21話 襲撃
カンカンカン! と村に設置された警鐘が打ち鳴らされていた。
「魔物だ!? 魔物が襲撃してきたぞ!」
見張り台に登る、隣の優しいおじさんが、今まで見たことのない顔で必死に叫んでいる。
村のあちらこちらで悲鳴が上がる。
それを覆い隠すかのように、おぞましい魔物の雄叫びが響く。
「リアラ、こっちへ! 逃げるわよ!」
「お、お母さん……お父さんは?」
「……大丈夫よ。お父さんは、後で追いかけてくるから」
嘘だ、と思った。
でも、それを口にすることはできなかった。
私はお母さんに手を引かれて、混乱する村の中を走る。
すでに魔物は村に侵入していた。
優しい村のみんなが襲われて……
あちらこちらで悲鳴と血が上がる。
「どうして……」
どうしてこんなことに?
昨日まで、みんな笑顔だったのに。
幸せがあふれていたのに。
それなのに、たった一日でこんなことになっちゃうなんて……
「ガァッ!」
私達の前にも魔物が現れた。
狼に似た魔物は、威嚇するように鋭い牙を剥き出しにして、私達に向かって吠える。
「こんなところまで……!」
「お、お母さん……」
「……大丈夫、大丈夫よ、リアラ。あなたは、絶対にお母さんが守ってあげるから」
お母さんは優しく微笑んで。
そして、私を背中にかばう。
「ここは私がなんとかするから、リアラは逃げて」
「そ、そんなこと……」
「いいから! 早く逃げなさい!」
「っ……!?」
いつになく厳しい声で。
とても強い声で言われて、びくりと体が震えた。
逃げる?
お母さんを置いて?
一人で?
……たぶん、そうするのが正解なんだと思う。
子供の私が残ったところで、できることなんてなにもない。
むしろ、お母さんの邪魔をするだけ。
……でも。
それでも私は!
「お母さんをいじめないで!」
逆に、私はお母さんを背中にかばう。
魔物を睨みつけた。
「リアラ、あなた……!?」
「お母さんをいじめたら……ゆ、許さないんだから!」
怖い。
足が震える。
涙が勝手に出てくる。
それでも。
逃げたくない。
大好きなお母さんを置いて、一人で逃げたくなんて……ない!
「お母さんは……私が守るんだから! あなたなんか、怖くない! 怖くないよ!!! 私が……私が退治してあげる! かかってきて!!!」
「よく言った」
「え?」と、私は呆けてしまう。
そんな私を背中にかばうのは、お母さんじゃなくて……
知らない男の子。
私と同じくらいの歳。
魔物を相手に、なにもできないはず。
でも、男の子の背中はとても大きくて、頼りに見えて……
私は、知らず知らずのうちに安堵して、体から力が抜けて、ぺたんと地面に膝をついていた。
――――――――――
「……いた!」
馬で駆け抜けて、魔物に襲われている村の中へ。
馬上から魔法を連射しつつ、雑魚を蹴散らして……
その途中、一人の少女に目が止まる。
恐怖に体を震わせながらも、両手を広げて母親をかばう。
その姿は、まさに聖女そのもの。
間違いない。
彼女が……
「させるか!」
魔法を放つ。
聖女を巻き込むなんてヘマ、するわけがない。
魔物だけを打ち貫いて、無事、彼女を助けることに成功した。
聖女の手前で馬を止めた。
馬上から失礼ではあるが、問いかける。
「大丈夫か?」
「……」
「どうした? まさか、怪我でもしたのか?」
「あっ……い、いえ! だ、大丈夫です。ありがとうございます……」
「そうか、よかった」
ひとまず、聖女の救出に成功。
とはいえ、まだ気を抜くわけにはいかない。
村は、現在進行系で魔物に襲われている。
彼女の安全を最優先にしなければいけないが……
ただ、こんな時のために、新しく得た改造コードがある。
「そのまま、じっとしててくれ」
「えっと……?」
改造コードを使い、少女が魔物とエンカントする確率をゼロにした。
RPGなどで、魔物と遭遇しないようにする改造コードは、よくある。
縛りプレイをするため。
あるいは、エンカウントが高くて面倒だから、という理由から。
今回も、それを同じ改造コードを使った。
これで、少女が魔物とエンカントする……つまり、襲われることはないだろう。
もっとも、永続的なものではないため、のんびりしていられないが。
「一応、このまま隠れていてくれ。すぐに片付ける」
「あ、あの……あなたは……!?」
「……ただの通りすがりの王族だ」
無茶な台詞と思いつつ、俺は、再び馬を走らせた。




