19話 公爵令嬢の心
パーティーが終わり。
自室で一人になったあたしは、ベッドの上で仰向けになる。
「……ふぅ」
自然と吐息がこぼれた。
今日は大変な日だった。
パーティーということで、にこにこ笑顔を浮かべつつ、どうでもいい大人達を相手にどうでもいい挨拶をしなければいけない。
面倒だ。
果てしなく面倒。
とはいえ、それは公爵令嬢の義務のようなもの。
面倒だからといって、サボることはできない。
綺麗なドレスに身を包み。
にこにこと笑顔の仮面を被り。
どうでもいい挨拶を繰り返していく。
相手も、気の利いた挨拶や弾む会話なんて期待していない。
仲良くやろう、というポーズを披露するだけ。
挨拶を終えた後は、すぐに興味をなくして別のところへ行く。
……そのような態度を取るなら、最初から参加しなければいいのに。
若干、ふてくされてしまう。
もちろん、表情には一切出さないが。
「誕生日、おめでとうございます」
そんな時、ナインベル家の長男に声をかけられた。
我が家とは犬猿の仲。
口を開けば罵声と怒号が飛び交うような関係だ。
そのような相手が、なぜ顔を見せたのか?
嫌がらせに他ならない。
事実、ナインベル家の長男レイジは、ここぞとばかりに嫌味をぶつけてきた。
それだけでは飽きたらず、お祖母様にいただいた、大事な花飾りをバカにしてきた。
許せない。
許せない。
許せない。
敬愛するお祖母様を侮辱するかのような言葉。
それだけは、絶対に許すことができず、笑って流すことはできなかった。
あたしは反撃を繰り出そうとして……
しかし、先にノクト殿下が動いた。
そのようなことをしては絶対にまずいのに、まずは、レイジを言葉で叩きのめして。
その後、実際に実力で叩きのめしていた。
わりと……いいや。
だいぶアウトな行為だ。
相手に非があるとはいえ。
王族とはいえ。
あのような場で、実力行使で相手を叩き伏せるのは、さすがにまずい。
非難されて当然の行為。
……なのだけど。
正直なところを告白すると、私は、内心で拍手喝采だった。
よくやってくれました!
さすがノクト様!
とても素敵です!
そんな想いで心がいっぱいになって、実際に叫びそうになった。
というか、叫ぼうと思っていた。
あの場で、ノクト様に味方する者は、普通はいない。
非難されて、評価が下がり、悪評が広がるだろう。
だから。
せめて、あたしくらいは味方になろうと思っていた。
ダメなことをやらかしたものの、でも、ノクト様はあたしのために怒ってくれたのだから……
あたしは、彼のために。
そう思った。
……ただ。
意外なことに、ノクト様の行いは称賛された。
レイジに対する制裁を『正義』と捉えて、手放しで褒め称えられた。
そういう本が流行っていたことが要因なのだと思う。
あたしは、ほっとして……
次いで、嬉しくなった。
多くの人がノクト様を認めた。
そのことが、まるで自分のことのように嬉しい。
なぜだろう?
ほっとしたのは確か。
まずい流れにならず、安堵したのも確か。
でも、自分のことのように喜ぶなんて……
「……やはり、あたしは、そういうことなのかしら……?」
自分のことのように喜んだ理由は、とても単純なもの。
いえ、やはり単純ではないかもしれない。
だって、あたしはまだ子供。
本来、そういうことはよくわからないはずで……
本物とは違い、ただの憧れなのかもしれないわけで……
「でも……この胸の温かさは、誰にも否定させたくはなくて……」
わからない。
自分で自分の気持ちに迷子になってしまう。
あたしは、どこを見ているのだろう?
どこに気持ちが向けられているのだろう?
「はぁ……なにかしら、これ。とても厄介で……でも、優しい気持ち。もう……」
ノクト様のせいだ。
そう、全部ノクト様が悪い。
「……責任、とってもらいますからね」




