40話 二人の夜
みんなで街の危機を乗り越えて。
食べて、飲んで、歌って……
宴は夜遅くまで続いた。
「……ふぅ」
だいぶ遅い時間になったところで、宿に戻り、ベッドに座る。
酒が入っているから、けっこうクラクラするな。
「ご主人様、どうぞ、お水です」
「ありがとう」
シオンから水を受け取り、一気に飲んだ。
少し頭がクリアーになる。
「ご主人様は、お酒に弱いのですか?」
「うーん、どうなんだろう? 鉱夫をしていた頃は、仕事ばかりでほとんど飲んだことがないから、耐性ができていないのかも」
「……あのご主人様に耐性がないなんて。お酒、恐るべし……ですね」
「永遠のライバルみたいな感じで言われても」
苦笑してしまう。
「ですが、あまり飲まれていないとのことですが、今日はたんさん飲んでいらっしゃいましたね。どうかされたのですか?」
「……別に。宴の席だから、ちょっとハメを外しただけだよ」
「嘘です」
即座に否定されてしまう。
そう言うシオンは、ちょっと寂しそうな顔をしていた。
「なんとなくですが、今、ご主人様は嘘を吐いたような気がします」
「……シオンは、さっきも言っていたけど、本当に鋭いね」
この先、隠し事はできないかもしれない。
「私に、ご主人様にあれこれと問いかける権利はありませんが……ですが、可能ならば嘘を吐いてほしくありません。もちろん、私のわがままであり、このようなことを口にしてはいけないと理解はしているのですが、それでも私は……!」
「……うん、わかった。俺が悪かったよ」
シオンのことは大事に想っている。
そういう関係だからといって、なんでも話せるわけじゃないけど……
でも、話せることは話していこう。
「……今回の事件って、根本的な原因は人にあったんだってさ」
宴の席で、マリアさんから話を聞いた。
マリアさんは、宴が始まるまでの間に事件の調査を進めて……
まだ証拠などは揃っていないものの、ある程度の推測を立てていた。
ニ体のリヴァイアサンが現れた原因は?
きっかけは、とある商人。
彼はとある商談を請けて、リヴァイアサンの卵をダンジョンに運ぶように手配した。
同時に、それの兄弟となる卵は、街から離れた場所に運んだ。
そうすることで、互いに最悪の影響を与えて、今回の事件に至った……らしい。
まだ証拠はないものの、マリアさんは、その可能性が高いと考えているようだ。
では、なぜそんなことをしたのか?
その商人は、ライバルがファーグランデにいるらしい。
ファーグランデが潰れれば、自然とライバルも消える。
「……そんな、とても単純で、酷い理由らしいよ」
「そのようなことが……」
「推測だから、まだ断定はできないらしいけどね。ただ、他に理由は見当たらないらしいから……そうなんだろうな、って」
今回の事件は人が招いたこと。
俺は、親方に助けられた。
だから、人の善性を信じていたのだけど……
今回の件でよくわからなくなってしまった。
親方のように優しい人がいる。
頼りになる鉱夫仲間達がいる。
とても優しいシオンもいる。
でも、一方で、平気で他人を陥れて、自分の利益のために他者を傷つける人がいて……
「優しい人がいて、でも、悪い人もいて……わかっている。わかっているつもりだったんだけど、でも、俺……なにを信じたらいいのかな?」
世界は優しいのだろうか?
それとも、汚いのだろうか?
「……ご主人様は、とても優しいのですね。そして、純粋なのですね」
「シオン?」
シオンが隣に座る。
そして、そっと優しく胸に抱きしめられた。
「とてもおこがましいことと、それは理解しているのですが……どうか、私を信じていただけないでしょうか?」
「シオンを……?」
「私は、自分を善人と言うことはできませんが、ただ、少なくとも悪人ではないと思っています。そして、なによりも……ご主人様の絶対的な味方であると、そこは断言できます」
「……シオン……」
「なにがあろうと。どのような状況になろうと。私は、決してご主人様の傍を離れません。ご主人様の味方であり続けます。命じていただければ、なんでもいたしましょう。ですから……どうか、私を信じてください」
「……ありがとう」
シオンの優しさが嬉しい。
彼女は奴隷だ。
だからこそ優しいのでは? と言う人もいるだろう。
でも、俺はそうは思わない。
奴隷だとしても、なんだとしても、誰にでも優しくすることはできない。
本当に心が澄んでいなければ、人に優しくすることはできないはずだ。
そんなシオンだからこそ、俺は……
「ご主人様」
「うん?」
「その……もしも嫌でなければ、今夜は、ご主人様と一緒に過ごしてもよろしいでしょうか……?」
「それって……」
世間知らずな俺だけど、さすがに、シオンの言いたいことは理解した。
「私ごときになにができるか? 色々と考えたのですが、私を使い、少しでも癒やされていただければ……と」
「それは……」
「このような言い方は、ご主人様は好まれないことは理解していますが、それでも、私はそうしたいと思いました」
「……どうして、そこまで?」
「それは……」
少しの沈黙。
シオンは、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「秘密です♪」




