15話 フラグはヒロインにも
「ノクト様、ごきげんよう」
「ああ、よく来たな」
いつものようにセフィーリアが城にやってきた。
俺の部屋で魔法について語り合い、それから、なんてことのない日常で起きた話もする。
最初は魔法の話ばかりだったのだけど……
ある時、セフィーリアが、俺について知りたいと言い出して、こういう会話もするようになった。
婚約が結ばれて一ヶ月。
今のところ順調な関係を築くことができていた。
とはいえ、油断してはいけない。
原作でも、最初はノクトとセフィーリアは仲が良かった。
いい夫婦になるだろう、と温かい目で見守られていた。
しかし、結果は婚約破棄だ。
バッドエンドだ。
世界の強制力が発動して、そういう結果に導かれないとも限らない。
決して油断することなく、常に、今できることを考えていこう。
……なので。
俺は今、次に起きるイベントについて考えていた。
「……そういえば」
「なにかしら?」
「もうすぐ誕生日だっただろう?」
「あら、知っていたの?」
「もちろん。婚約者なのだから、それくらいは」
というのは嘘。
本当は、原作知識を持っているからだ。
ヒロインの誕生日も血液型も全て覚えている完璧オタク……というわけじゃない。
単純に、この時のセフィーリアの誕生日でイベントが発生するからだ。
悪役王子の俺に幼い頃からイベントが起きるように、悪役令嬢であるセフィーリアにも幼い頃からイベントがやってくる。
誕生日パーティー。
セフィーリアの簡単なお披露目も兼ねたパーティーで、父上……陛下もやってくる。
他、有力な貴族多数。
公爵家長女の誕生日パーティーともなれば、それくらいは当たり前。
ただ、ここで災いが起きる。
お披露目の一環として、セフィーリアが魔法を披露することになるのだけど、暴走してしまう。
おまけに、その際に闇属性持ちであることがバレてしまう。
闇属性の使い手は希少で、それ故に研究も進んでいない。
『闇』という単語のせいで偏見も多く、魔族の手先として扱われることも。
セフィーリアが闇属性持ちということが判明して、すぐに処断される、なんてことはないのだけど……
周囲の心無い視線や言葉に晒されることになり、彼女の心は傷ついてしまう。
彼女は『主人公』の悪役令嬢なので、闇落ちすることはないと思うが……
それでも、絶対にない、と言い切ることはできない。
原作は本当に人気で、たくさんのスピンオフが出て……
その中でセフィーリアが闇堕ちする、というものもあった。
もちろん、大炎上した。
今回がそうなるとは限らない。
ただ、俺という異分子が紛れ込んだことで、どのような影響が出るか。
なので、不安要素は潰しておくに限る。
「殿下、どうかしたの?」
考え込んでいたら、セフィーリアが不思議そうな顔をした。
「ああ……いや、すまない。どんなプレゼントを用意すればいいか、悩んでいてな」
「あら。それを本人の前で言うの?」
「悪い。なかなか思い浮かばなくて、ヒントをくれないか?」
「それを考えるのも、殿方の仕事の一つよ」
「違いない」
セフィーリアらしい台詞に、ついつい苦笑してしまう。
どこまでも強気でも。
でも、相手を突き放すようなことはせず、期待しているという一面も残す。
そんな彼女の心の在り方もまた、『ヒロイン』なのだろう。
「当日、楽しみにしているわ」
「ああ、楽しみにしていてほしい」
――――――――――
「さて、どうしようか?」
夜。
自室で一人になった俺は、セフィーリアの誕生日のことを考えていた。
プレゼントのことじゃない。
どのようにして、降りかかる災いを払いのけるか、だ。
セフィーリアは、魔法の暴走で闇属性持ちということが判明する。
暴走のきっかけとなったのは、対立する貴族からの心無い言葉。
彼女は強い……でも、まだ小さな女の子だ。
心無い言葉を向けられば傷つくし、平静ではいられない。
「そうなると……無粋な連中は事前に排除しておくか?」
そうすれば、セフィーリアが心ない言葉に苦しめられることも……いや。
王子の権限を使えば、それは可能だ。
悪役王子として目立つかもしれないけど、そこは仕方ない。
ただ、敵の完全な特定は不可能だ。
原作では、簡単な回想シーンしかないため、誰が心ない言葉を浴びせた、と明記されていないんだよな。
それらしい人物はいくらか心当たりがあるものの……
とはいえ、片っ端から排除していたら、さすがに暴君がすぎる。
一年以上かけて悪評を打ち消してきたのに、逆戻りしてしまう。
俺の問題もそうだけど。
参加客が減り、会場が空っぽになってしまたら、セフィーリアの誕生日パーティーを台無しにしてしまうかもしれない。
そもそも、原作から大きく外れるような行動は避けた方がいいだろう。
あまりに原作と違う展開になると、先を知っているという俺のアドバンテージが消えてしまうかもしれない。
「あー……難しいな」
ヒロインに媚を売るのも大変じゃない。
頭を悩ませつつ、俺は、対処作を練り上げていくのだった。




