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25話 聖女の力

「さすが殿下ですな。まさか、あのドラゴンを討伐してしまうなんて……しかも単独で。そのような偉業を成し遂げた者は、今までに聞いたことがありません」


 戦闘終了後。

 村の近くに設置した野営地で、簡単な治療と検査を受けて、問題なしと診断されて。

 その後、騎士団長がやってきて、ドラゴン討伐を褒め称えてくれた。


「ドラゴンの肉も骨も全て焼き尽くして、その上、隕石が落ちてきたかのような大穴を作り出してしまうなんて……私は自分の目を何度も疑いましたぞ」

「あれは……私の力ではないさ。特殊な魔道具によるもので……そもそも、皆がいなければどうしようもならなかった。私一人の勝利ではなく、皆の勝利だ」

「殿下、なんという謙虚な……」


 謙虚ではなくて事実だ。

 騎士団長達が時間を稼いでくれなかったら合体魔法を発動させることができず、俺は成すすべなく殺されていただろう。


 しかし、騎士団長達は立派に時間を稼いでくれた。

 惚れ惚れするような活躍だ。


 ……それと、もう一つ。


「騎士団長は……ドラゴンがブレスを放った後のことは、よく見えていなかったのか?」

「はっ……申しわけありません。強烈な光が放たれて、目が眩んでしまい……あれは、魔道具を発動させる際の副作用のようなものではないのですか?」


 あの時。

 絶体絶命の俺の前にリアラが割り込み……

 あろうことか、特殊な結界を生成してブレスを防いでくれた。


 ドラゴンのブレスを防ぐなんて、宮廷魔法使いでも不可能なのに……

 だとしたら、あれは聖女の力なのだろうか?


 過程は違うものになったけれど、聖女は力に目覚めた。

 なら、これからは原作の通りに動いていく……?


「殿下? どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない。そうだ。あの光は魔道具の副作用のようなものだ」


 ひとまず、聖女のことは伏せておくことにした。

 聖女だということが発覚すれば、彼女は普通の人生を送ることはできない。


 原作の強制力が働いているであろうことを考えると、いずれ表舞台に立つことになるだろうが……

 原作の設定では、聖女は平穏を望む性格だ。


 バッドエンドのことを考えると、今のうちから接触して、できる限り媚を売っておきたいのだけど……

 彼女に命を救われたといっても過言じゃない。

 だから今は、なにも見なかったことにして、その時が来るまで、平穏を満喫してほしい。


「騎士団と……それと村の被害は?」

「はっ、現在調査中ではありますが、目立つようなものはないかと」

「そうか……わかった、下がっていい」

「失礼いたします」


 騎士団長が礼をして、俺が使う天幕を後にした。


「……ふぅ」


 一人になると吐息がこぼれた。

 安堵の吐息、というやつだ。


「死ぬかと思った……今回は、本気で死ぬかと思ったぁぁぁ……」


 脱力して、ぐったりと椅子に寄りかかる。


 聖女を助けるだけのつもりが、まさか、ドラゴンと戦うハメになるなんて。

 合体魔法を開発していなかったら、本気でやばいところだった。


「この調子で、やばいフラグをへし折っていきたいところだけど……果たして、それは可能なのか?」


 聖女の悲劇を打ち消そうとしたら、ドラゴンなんてものが現れた。

 これが原作の強制力だとしたら、かなり危険だ。


 ……とはいえ。


 セフィーリアの場合は、原作の強制力らしい展開は起きていないんだよな。

 彼女はまだ、闇属性の魔法に目覚めていない。


 この差はなんだ?

 偶然なのか、それとも必然なのか。

 必然だとしたら、誰かの意思が介入しているのか。


「当初の目的は達成したものの、しかし、別の問題、謎が浮上した……はぁ。本当、ため息しか出てこないな」


 俺も平穏に過ごしたいのに、『悪役王子』のせいで、それが叶うことは難しい。

 なんで『悪役王子』なんてものに転生してしまったんだ、俺は……?


 神様がいるとしたら、相当、悪い性格をしているだろう。

 この事態を見て……

 そして、慌てふためいて、孤軍奮闘する俺を見て笑っているのではないか?


 うん、そうだな。

 そうに違いない。

 きっとこの世界の神様は、とことん厄介な人なのだろう。


「……なんて、こんなことを考えていたら、本当にバッドエンドを迎えるかもしれないな」


 苦笑して。

 それから、真面目な顔を作り、今後のことを考えて。


「殿下」

「うん?」


 ふと、天幕の外から声をかけられた。

 さきほど退出した騎士団長のものだ。


「少しよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない」


 騎士団長が再び姿を見せた。

 時に緊張している様子はないし、焦っている様子もない。

 なにか新しい事件が起きたわけではなさそうだ。


 少し安堵しつつ、問いかける。


「どうした?」

「その……村の者が、どうしても殿下にお礼を言いたいと。どうされますか?」

「ふむ」


 俺の素性を知っているのなら、簡単に謁見することはできないし、もしかしたら不敬を働いてしまうかもしれない。

 なので、助けられたとしてもお礼を言いたい、なんてことは口に出せないはずなのだけど……


 それでも、ということなのだろうか?


「わかった、構わない」

「よろしいのですか?」

「礼を聞くくらい、なんてことはない。それに、私の方からも少し聞きたいことがあるからな。ちょうどいい」

「聞きたいこと、というのは?」

「些事だ。気にするな」


 聖女の日常を聞いておきたいだけ。

 ただ、それを口にしたら彼女に注目が集まってしまうかもしれないので、適当にごまかしておいた。


「その村人を連れてきてくれないか?」

「はっ、かしこまりました!」


 騎士団長が外に出て……

 少しして、とある村人と一緒に戻ってきた。


「は、はじめまして、殿下! り、リアラ・フェイクスと申します!」


 ……聖女だった。


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◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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