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37話 希望はある

 ヘイズは死を覚悟して目を閉じた。

 そして、すぐに巨大な破壊音が聞こえてきた。


 あぁ……どうやら、俺は死んだらしい。

 これほどの轟音を引き起こす攻撃を受けて、生きていられるわけが……


「……いや、待て?」


 どうして、音が聞こえる?

 死んだのなら、そんなものは聞こえない。


 そもそも、どうして、こうしてものを考えることができる?

 死んだのなら、やはりそんなことはできない。


 もしかして、俺はまだ生きているのだろうか?


 ヘイズは恐る恐る目を開けて……


「なっ……!?」


 目の前に広がる光景に絶句した。


「どけぇえええええっ!!!」


 クロードがリヴァイアサンを蹴り飛ばしていた。


 生きていたことも不思議ではあるが。

 自分の何倍の巨体を誇るリヴァイアサンを、いったい、どうやって蹴り飛ばすことができるのか?


 あまりにも現実離れした光景に。

 そして、あまりにも予想外すぎる展開に、ヘイズは、ただただ唖然とするしかない。




――――――――――




「ご主人様、街の様子がおかしいです!」


 色々とあって……

 地上に戻ると、街は戦場のような騒ぎになっていた。


 慌ただしい様子で色々と指示を飛ばしている兵士に声をかける。


「すみません、いったい、なにが起きているんですか?」

「なに、って……リヴァイアサンのことを知らないのか!?」

「え?」

「今、リヴァイアサンの襲撃を受けているんだ! なんで、そんな大事なことを……ああもう、説教をしている場合じゃないな。とにかく、すぐに頑丈な建物に避難してくれ! いいか? できるだけ頑丈な、可能であれば地下に避難するんだ!」


 そう言うと、兵士は別のところに移動した。


 残された俺とシオンは、共に首を傾げる。


「今、リヴァイアサンって言ったよな?」

「はい。ですが、リヴァイアサンはご主人様が……」

「とにかく、様子を見に行こう!」

「はい!」


 シオンと一緒に街を駆けた。


 たくさんの人が荷物を抱えて、我先に逃げ出している。

 ただ、あちらこちらで混乱が起きているらしく、避難は一向に進んでいない様子だ。


 もしも、こんなところをリヴァイアサンに襲われたら?

 ……想像するだけで震えてきた。


「ご主人様、あちらを!」

「あれは……」


 街の門に近づいてきたところで、激しい戦闘音が聞こえてきた。


 大きな土煙が舞い上がり……

 一瞬ではあるものの巨大な影が見える。


「本当にリヴァイアサンだ……」

「え? ご主人様、今の、細かいところまで見えたんですか? 私は、よくわからない大きなものがいるとしか……」

「鉱山で働いていたから、視力はいい方なんだ」

「鉱山なら、むしろ悪くなるような……?」


 安全を確保するために、どんな小さな違和感でも見逃してはいけない。

 そんな環境にいたからなのか、視力はとてもいい。

 きちんと計ったことはないけど、両目とも、10・0くらいはあるんじゃないかな?


「たぶん、もう一匹いたんだ」

「災厄級の魔物が二匹も!? そのようなことが起きるなんて、そんなこと……」

「俺も理由はわからないけどね。でも、実際、目の前にいる。なら……」

「このまま放っておくことはできませんね」

「そういうこと」

「微力ながら、お手伝いさせていただきます」

「うん。頼りにしているよ」

「はい、お任せください!」




 そして……




――――――――――――


「どけぇえええええっ!!!」


 壁を壊そうとしていたリヴァイアサンに飛び蹴りを叩き込んだ。


 リヴァイアサンがガラスを割ったかのような悲鳴をあげて。

 そのまま、壁の外に墜落していく。


 リヴァイアサンを蹴った反動で、位置を調整して壁の上に着地。

 そこにいたヘイズさんに声をかける。


「ヘイズさん、大丈夫ですか!?」

「え……ぁ……あ、ああ。だ、大丈夫だ……」

「本当ですか? なんか、様子がおかしいですけど……」

「……人は、心底驚いた時、言葉をなくすらしいな。そういう話をよく聞くが、どうやら、真実だったらしい」


 なんのことだろう?


「リヴァイアサンは、もう一匹、いたんですね?」

「そうよ」


 いつの間にか、マリアさんも壁の上に上がってきた。

 シオンも一緒だ。


「まだ詳細がわからないところもあるから、細かいところは説明できないのだけど……街の外からやってきたリヴァイアサンと、街の中のダンジョンに潜んでいたリヴァイアサン。二匹……いたのよ。もう、この街はおしまいだわ……クロード君とシオンちゃんが生きていてくれて、本当によかった。私達がなんとか時間を稼ぐから、二人は、そのうちに逃げてちょうだい」

「できません」

「……え?」


 即答すると、マリアさんが目を丸くして驚いた。


 というか……


「たぶん、逃げる必要はないと思います」

「なっ……わ、私の話を聞いていたの!? リヴァイアサンが二匹もいるのよ!?」

「そのうちの一匹なら、もう倒しました」

「「……は?」」


 今度は、ヘイズさんの声も重なった。



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