14話 おもしれー殿方
あたしの名前は、セフィーリア・アリアンロッド。
アリアンロッド家の長女。
将来を期待されている。
両親は公爵なので、とても厳しい人だ。
仕事の間だけではなくて、プライベートでも笑顔を見せることなく、あたしのことをいつも厳しく教育をして、躾けている。
とはいえ、そこに不満を抱いたことはない。
公爵令嬢となれば、生半可な心では道を歩いていくことができない。
鋼のメンタルが必要なのだ。
お父様もお母様もそれを理解しているからこそ、あたしに厳しく接しているのだろう。
いつか独り立ちした時、心折れないために。
一人で歩いていくことができるように。
そのための厳しさ。
故に、それは愛情の裏返し。
なので、お父様のこともお母様のことも。
他、近しい人も好ましく思っているのだけど……
とはいえ、どうしても息が詰まる時はある。
あたしとて、まだ子供。
時には、なにもかも忘れて、のんびり、おもいきり遊びたい時もある。
そんな時、あたしは魔法と出会った。
魔力を糧にしなければいけないけれど……
見た感じでは、無から有を生み出している。
神様の御業と言えるかもしれない。
その不思議なところに、あたしは魅了された。
俗っぽい言い方をするならば、ドハマりした。
魔法を学んで。
鍛錬を積んで、知識を増やして。
そして、さらに魔法の道を突き進んで……
「とても満ち足りた時間ね」
魔法を学んでいる時は、とても幸せだ。
なに一つ不満はなくて、人生がキラキラと輝いているかのよう。
公爵令嬢という立場故に、あまり公にはできないものの……
それでも、あたしは魔法を学び続けた。
この幸せを、できる限り味わい続けたいと思った。
それが一番の幸せだから、と思っていたから。
……ただ、ちょっとした変化が起きた。
ある日のこと。
馬車で移動中、魔物に襲われるという事件が起きた。
後で調査をして判明したのだけど……
アリアンロッド家と敵対する貴族が裏で糸を引いていたらしい。
潰す?
そんなもったいないことはしない。
せっかくの弱味だ。
とことん絞り尽くしてやろう。
……話が逸れた。
幸いにも、あたしは危機を脱することができたのだけど……
それは、とある方のおかげだった。
フードを被っていたから、顔はわからない。
ただ、圧倒的な魔法を見せて、魔物を倒してくれた。
すごい、の一言に尽きる。
ベテランの魔法使いでさえ、あのような真似はできないだろう。
それだけの力を使うことができる方のことが気になる。
色々な話をしたい。
でも、名前は教えてもらえず。
顔も見せてもらえない。
魔法の話はできなくても。
せめて、お礼を……と思っていたのだけど、あれ以来、会うことができていなかった。
調査を進めていたのだけど、さっぱり。
そんな時、ノクト王子との婚約が舞い込んでくる。
わがままで、傲慢で、わがままなろくでなし王子。
話を聞いた時は、思わずため息をこぼしてしまったものの、それに反対できる立場にいない。
どのような嫌なことがあったとしても、公爵令嬢として、家のためにがんばらなければ。
そう意気込んでいたのだけど……
楽しい。
楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!!!!!
ノクト様は、思っていたよりも真面目で優しく。
そして、予想外なところで、共通の趣味と見識を持っていた。
大好きな魔法について語り合うことができた時は、すごく楽しかった。
気がつけば一時間が経っていた、なんてことは当たり前。
初めての顔合わせという場でなければ、おそらく、徹夜して語り合っていただろう。
こんなに魔法について詳しく、そして、あたしに対しても理解を示してくれる方だったなんて……
世間の評判はまるでアテにならないものである。
そして、もう一つ。
「いつ、あの時のお礼を言おうかしら?」
ノクト様は、あたしを助けてくれたあの人だ。
話をするうちに雰囲気が同じということに気づいて。
そして、あたしのことを気遣い、想いを汲み取る優しいところを見て、確信した。
思わず、体が勝手に動いてしまうような。
そうして、好意を伝えたくなってしまうような。
そんな不思議な魅力を持った人だった。
「ふふ、焦らなくてもいいわね。時間はたっぷりあるのだから」
なにしろ、あたしはノクト様の婚約者。
これからたくさん話をすることができるし、機会なんていくらでもある。
「次はいつ、ノクト様に会えるのかしら? えっと、予定は……」
あたしは、魔法と出会った時とは違うわくわくを感じながら、手帳を開くのだった。




