27話 定期的な交流
ひとまず聖女の問題は解決した。
力に目覚めつつあるものの、そのきっかけが村人全滅という悲惨なものではない。
当初の目的は達成できたから、よしとしておこう。
問題は、この後の展開だ。
己の力を自覚した聖女は、人々のために……と、力をさらに伸ばそうとする。
鍛錬を重ねて……
そして十五歳になった時、王立の魔法学院に通うことになる。
そこで色々な人と出会いを重ねていく。
それから物語がスタートするのだけど……
「ふむ」
俺……『悪役王子』と聖女の出会いも魔法学院だ。
今回が例外なだけで、入学するまでは聖女と出会うことはおろか、話をすることもない。
そんな原作の展開を考えると、次に聖女と会うのは学院に入学した時だろう。
つまり、それまでの十年近く、まったく会えないことになる。
それはまずい。
子供の頃に経験したことは強く心に残りやすく、成長した後も印象に残る。
だから、今のうちに媚びを売って売って売りまくり、ノクト=良い人、という印象を植え付けておきたい!
……なので。
「わぁあああ……!!!」
王都へ戻り、城へ戻り。
そして、リアラも一緒だった。
「す、すごく広くて、それに綺麗で……わ、私なんかが本当にこんなところで……? えっと、あの、その……殿下、本当にいいんですか……?」
リアラは、見知らぬ場所に連れてこられた子猫のような感じで、恐る恐るこちらを見た。
「ああ、問題はない。俺は、キミと友になりたく……故に、我が家に招いた。よくある話だろう?」
「そ、それはそうなんですけど、我が家の規模がものすごいといいますか……」
十年近く、リアラとまったく会えない状態は避けたい。
なので、リアラを友達として定期的に城に招くことにした。
これならちょくちょく会うことができて、媚を売ることができる!
俺、天才じゃないか?
「わぁ、わぁ……本当にすごいところ……私、ば、場違いじゃないかな……?」
「そういうことは気にするな。キミのことは、俺の友達としてここに呼んでいる。キミが場違いだというのなら、キミのことを友と思う私も場違いということになる」
「し、失礼しました……!? け、決してそのようなつもりはなくて……あうあう」
リアラはとても緊張している様子。
態度も言葉遣いも固く……
とてもじゃないけれど、友達と呼べるような関係には見えないな。
……まあ、それは俺も同じか。
彼女の前では、自分のことを『私』と言い、仮面を被っている。
リアラが聖女だから、必要以上に丁寧になっていて……
その距離感を受けて、リアラも緊張してしまっているのかもしれない。
少しずつ距離を詰めていこう。
「まあ、今日は馬車に乗って疲れただろう? ゆっくりと休むといい」
「あ、はい。あ、ありがとうございます!」
「今夜の食事の際にでも、色々と話しよう」
そう言い、後のことはメイドに任せて、俺は自室に引き上げた。
――――――――――
「どうぞ、この部屋を使ってください」
「わぁ……」
案内された部屋はとても大きくて綺麗で、今日、何度目になるかわからない感嘆の吐息がこぼれた。
「なにかありましたら、こちらの鈴を鳴らしてください」
「は、はい! ありがとうございます!」
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいんですよ。リアラ様は殿下のご友人なのですから」
「こ、光栄です!」
「では、私はこれで」
案内をしてくれたメイドさんが部屋を出た。
一人になった私は、客間にあるベッドに座る。
「うわぁ……すごいふかふか。このまま沈んじゃいそう」
殿下の友達になって、こうして城に招かれている。
夢かな?
そう思うくらい、未だ現実味がない。
「って、殿下に甘えてばかりじゃいられないよね!」
私は、治癒魔法が使えることが誇りだった。
この力で村のみんなのためになりたいと、そう思っていた。
でも、魔物の襲撃があった時はなにもできなくて、力に意味はなくて。
もっと強い力が欲しいと思った。
そうすれば、きっと守れるから。
でも……
それはとても浅はかな考えだ。
ただ力を追い求めても、心が伴わなければ意味がない。
それは当たり前のことだけど、私はその当たり前を忘れるほどに焦っていて……
でも、殿下はそんな私に呆れることなく怒ることなく、静かに真理を説いてくれた。
力だけではなくて、心が必要だ……と。
それだけじゃない。
私ならできると、そう言ってくれた。
ただのお情けじゃなくて、本気でそう言っているように見えて……
「……ノクト様……」
なんて素敵な人なのだろう。
なんてすごい人なのだろう。
村のみんなのためだけじゃなくて、殿下の力になりたい。
この恩を返したい。
そのために……
「もっとがんばらないと! やりますよ、おー!」




