表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/42

29話 災厄の予兆

「おまたせしました」


 受付嬢が戻ってきた。


「報酬ですが、ギルドの口座に振り込んでおきました。これで、いつでも、ギルドに行けばお金を引き出すことができますよ」

「ありがとう」

「いえいえ、ギルドは冒険者の味方なので……ところで」


 笑顔が消えて、真面目な顔になる。


「これから少し、お二人の時間をいただいてもよろしいですか?」

「え? えっと……」

「私は問題ありませんが……ただ内容によるかと。ご主人さまに、どのような要件でしょうか?」

「大事な話があるらしく……ただ、ここではちょっと」

「不利益となるような話ではありませんね?」

「はい、それは大丈夫です。相談……のようなものでしょうか?」

「……ご主人様、どうされますか? 私としては、話を聞くだけならば、とは思うのですが」


 厄介ごとの予感はする。

 ただ、ギルドの話は、なるべき断らない方がいいだろうし……

 ここで断ることで後悔するかもしれない。


「わかりました。それじゃあ、ひとまず話だけなら」

「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」


 周囲の冒険者達の訝しげな視線を受けつつ、俺とシオンは、受付嬢に奥の客間に案内された。


 そこで待っていたのは、俺達の試験官を務めてくれたヘイズさん。

 それと、とても綺麗な女性だった。


 歳は……二十代後半くらい?

 燃えるような赤い髪が特徴的だ。


 それと、とてもスタイルがいい。

 露出の高い服を着ているせいで、ちょっと目のやり場に困る。


「むぅ……ご主人様」


 シオンに睨まれてしまう。

 違う、誤解……誤解でもないのか。


 く……男の悲しい性だ。


「よく来てくれたわね。私は、マリア・ホーシェンド。ここのギルドマスターをやらせてもらっているわ」

「えっ、ギルドマスターだったんですか!?」


 ついつい驚きの声をあげてしまう。


「あはは、素直な反応ね」

「いえ、その……すみません。つい……」

「私も、申しわけありません……とても若く美しい方なので、まさか、ギルドマスターとは……」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね。ありがと。とりあえず、二人も座ってちょうだい」


 促されて、二人と向き合うようにソファーに座る。


「ごめんなさい、いきなり呼び出したりして。でも、どうしても二人に協力してほしいから、ちょっと強引になっちゃったの」

「協力……ですか?」

「説明は俺がしよう」


 ヘイズさんが口を開いた。

 とても真面目な顔をして、静かに言葉を紡いでいく。


「これからする話は、ここだけの秘密にしてほしい。絶対に口外しないように」

「……はい、わかりました」

「ありがとう。では、本題に入るが……まだ断言はできないのだが、もしかしたら、スタンピードが起きるかもしれない」

「「えっ!?」」


 俺とシオンの驚きの声が重なった。


 スタンピード。

 なにかしらの原因により魔物が大量発生して、津波のように一気に押し寄せてくる現象だ。

 その規模は、最低でも万を超える魔物が発生するというもの。


 対処は極めて困難。

 一度、スタンピードが発生したら、村や街が滅びてしまい……

 最悪、国が滅びることもあるという。


「スタンピードなんて……それは、本当なんですか?」

「まだ調査中なので、断言することはできない。ただ、それらしい兆候があったことは確かだ」

「兆候……?」

「刈り取るものよ」


 マリアさんが、ヘイズさんの言葉を引き継いで言う。


「刈り取るものなんていう、とんでもない魔物、あんなダンジョンに現れることはないわ。あそこは、あくまでも初心者用のダンジョンだもの。それなのに現れたということは、なにかしらの異変が起きているということ」

「ダンジョンを巡る魔力に異常が起きているか。あるいは、知らぬ間に、他所から強力な個体が流れ込み、ダンジョンを根城にしたか……色々な可能性が考えられる」

「どちらにしても、あのダンジョンで異変が起きていることは確定よ。刈り取るもの、なんてものが現れたことこそが証拠となる」

「なる……ほど」


 どんどん話の規模が大きくなってきた。

 緊張してきたのだけど……


「……」


 シオンが、そっと俺の手を握ってくれた。

 すっと不安が和らいで、落ち着く。


 ありがとう、シオン。

 心の中でお礼を言いつつ、引き続き、話に耳を傾ける。


「可能性がある、というだけではあるが、しかし、スタンピードが発生したらどうすることもできない。ファーグランデは終わりだ」

「だから、スタンピードを発生させてはいけないわ。そうなる前に原因を突き止めて、それを排除しないといけないの……絶対に」

「……俺達が呼ばれたのは、もしかして」

「ええ、考えている通りで間違いないわ」

「あのダンジョンを調査してもらい、スタンピードの原因を見つけ出して、排除してほしい」

「「……」」


 思っていた以上に規模のでかい話に、すぐに返事をすることができない。


 スタンピードはとても危険なことだけど……

 ただ、その原因も、とても危険なものであることに間違いはないだろう。


 そのようなものに関わるべきなのか?

 また、シオンを危険に晒してもいいのだろうか?


 シオンを一人にするつもりはない。

 彼女と一緒にファーグランデから逃げる……という選択肢もある。


「私がこの話をしたのは、キミ達なら、きっと成し遂げてくれると思ったからよ。でも、もちろん、無理強いはしないわ。とても危険な依頼で、命の危険があるかもしれない。だから、判断は二人に任せるわ」

「それは……」


 シオンを見た。

 シオンは、俺に全て任せるという感じで、コクリと頷く。


 どうする?

 どうすればいい?


 スタンピードという最悪の災厄を前にして、俺は……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ