はない。
しかし、体が痺れてしまい、まともに立っていることができず、セフィーリアとリアラは床に崩れ落ちてしまった。




