表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/42

36話 総力戦

 どうにかこうにか短時間で準備を整えて。

 街の外に出て、迎撃体制を敷いて。


 そして……


「来たぞーーーーーっ!!!」


 災厄が街に襲いかかる。


 外からやってきたリヴァイアサンは、尾を含めて十メートルくらいの大きさだ。

 ダンジョンにいたものと比べたら、半分以下のサイズ。


 それでも災厄級だ。

 まともに討伐しようと思えば、一ヶ月近い準備が必要になる。


 今回は、事前準備なし。

 ぶっつけ本番。


 絶望的な状況ではあるが、しかし、逃げ道はない。

 ここまで来たら戦うだけ。

 それが、唯一の生き残る可能性なのだ。


 それを理解しているからこそ、街の兵士と騎士。

 それと冒険者達は、恐怖に震えつつも、誰も逃げることなく、怪物に立ち向かうことにした。


「まだだ、まだひきつけろ!」


 現場の指揮はヘイズがとっていた。

 街を囲む壁の上に立ち、迫りくるリヴァイアサンを睨みつつ、大きな声で指示を飛ばす。


 同じように壁の上に立つ兵士や騎士、冒険者達は、それぞれ遠距離攻撃の準備をした。

 弓、投げ槍、投擲ナイフ、魔法……攻撃手段は様々ではあるが、威力に不安がある。


 本来なら攻城兵器でも用意したいところだが、普通の街にそんなものはない。

 似た兵器がなくはないのだけど、準備が間に合わない。


「……今だっ、放て!!!」


 ヘイズの合図で、一斉に遠距離攻撃が行われた。


 物理と魔法。

 両方の属性で攻める。


 百を超える同時攻撃。

 それは暴力の嵐で、普通の魔物ならば絶対に耐えられるものではない。


 しかし……相手は災厄級だ。


「ルゥオオオオオオオーーーーーンッ!!!」


 ガラスを擦るような鳴き声を響かせつつ、リヴァイアサンが突撃した。


 刃や魔法が直撃するものの、しかし、その頑丈な鱗を突破することはできない。

 全て弾かれてしまう。


 リヴァイアサンからしたら蚊に刺されたようなもの。

 ヘイズ達の攻撃を嘲笑うように突撃を続ける。


「怯むな、撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!!!」


 退くわけにはいかない。

 そもそも、退いたところで安全が確保されるわけではない。

 終わりになるだけ。


 なら、どれだけ絶望的な戦いだとしても、戦うしかない。

 退くことなく、前に突き進むだけだ。


「今だっ!!!」


 リヴァイアサンが街を囲う壁の手前ギリギリまで来たところで、ヘイズは叫んだ。

 それを合図として、魔法を使える者達が動く。


 罠を用意する時間はない。

 ただ、人が代わりを務めることは可能だ。


 数十人がかりで土属性の魔法を唱えた。

 リヴァイアサンの足元が変形して、巨大な穴を作る。


 魔法による落とし穴だ。


 一部とはいえ地形を一瞬で変えるとなると、膨大な魔力を必要とする。

 魔法を唱えた数十人は、魔力を使い果たして、もう戦うことはできないだろう。


 それでも効果はあった。


 リヴァイアサンは悲鳴をあげてつつ、穴の中に落ちた。

 底は深く、巨体を誇るリヴァイアサンですら簡単に這い上がることはできない。


「続けて、前に出ろ! ヤツにたっぷりと浴びせてやれ!」


 控えていた後続部隊が穴に近づいた。

 その手に持つのは武器ではなくて、樽だ。


 穴に落ちたリヴァイアサンに向けて、次々と樽を放り投げていく。

 リヴァイアサンに当たると樽が砕けて、中に入っていた油が鱗にまとわりついた。


 そして……


「燃えてしまえぇえええええ!!!」


 ヘイズが火矢を放つ。

 正確無比にリヴァイアサンが落ちた穴に飛んで……


 ゴゥッ!!!


 一気に炎が広がり、巨大な火柱が立ち上がる。

 空に届きそうな勢いで、熱波と衝撃で、いくらかの味方が吹き飛ばされてしまう。


「くっ……ありったけの量の放り込んだが、やりすぎたか。しかし、これならば……」

「まだよ!」


 後方で味方をまとめていたマリアが前に出て、悲鳴のような声をあげた。

 顔を青くして、全身をカタカタと震わせている。


 彼女は魔法使いだ。

 故に、当たり前の話ではあるが、魔力の感知に長けている。


 マリアは感じていた。

 穴の底から魔力が膨れ上がるのを。


 こちらもまた、予想外の魔力量だ。

 あまりに膨大なため、ただただ絶望しか感じることができない。


 倒せるかもしれない、という希望?

 そんなものはない。

 欠片もない。

 ゼロだ。


「ルゥゥゥウウウウウォォォオオオオオッ!!!!!」


 尾をバネのように利用したらしく、穴に落ちたリヴァイアサンが勢いよく飛び出してきた。


 その全身は、油をかけられたことで燃えているのだけど、しかし、大きなダメージを受けている様子はない。

 猫に引っかかれた程度だろうか?


 ただ、それでも痛みは痛み。

 リヴァイアサンは激怒して、目の前に広がる街と、そこに巣食う羽虫達を叩き潰そうした。


 己の体を武器として。

 全身をしならせて、叩きつけるように体を振るう。


「……終わった……」


 目の前に迫る巨体を前に、ヘイズはなにもできない。

 防御なんて不可能。

 回避は間に合わない。

 待ち受けているのは、死、一択だ。


「ヘイズ、みんな、逃げてぇえええええ!!!」

「……すまない、マリア」


 マリアの悲鳴を耳にしつつ、ヘイズは諦めて目を閉じた。


 そして……

 世界を壊したかのような、強烈な音が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ