13話 友達になりましょう?
「……ところで」
気を取り直した様子で、セフィーリアが言う。
「ノクト様は、それだけの力をどこで? いつから魔法が好きになったのかしら?」
とてもわくわくした様子で尋ねてきた。
目がキラキラと輝いている。
まるで子供だ。
でも、それが彼女の魅力なのだろう。
いやはや……
こうして接してみると、セフィーリアは本当にいい女の子だ。
異性としてだけではなくて、人としても魅力的で、非の打ち所がない。
本当、こんな素敵な婚約者を捨てるなんて、ノクトはなにを考えていたのだろう?
バカなのか?
バカなんだな。
「そうだな……きっかけは、恥ずかしながら、人に言われてのことだ。自発的に学び、触れたわけではない」
「あら、意外」
「最初は、力をつけたいがために学んでいた。剣と同じだ。ただ……」
前世の世界にはなかった、特別な力。
それを手にするためにした努力。
それを手にした時の達成感。
なかなか言葉にできないものがあり……
諦めずに鍛錬を続けることができたのは、バッドエンドを避けたいだけじゃなくて、魔法が好きだから、という理由もあるのだろう。
こうしてセフィーリアと話していると、改めて魔法が好きだという気持ちが湧いてきた。
自分の気持ちを、心を再確認できる。
それは、セフィーリアのまっすぐな気持ちが影響しているのかもしれない。
やっぱり、彼女はヒロインなのだろう。
だからこその憧れであり……
そして、少し眩しくもある。
「魔法は魔法で、学んでいて楽しいからな。構造式を組み立てていくところは、パズルに似ているだろう? ああいうところは楽しい」
プログラムと似ているんだよな。
だから、なおさら好きなのかもしれない。
「わかる、わかるわ!」
ぐいっと、セフィーリアが身を乗り出してきた。
やはりというか、目がキラキラと輝いている。
「自身の魔力を魔法を使う時に必要なエネルギーに変換して、構築していく。その時の作業は、ノクト様が仰ったようにパズルのよう。一つ一つ積み重ねていき、不発や暴発しないように配置に気をつけなければいけない。それだけを聞くと面倒に思えるでしょうけど、しかし、その際にかかる手間こそが魔法の面白さ。楽しさ! 技術と知識の両方を必要とされることから、力を試されているようなもの。しかし、しかし! それを乗り越えてこそ、自身の力を証明できるというもの。そうした過程があるからこそ、魔法を身につけることで力だけではなくて優れた精神も身につけることが……はっ!?」
長々と語ったところで、セフィーリアは我に返る。
恥ずかしそうに頬を染めて……
それを隠すかのように、扇子を開いて口元を隠した。
「し、失礼いたしました。あたし、魔法のことになると、どうしても……」
「さっきも言ったけど、いいんじゃないか?」
「でも、公爵令嬢ともあろう者が……」
「楽しいことを楽しいと言う。そこに身分は関係ない」
「……」
「それに俺は、キミが楽しそうに語るところは好きだ。とても生き生きとしてて、笑顔が輝いているからな」
「そ、そうですか……」
セフィーリアは、ふいっと視線を逸らしてしまう。
怒っているわけではないはず。
これも照れ隠しなのだろう。
「……その」
「ああ」
「一つ、お願いがあるのだけど」
なんだろう?
不思議に思いつつ、視線で続きを促す。
「このようなこと、本来なら不敬にあたるのですが……もしよろしければ、あたしと友達になってくれません?」
「俺と?」
「ええ。ノクト様は博識で、同じ魔法好き。それに、とても紳士ね。事前に聞いていた話では、どうしようもないわがまま王子と……失礼」
さすがにまずいと思ったらしく、セフィーリアは謝罪した。
彼女の言うことは本当なので、別に怒るところはない。
「気にしないでいい。確かに、俺はそう呼ばれてもおかしくない行動をしていたからな」
「そうなの? ノクト様を見ていると、とてもそんな風には思えないのだけど……」
「まあ、改心したと思ってくれればいい」
「あら。どうして、そのようなことに?」
「色々と理由はあるが……セフィーリアと仲良くなりたいから自分を磨くことにした、だろうか?」
「なっ……!?」
今日何度目だろうか。
セフィーリアが赤くなる。
「ど、どうして、あたしのような女と……」
「言っただろう? 可愛いから、と」
「あぅ……」
こうして照れるところが本当に可愛い。
ただ、彼女の魅力はそれだけじゃない。
優しく気高く、そして強い心を持っているところだ。
「……ノクト王子は、たらしなのね」
「そう……だろうか?」
「ええ、そうよ。あたしも……少したらされてしまったかも」
くすりと笑う。
その笑みは魅力的で……
同時に、まだ子供なのに蠱惑的でもあった。
さすが悪役令嬢。
そういう笑みは得意なのだろう。
「ノクト様を好意的に思うのは本当で……最初は表面上だけの付き合いを、と言っていたけれど、それは嫌だと思いまして。なので、もしよろしければ、あたしと友達になっていただけませんか?」
「友達に?」
「あたし、もっともっとノクト様のことを知りたいと思ったわ。婚約者の関係でもいいのだけど、それはそれで息苦しそうで、本来の自分を見せられないと思ったから……だから、友達が一番いい関係だと思ったのよ」
「なるほどね」
そう平静を装いつつ、内心では「よし!」とガッツポーズを決めていた。
原作では、ノクトとセフィーリアの初対面は、特になんてことのない乾いた顔合わせだったのだけど……
それを避けることができた。
友達になるという、一歩、進んだ関係になることができた。
ヒロインに媚を売ることができた。
この調子で媚を売り続けよう。
「喜んで」
「ありがとうございます、ノクト様」
俺とセフィーリアは、笑顔を交わして……
次いで、友情の証として握手を交わすのだった。




