22話 王族の務め
「殿下!」
魔物を倒していると、騎士団長が遅れてやってきた。
というよりは、一人で突撃した俺を慌てて追いかけてきた、という感じか。
「一人で突撃をするなんて……」
「一刻の猶予もないと判断した。心配をかけてすまないな」
「正直なところ、殿下の心配はしておりません。むしろ、殿下と戦わなければいけない魔物を哀れでいたところでしょうか」
「む?」
悪役王子のことなんでどうでもいい、ということか?
「そこらの魔物が殿下を傷つけられるなんて、欠片も思っていませんので」
そういう方面の信頼か。
喜ぶべきか。
それとも、やや雑に扱われていることを嘆くべきか。
「しかし、本当に村が襲われているとは……殿下は、どのようにしてこの事態を? 突然、騎士団にやってきて、村が魔物の襲撃を受けているから出撃準備だ、と言われた時は、さすがに驚きましたが……こうして実際に襲撃が起きているところを見て、さらに驚きました」
騎士団長が不思議に思うのも無理はない。
突然、村が襲われている、と俺が言い出して……
王子の権限で無理矢理出撃を命じて……
ともすれば、頭がおかしくなったと思われても仕方ないだろう。
「……たまたまだ」
原作知識があるから、なんて説明はできるはずもなく。
結局、適当な言葉でごまかすしかない。
「そう……ですね。殿下は優れた剣技を持つだけではなくて、とても聡明な方だ。私では想像もできないようなことを常に考えて、知略を巡らせているのでしょう。私ごときがそれを理解しようなどと、生意気なことを言いました」
なにを言っているんだ、こいつは?
「雑談はここまでだ。まだ魔物は残っている」
「はっ、全て掃討いたします!」
「いくぞ」
騎士団長と並んで戦場を駆けた。
――――――――――
「火<ファイア>!」
腕を振り、その軌跡に従うように炎が踊る。
村を襲う魔物達が次々と炎に飲み込まれて、灰と化していく。
「火<ファイア>!」
振り向きざまに、もう一撃。
死角を突こうとしていた魔物達を、まとめて燃やした。
馬を走らせる。
それから剣を抜いて、勢いを乗せて振り抜いた。
ザンッ! と、二匹のリザードマンを叩き切る。
「さすがです、殿下」
「まとめて五匹を斬った騎士団長に、そう言われてもな」
「いえ。殿下の年齢で、ここまでできる者を見たことがありません」
「そう言われると、今後の稽古も熱が入るだろうが……今は、目の前の対処に専念するぞ!」
「はっ!」
さらに馬を加速させて、剣と魔法で攻撃を繰り返していく。
次々と魔物の死体を積み重ねていくのだけど……
「ちっ……数が多いな」
星の数ほどの魔物。
倒しても倒してもキリがない。
「いくらなんでも多すぎないか……?」
聖女の故郷が襲われるイベントでは、いくらかの魔物の襲撃で親しい人に被害が出ただけで、村が滅びるかもしれない、という危機はなかったはず。
もしかして……
原作と違う展開になっている?
だとしたら、どうして?
……俺が介入したことが原因なのだろうか。
そのせいで物語の強制力が働いて、このような結果に。
「……考えても仕方ないか」
物語の強制力だろうと偶然だろうと、どちらでもいい。
俺は、俺のやるべきことを果たすだけ。
聖女のスタートを悲劇で飾ってなるものか。
俺は、ハッピーエンドが好きで、鬱展開なんて嫌いなんだよ!
「火<ファイア>!」
改造コードを使用した全力の魔法を解き放ち、魔物の群れを吹き飛ばす。
さらにもう一撃を……
「ガァアアアアアッ!!!」
「なっ……!?」
大気を震わせるかのような咆哮。
同時に俺の魔法よりも巨大な火球が飛んできた。
完全な不意打ち。
……というか、こんな事態は想定していない。
「水<ウォーター>!」
急いで防壁代わりの水を生み出した。
直後……
火球が着弾して、激しい炎と衝撃波を撒き散らす。
「ぐっ……うぅ!?」
耐えることができず、馬の上から放り出されてしまう。
地面を転がり、あちらこちらに痛みが走る。
ただ、直撃はしていない。
あくまでも余波に巻き込まれただけだ。
「これくらい、でぇっ……!!!」
痛みは無視して立ち上がる。
馬は……
よかった、無事だ。
多少、怪我をしているみたいだけど、それだけ。
咄嗟に魔法を展開したのがよかったらしい。
そして……
「おいおい……嘘だろう?」
俺の前に降り立ったのは……
空を覆うかのような巨大な翼。
全身を鉄よりも固い鱗で覆い……
その牙と爪は、全てを壊す。
「フラグとか考えていたせいか……? なんで、こんなところに……ドラゴンがいるんだよ」




