３８話　絆の戦いを

「そ、そういえば……」

　マリアさんが、恐る恐るという感じで尋ねてくる。

「あんな化け物……桁違いの強さを誇るリヴァイアサンから、どうやって逃げたのか、って不思議に思っていたけど……ま、まさか……」

「逃げていませんよ？　倒しました」

「っっっ……！？！？！？」

　マリアさんが、ものすごく驚いていた。

　ヘイズさんも愕然とした様子だ。

　そんな二人を、シオンは、なぜか同情的に見る。

「お二人が驚かれるのはとてもよくわかりますが、しかし、本当のことです」

「だって、シオンちゃん……リヴァイアサンを……しかも、ありえないほどの凶暴化して、恐ろしい力を手に入れていたリヴァイアサンを倒すなんて……」

「たった今、リヴァイアサンを蹴り飛ばしたご主人様を見れば、納得していただけるのではないかと」

「「……あぁ、なるほど」」

　納得してもらえたみたいだけど、二人から、なにやらものすごい目を向けられてしまう。

　待って。

　そのおかしなものを見るような、壊れたおもちゃが突然動き出したことに恐怖するような……そんな感じの目はいったい？

　どういうこと？？？

「えっと……なんとか倒せましたけど、シオンの援護があってこそだから」

「ご主人様……えへへ、ありがとうございます。私なんかが役に立てたかとても微妙なところではありますが、しかし、そう言っていただけてとても嬉しいです」

「もちろん。シオンがいたからこその勝利だよ」

「そんな……ご主人様のおかげです、全て」

「そんなことは……」

「……あのさ。イチャイチャするのは、時と場所を選んでもらえないかしら？」

　マリアさんに冷たい口調で言われてしまう。

　しまった。

　シオンと一緒にいると、ついついこうなってしまう。

　それもこれもシオンが悪い。

　彼女はとても可愛いから、ついつい視線を奪われてしまう。

　その仕草も猫のように愛らしくて……って、違う！？

　こういうことを考えているからダメなんだ。

　というか、今は本当に非常時だから、気持ちを切り替えないと。

「あいつは俺達に任せてください。必ず倒してみせます！」

「しかし、それは……いや。もはや、俺達ではどうにもならないな……冒険者になったばかりの君達に頼むようなことではないが……どうか、頼む」

「この街を助けて……！」

　ヘイズさんとマリアさんが頭を下げて、強く言う。

　ここまでしなくてもいいのだけど……

　でも、二人は、それだけこの街が好きなのだろう。

　その想いがあふれて、ここまでしているのだろう。

「その依頼、請けました」

――――――――――

　壁からクロードとシオンが飛び降りた。

　二人は、そのまま地面にしなやかに着地する。

　突然蹴り飛ばされて激怒するリヴァイアサンは、その怒りを発散するため、目の前に現れた小さな獲物に喰らいついた。

　体全体を使い、押し潰すかのような喰らいつき。

　ある意味で、全身を使った体当たり。

　そのようなもの、人の身でどうにかすることはできない。

　落下してくる巨大な岩石に身を晒すようなものだ。

　なにもできず、ただ潰されるだけ。

　……潰されるだけのはずなのだが。

「よいしょ……っと！！！」

　クロードは、リヴァイアサンの突撃を受け止めてみせた

　なんの小細工もなしに。

　単純な力比べをして。

　真正面から競り合い、受け止めてみせた。

「「……」」

　ヘイズとマリアは、もはや開いた口が塞がらない。

　想像できないほどの力を秘めた少年であると、理解した。

　していたつもりだったのだけど……

　実際に、いざ目の前でその無茶苦茶すぎる力を見せつけられると、もう頭の中はからっぽだ。

　なにも考えられなくなってしまう。

　すごいねー、だけ。

「「「……」」」

　他の冒険者や兵士達も同じ様子で、まともに言葉を紡げない様子だった。

「いきます！」

　クロードが突撃を受け止めている間に、シオンがリヴァイアサンに向けて矢を放つ。

　……そんなシオンもまた、異常だった。

　クロードがリヴァイアサンを受け止めて、その目の前で矢を放つ。

　敵が大口を開けているところを狙う。

　クロードが、リヴァイアサンに押し負けたら？

　その時は、シオンも一巻の終わりだ。

　一緒に死んでしまうだろう。

　死が隣りにあるというのに、そこから逃げることなく、むしろ立ち向かうようなことをする。

　そこにある想いは、クロードに対する絶対的な信頼だ。

　クロードが押し負けるはずがない。

　必ず食い止められるはず。

　そう信じているからこそ、迷うことがないからこそ、一歩間違えば死ぬような状況でも、恐れることなく攻撃をすることができた。

　クロードもまた、そんなシオンの気持ちをわかっているからこそ、リヴァイアサンを受け止めて、しっかりとその場に押し留めている。

　その戦いかは、二人の絆が現れているかのよう。

　互いを心の底から信じているからこそ、背中だけではなくて、命を預けることができる。

　ただの主従関係では絶対に得ることができない、二人の心の結びつきを感じることができる光景だった。