31話 再びダンジョンへ
準備をして。
しっかりと休息をとって。
そして、再びダンジョンに潜ることに。
ただ、俺とシオンだけじゃなくて……
「さて、暴れてやりましょうか」
「……あまり無理はしないでくださいよ。ギルドマスターは、彼のように無茶できる歳ではないのだから」
「あー、ちょっと! 女に歳の話は現金よ。もう、だからヘイズは結婚できないのよ」
「ぐっ……そ、それは別に……」
マリアさんとヘイズさんも一緒だった。
俺達だけに任せることはできないと、パーティーを組むことを提案してくれた。
もちろん、断る理由なんてないので了承した。
ただ、それから少し、シオンの様子がおかしい。
「……せっかく、ご主人様と二人きりだったのに」
「シオン、どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
もしかして、嫉妬……?
ただ、嫉妬させるようなこと、俺はしていないが……うーん?
「クロードとシオンには悪いが、この場は俺が指示を出すが、それでいいな?」
「はい、問題ありません」
「ベテランのヘイズさんならば、安心して任せられます」
「助かる。では……今回のダンジョン攻略は、スタンピードに関する調査だ。アリか、ナシか。できる限りそれを早く判断した後、アリの場合は、同じく、速やかに原因となるものを除去する。ナシの場合は、笑って帰ろう。いいな?」
「「はい!」」
――――――――――
四人でのダンジョン調査が始まった。
メンバーは、俺とシオン。
そして、ギルドマスターのマリアさんと、ベテランのヘイズさん。
初心者用のダンジョンの上層で苦戦するはずもなく、サクサクと攻略を進めていく。
スタンピードの手がかりが見つかることはなくて……
三層に辿り着いた。
「二人は、三層で刈り取るものと出会ったのよね?」
「はい、そうです」
「少し先に行った、開けたところでした」
「なるほど……一応、嫌な気配はしないけど、気をつけていきましょう」
「それなら、前衛を任せてくれませんか?」
「え? それは……」
「俺、頑丈なので。あと、目もいいから、魔物を見つけやすいと思います。逆に、スタンピードに関連するようなものを見つけられるか、知識がないから自信がなくて……二人は、そっちの調査に集中してほしいんです」
「……一理あるわね」
「頼んでみてもいいのではないか? クロード君は、刈り取るものを撃破した。そうそう、大変なことにはならないだろう」
「……そうね。じゃあ、お願いするわ。ただ、決して無理はしないで」
「はい!」
やった、前衛を任せてもらえた!
すごい二人に認めてもらえたみたいで、すごく嬉しい。
よし。
しっかりと役目を果たすため、一生懸命がんばろう!
「……あの」
「なにかしら?
「あまり、ご主人様にやる気を出させるようなことを言わない方が……」
「あら? それのなにがいけないのかしら。クロード君は……まあ、新人ではあるけど、その力はすごいわ。多少、勢いづいた方がいいんじゃない?」
「そうかもしれませんが……私は、一応、警告しましたよ? 後で驚くようなことになっても、文句は言わないでくださいね」
後ろの方で、不思議なやり取りが交わされていた。
でも、今は気にしない。
パーティーの前衛として、俺は、ぐいぐいっと前に進んで……
ドガァッ!!!
「な、なによ!? 今の爆発は!?」
「おい、まずいぞ!? クロード君がトラップを踏んだみたいだ!」
「ってことは……えっ!? 今の、魔導爆雷!? うそ……そんなものがまともに直撃したら、人なんて……」
「あ、大丈夫ですよ」
「シオンさん!? あなた、どうしてそんなに落ち着いているの!? クロード君が死んだかもしれないのに……!」
「おい、まさか現実逃避をしているのか? くっ……二人は仲が良さそうだったからな。それも仕方ないか……」
「あ、いえいえ。そういうわけではなくて、本当に問題ありませんから。ほら、あちらを見てください」
「こほっ、こほっ……ちょっと煙を吸い込んじゃったな」
「「……」」
「あれ? どうしたんですか、二人共。なにか、すごく驚いているみたいですけど」
「「いやいやいや!!」」
マリアさんとヘイズさんに詰め寄られてしまう。
「魔導爆雷を踏んでおいて、なんで、そんなケロッとしていられるわけ!? 普通は死ぬし、運良く助かったとしても、足が吹き飛んだりするのよ!?」
「それなのに、煙を吸い込んで咳き込んだだけとか、クロード君は、どれだけ頑丈だというのだ!?」
「えっと……これくらいの爆発なら、よく経験していましたから」
「「よく!?」」
「俺、鉱山で働いていたんで、まだ経験が浅い頃、失敗して、何度も発破に巻き込まれていたんですよ。鉱山の発破って、とても硬い岩盤を崩すために強力な爆薬が使われているから……それと比べたら、今のは可愛いものですね」
「「……魔導爆雷が可愛い……」」
発破に巻き込まれた時は、さすがに、最初は俺も怪我をしていた。
ただ、何度も何度も繰り返していくうちに、体が慣れてきたらしく、ちょっと痛いとか、驚いたとか、それくらいで済ませられるように。
まあ、そのうち、作業に慣れて巻き込まれるような失敗はなくなったけど。
「ね? 大丈夫でしょう」
「マリアさんは、このことを知っていたのかしら……?」
「はい。先の探索では、ご主人様は、数々のトラップを受けつつもまったくの無傷で、ぐんぐんと突き進んでいきましたから。あの時は、私は、夢を見ているものかと」
「……シオンちゃんって、苦労しているというか、困らされているのね」
「はい……ご主人様がすごいということは理解したつもりではありますが、しかし、日に日に新しいとんでもなさが表に出てきて、やはり驚くことになりまして……」
シオンとマリアさんは、なにか奇妙な縁を感じたらしく、仲良さそうだ。
一方、ヘイズさんは、ぶつぶつとなにかを呟いている。
「これだけ頑丈だというのなら、最強のタンクになれるのではないか? きちんと育てて技術を持ち、経験を積ませていけば、俺の後継者になることも……いや。それ以上に、ファーグランデを代表する冒険者に……いける、これはいけるぞ!」
「えっと……」
二人の反応がおかしい。
いったい、どうしたのだろう?
不思議に思っていると、シオンがやってきた。
そして、少し怒った様子で言う。
「ご主人様、わかりましたか?」
「なにを?」
「ご主人様が当たり前を思っていることは、他の人にとっては当たり前でないことが多く、このように驚かれたりしてしまうのです」
「それは……確かに」
「なので、今後は、できる限り気をつけてください。初めてのことは、まあ、どうしようもないかもしれませんが……二度は繰り返さないように、注意をしていただければ幸いです」
「そう……だな。うん。気をつけることにするよ」
「はい。ありがとうございます、ご主人様」
話がまとまる一方で、
「私達を出汁に使わないでくれる?」
「能力はともかく、二人はなかなか度胸があるな」
マリアさんとヘイズさんにジト目を向けられてしまうのだった。
……これは、俺は悪くないよな?




