20話 次なるターニングポイント
「ふむ、ここの構造は前に見た通りだけど……ただ、隣は、まったくわからないな。未知の多段構造になっているから、本当に解析が厄介で……はぁ、こういう時、メモがあったら、多少は楽になるんだけどな」
剣と魔法の鍛錬を終えた後、俺は、いつものように新しい改造コードの作成、及び既存のコードの改良に励んでいた。
経過は……
そこそこ順調、という感じだろうか?
「いくらか、新しいコードを発見することができた。既存のコードの改良も進んでいるが……まだまだ、だな」
できることなら完璧にコードを……いや。
プログラムそのものを解析したい。
それが無理難題だとしても、そう願わずにはいられない。
俺はまだ子供。
原作通りなら、バッドエンドが訪れるのはまだまだ先。
焦って力を得る必要はないのだけど……
「でも、焦るような事情があるんだよな」
驕ることなく怠けることなく、鍛錬を積んできた。
謙虚であり、真面目であろうとした。
主人公であるセフィーリアとも、あれから良い関係を築けていると思う。
今のところうまくやれているはず。
バッドエンドの回避も可能かもしれない。
「ただ……イベントは次から次にやってくるんだよな」
そろそろ、もう一人のヒロイン……聖女との出会いイベントがやってくるはずだ。
原作だと、ノクトと聖女は幼い頃に一度、出会っている。
その時に、ノクトは聖女に対してとても強い印象を持つことに。
想いはずっと心に残り、忘れられない女性に。
そんな感情が鍵となり、公爵令嬢を裏切り、聖女に走るという愚行に至る。
それはいい。
俺がセフィーリアを裏切らなければいいだけの話だ。
ただ、問題は別にある。
ノクトと聖女が出会うイベントというのが、とても酷い。
聖女が住む村が魔物に襲われて、彼女以外全滅。
王都に避難してきたところでノクトと出会う、というものだけど……
全滅とか酷くないか?
両親だけではなくて、友達も優しくしてくれた近所のおじさんおばさんも、全て魔物に殺されてしまうという。
その時の悲しみがきっかけとなり、後々で聖女として覚醒することになるのだけど……
あまりに酷い展開に、当時は、制作スタッフにかなりのヘイトが飛んだものだ。
ネットもけっこう炎上していた。
「このイベントを潰すのは、ちょっと躊躇うところがあるのだけど……」
この時点で、ノクトと聖女は知り合いですらない。
まったく見知らぬ相手を助けたとしても、恩を売れるかどうか。
そしてなによりも、聖女覚醒のきっかけとなるイベントを潰したら、後でどのような影響が出てくるか?
原作の強制力で修正されればいいのだけど、そうでない場合は、聖女が聖女として覚醒しない可能性も。
そうなってしまったら、原作から大きく逸脱してしまうかもしれない。
転生者というアドバンテージがなくなり、見知らぬ波に流されて、気がつけばバッドエンドを迎える……なんていう可能性があるかもしれない。
「……でも」
見過ごすわけにはいかない。
だって、そうだろう?
聖女とか関係なく……
まだ幼い女の子に、こんな過酷な運命を辿らせるわけにはいかない。
――――――――――
私の名前は、リアラ・フェイクス。
六歳。
穏やかな農村に生まれ、優しい人達に囲まれて、のんびり過ごしている。
訂正。
のんびりと言ったけど、実は、けっこう忙しい。
働かざるもの食べるべからず。
赤ちゃんならともかく、子供なら、簡単なお手伝いくらいはできる。
畑の様子を見たり。
あるいは、牛や豚のお世話をしたり。
やることはたくさん。
お父さんやお母さんと同じように、日々、忙しく過ごしていた。
遊ぶことができるのは、週に数日だけ。
勉強もしないといけないから、やっぱり自由な時間は少ない。
でも、私は今の生活を気に入っていた。
忙しいけど……
でも、お父さんとお母さんと一緒にいることができる。
お手伝いをして、少しでも役に立てる。
それが嬉しい。
何気ない日常。
小さな幸せ。
でも、そういうものがあるから、私は、がんばることができると思う。
そう思っていたんだけど……
この時の私は、なにも知らなかった。
……幸せは簡単に壊れてしまうことを。




