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28話 悪役令嬢と聖女

「……」

「……」


 城の客間。

 テーブルを挟んで、セフィーリアとリアラが向かい合っている。


 ちなみに、ものすごく気まずい空気が流れていた。

 一切の会話のない沈黙。

 そしてセフィーリアは、肉食系の動物みたいな感じでリアラを睨み……

 リアラは、追いつめられたネズミのようにぷるぷると震えている。


 ……どうしてこうなった?


 歳の近い友達がいた方がいいだろう。

 そして、それが運命の相手なら尚良いだろう。


 そう判断して、思い切って二人を引き合わせてみたのだけど……

 セフィーリアの機嫌がすこぶる悪い。


「殿下」

「え?」

「殿下にお聞きしたいことがあるのですが」

「あ、はい。なんでしょう……?」


 呼び方が『殿下』になっている……それと丁寧語。

 あたしは怒っていますよ、という意思表示だろうか?


 その迫力に、ついついこちらも丁寧語になってしまう。

 怖いよ。

 これが悪役令嬢の迫力か。


「この子は誰なのですか? もしかして、あたしの知らない間に、新しい婚約者でも増やそうとしているのですか?」

「……いや、待て。なぜそうなる?」

「そうとしか思えない展開ですから。とても可愛らしく、殿下のことを慕っているように見えますから」


 まさか、そんなわけがない。

 リアラは将来、俺を断罪するんだぞ?

 そんな彼女が俺を慕うとか、ありえないだろ。


「あー……信じてほしいが、本当に他意はない。二人なら気が合うかもしれないと思い、引き合わせてみただけだ」

「あたしがこの子と……ねぇ?」

「え、えっと……」


 セフィーリアに睨まれて、リアラが雨に濡れた子猫のように震えた。


 やめてさしあげろ。

 お前達、最終的には無二の親友と戦友になるんだぞ。


 でも……そうか。

 セフィーリアは悪役令嬢で、リアラは聖女でメインヒロイン。

 最初は対立するんだよな。


 原作がスタートして、しばらくして仲良くなるんだけど……

 できれば、今のうちから仲良くしてほしい。


 原作の強制力を感じるものの、多少、本来の道から外れている感がある。


 もしも……

 もしも二人が仲違いをして、そのままだとしたら?

 原作が完全に崩壊してしまい、先を読むことが不可能になる。


 なので、今のうちに二人を出会わせて、仲良くなってもらおうとしたのだが……

 少し先走ってしまっただろうか?


「とりあえず、美味しい紅茶とお菓子はどうだ?」

「ノクト様! そのようなことはメイドにでも……」

「今日は俺が二人をもてなしたい気分なんだ。気にしないでほしい」

「……わかったわ」


 俺に対しては素直というか……

 誤解は解けたようなので、口調が元に戻っていた。


 安堵しつつ、それぞれの紅茶を淹れてクッキーを用意した。


「……」

「……」

「……」


 再びの沈黙。

 き、気まずい……


 セフィーリアはリアラに気を許しておらず、威嚇する猫のよう。

 リアラは、そんなセフィーリアに怯えていて、小動物のようにぷるぷると震えている。

 そんな二人の間で、俺は、努めて冷静を装い二人に話を振る。


 しかし……なんともまあ、話の弾まないこと弾まないこと。

 「ええ」とか「そうですね」とか。

 「は、はい」とか「え、えっと……」とか。

 そんな相槌ばかりで、気まずい空気がどんどん加速していく。


 二人には仲良くなってほしいのだが、やはり時期が早すぎたのだろうか?

 それとも、なにかが足りていない?


「……ああ、そうか」


 思い出した。

 この二人が仲良くなるきっかけは……共に悪に立ち向かうこと、だ。


 学院に入学してしばらくして、セフィーリアが誘拐されるという事件が起きる。

 偶然、その場に居合わせていたリアラもさらわれてしまい……


 しかし、二人はそこで諦めず、力を合わせて脱出する。

 それがきっかけとなり互いを認め、唯一無二の親友となるのだ。


「とはいえ……」


 二人の仲を深めるために誘拐させるわけにはいかない。

 やりすぎだ。


 誘拐の真似……もやめておいた方がいいな。

 そのようなことをしたら、原作の強制力で本物の誘拐に発展するかもしれない。


 それならば俺は……いや、待てよ?

 よくよく思い返してみれば、原作でも、最初は聖女と悪役令嬢は何度となく衝突していた。


 誘拐事件が起きて距離が縮まるのだけど、それまではケンカの繰り返し。

 それでも、決定的に仲がこじれることはない。

 ケンカをして仲直りをして、またケンカをして仲直りをして……


 そうして少しずつ距離を縮めていき、誘拐事件がきっかけとなり……という感じ。


 つまり、二人にとってケンカは当たり前のようなもの。

 というか、仲良くなるための儀式のようなもの。

 少年漫画のケンカする主人公とライバル、というようなものか。


 なら、下手に介入しない方がいいな。時期がズレていても、あの二人なら仲良くなれると思うから……今は、二人の時間が必要なのだろう。


 そう考えた俺は、席を立つ。


「すまない、少し外に出る」

「どうしたの?」

「なに。なんてことはない、野暮用だ」

「そう……わかったわ」


 トイレと判断してくれたのか、セフィーリアは特に引き止めることはない。


「……あぅ」


 リアラは、行かないで、という感じですがるような目を向けてくるのだけど……

 すまん。

 置いていくことに心苦しさを感じつつも、これも二人のためと自分に言い聞かせて、俺は客間を後にした。

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既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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