39話 みんなで笑いたいから
「このっ!!!」
俺がリヴァイアサンを押し留めている間に、シオンが矢を連射した。
最大限の力で。
驚異的な精度で。
ありったけの本数を連射する。
それらは、全てリヴァイアサンの喉を貫いた。
内側からの攻撃に、たまらずにリヴァイアサンは悲鳴をあげて、巨体を逃そうとするのだけど……しかし、それは許さない。
「悪いけど……」
暴れるリヴァイアサンを、強引に力で押さえつけた。
こちとら、毎日、百キロ以上の鉱石を運んで、何十往復としてきたんだ。
それに比べたら、お前なんて……
「軽いんだよ!」
「ッッッ……!?!?!?」
暴れるリヴァイアサンの力を逆に利用して、地面に叩きつけてやる。
さらにもう一度。
おまけに、もう一度。
最後の一回は、よくわからないけど、壁の手前にできていた穴に叩き落とした。
ズゥンッ! と衝撃で大地が揺れる。
リヴァイアサンを叩き落とすと同時に、穴の上に跳んだ。
宙で回転しつつ、体勢を制御。
そのまま、穴の中のリヴァイアサンめがけて落ちていく。
「ご主人様!」
「ナイスサポート!」
リヴァイアサンが這い上がろうとしたけれど、シオンの攻撃で阻止される。
俺達、連携の訓練なんてしていないけど、息がぴったりだ。
もしかしたら相性が良いのかもしれない。
……だとしたら嬉しいな。
「これで……終わりだっ!!!!!」
落下のエネルギーを乗せつつ、拳を繰り出した。
武具店で購入した、特製のナックルをリヴァイアサンの顔面に叩き込む。
「ッッッ……!!!!!?」
骨を砕く確かな手応え。
リヴァイアサンは、ビクンと全身を震わせて……
ややあって、その巨体を穴の底に沈めた。
念の為に様子を見るものの、動く気配はない。
「よし!」
穴の外に出て、勝利を告げるように拳を突き上げて……
「「「おおおおおぉおおおぉっ!!!!!」」」
みんなの歓声が響いた。
――――――――――
「いやはや……クロード君はすさまじいね。まさか、本当にリヴァイアサンを倒してしまうなんて。心から尊敬するよ」
「ああ、本当だな。キミは、誰にも成し遂げられないであろう偉業を成し遂げた。誇るといい」
「えっと……ありがとうございます」
戦いが終わり……
マリアさんとヘイズさんに声をかけられて、ものすごく褒められた。
正直、照れくさい。
「ご主人様の謙虚なところは素敵だと思いますが、この場合は、素直に称賛を受け取り、誇るべきかと」
「えっと……俺、なにも言ってないんだけど?」
「なんとなくですが、ご主人様の考えていること、感じていることがわかりました。ふふ♪」
嬉しそうに言うシオン。
俺の考えていることを察しても、特に意味なんてないだろうに。
「でも……本当にごめんなさい」
「ああ、すまなかった……!」
「え? え? ど、どうして、いきなり謝っているんですか?」
「当然よ。リヴァイアサンなんていう化け物を、新人であるクロード君とシオンちゃんに任せてしまったんだもの。情けないというか……そこまでの責任を押しつけたこと、本当に申しわけないと思っているわ。ごめんなさい」
「俺も、もっと死力を尽くすべきだった。それが、先輩である役目だというのに……二人に任せてばかりで、恥じ入るばかりだ。すまない」
「えっと……気にしないでください」
二人の言っていることは理解できた。
俺も、長く鉱山で働いてきたから、後輩ができたこともある。
その時は先輩として後輩を導いて、危険な目に遭わせないように注意していた。
もしも、後輩が危険な目に遭ったら?
それが自分の力不足によるものだとしたら?
俺は、俺を許せないだろう。
マリアさんとヘイズさんも、たぶん、似たような気持ちを抱いていると思う。
難しい問題だけど……
ただ、できれば忘れてほしい。
「気にするな、っていうのは難しいかもですけど……でも、今は、それよりもするべきことがあるかな、って」
「それは……復興かしら?」
「いや。今後、二度とこのような失態を犯さないための対策を考えることだろう」
「違います」
俺は笑顔で言う。
「笑うことですよ」
「笑う……?」
「どういうことだ?」
「すごく難しい問題を乗り越えることができた。なら、次にすることは? やったー! って、みんなで喜んで笑顔になることじゃないですか?」
「「……」」
「俺、みんなで笑いたいから、がんばって……きっと、シオンも同じです。だから、笑顔になりましょう。それで、楽しく勝利を祝いましょう。それが、次にやるべきことだと思いますよ」
「「……」」
マリアさんとヘイズさんは、ぽかーとしたままで……
ややあって、肩を震わせて笑う。
「ふふ……そうね、確かにその通りだわ」
「ああ、そうだな……俺達は、大事なことをわかったようでわかっていなかった、ということか。本当、勉強不足だな」
「ま、反省は後にしましょう。今は、クロード君が言うように、勝利を祝わないと」
「その通りだな。とっておきの酒を出すことにしよう」
「と、いうわけで……」
マリアさんは、周囲の人達に笑顔で呼びかける。
「みんな、宴を開くわよ!」
「「「おぉおおおおおーーーーー!!!」」」




