42話 また
「元気でな! 気をつけろよ!」
「また来てくださいね、絶対ですよー!」
「二人とも仲良くね!」
「みんな、ありがとう! また!」
俺は馬車から身を乗り出して、見送りに来てくれたファーグランデの人達に手を振る。
隣のシオンも、同じように挨拶をしていた。
今日、俺達はファーグランデを発つことにした。
もう、なにも問題はないみたいだし……
とても居心地のいい街だけど、でも、目的地は北のノーザンライトだ。
いつか戻ってきたいとは思うものの、足を止めるべきじゃない。
「……」
街から離れて。
みんなの姿が遠くなり。
俺とシオンは席に戻る。
北を目指しているから、足を止めるべきじゃない。
それは確かだけど……
ただ、やっぱり別れは寂しいな。
永遠の別れ、っていうわけじゃない。
北にたどり着いたら、またやってくればいい。
そうわかっているのだけど、でも、なかなか心は割り切れない。
「ご主人様」
隣に座るシオンが、そっと俺と手を重ねた。
温かい。
触れた手を通じて、シオンの心の温度が伝わってくるみたいだ。
私がいます。
そう言ってくれているかのようで……
うん、そうだな。
寂しいは寂しい。
でも、俺は一人じゃない。
シオンがいる。
彼女が一緒なら、どんなことが起きても大丈夫だ。
そう思えた。
――――――――――
「ありがとうございました」
「あいよ。機会があれば、またうちの馬車を頼むよ」
御者と挨拶をして、馬車を降りた。
「ここが……」
「港町……オーシャンテイルですね」
丘陵地帯に街が造られているから、入り口から全体がよく見えた。
手前に並ぶ住宅街。
海が近いからなのか、塩害対策の塀などが設置されている。
よく見ると塗装も普通のものと違うから、やはりそれも塩害対策なのだろう。
その奥に商店が並んでいる。
他の街よりも多い気がするのだけど……
たぶん、ここが観光地だからだろう。
遠くから見ていてもわかるくらい賑やかで、たくさんの人がいた。
そして、一番奥。
左手が遊泳場所になっていて、綺麗な砂浜が長く伸びている。
押して帰る波に笑顔を浮かべて。
冷たい海に、やっぱり笑顔を浮かべて。
たくさんの人が楽しそうに海水浴をしているのが見えた。
岩場を挟んだ右手は港になっていた。
小さな船から大きな観光船まで、たくさんの船がある。
さながら船の博覧会。
数え切れないほどで、ここが活気ある港町ということを印象づけさせてくれた。
「おぉ……すごいね。これがオーシャンテイルか……」
「別名、海の入り口です。ここを拠点に、様々なところに海路が伸びていまして……海を行くのならまずはオーシャンテイル、と言われています」
「……」
どうしよう、すごく楽しそうだ。
港町なんて初めてだから、わくわくが止まらない。
街の入り口にいるだけて潮の香りがする。
奥に行けば、もっと近くに海を感じられるんだろうか?
港に行って、船を近くで見たい
大海を旅する船は、きっと力強い姿をしているだろう。
オーシャンテイルに数多く存在するであろう、観光客向けの店も見てみたい。
きっと素晴らしい品がたくさんあるはず。
あと、美味しい食べ物もたくさん。
「ふふ」
「はっ!?」
目をキラキラさせていると、シオンに笑われてしまった。
「えっと、いや、これは……というか、ごめん! 早く北を目指さないといけないのに、俺……」
「気になさらないでください。それに、楽しそうにするご主人様を見ているのも、私にとっては幸せなので」
「そう……なの?」
「はい♪」
とてもいい笑顔で言われてしまう。
そんなにいいもの……なのかな?
たとえば、シオンが今の俺と同じように、わくわくしていたとする。
……うん、嬉しくなるな。
好きな人の笑顔は特効薬みたいなものだ。
「すぐに船に乗れるかわかりませんし、まずは、街を見て回りましょう。それで、情報収集を兼ねて観光も」
「あはは、そうしようか」
シオンに手を差し出して。
「はい!」
シオンが俺の手を取り。
俺達は二人、港町オーシャンテイルに入った。
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