28話 ありがとう
「こちら、今回の賞金になります」
冒険者ギルドに戻り、事の顛末を報告して、確認が行われて……
そして、大きな革袋を渡された。
中を確認すると、金貨、金貨、金貨……金貨の山だ。
刈り取るものを討伐した賞金、金貨一千万枚。
思っていた以上の金額だ。
これだけあれば、次の街へ行けるだろう。
鉱山にいた身からすると、ファーグランデは大都会なのだけど……
世界レベルで見たら、ファーグランデは田舎らしい。
故に、他の街との距離も離れていて、安全な移動のためにはお金がかかる。
次の街へ向かうには、装甲馬車がいいらしい。
安全で速い。
値段は、一人、金貨百万枚と高いものの、その値段に見合う価値はあるらしい。
「こちらの賞金ですが、そのまま納めますか? それとも、ギルドの銀行に預けますか? 額が額なので、銀行に預けることをお勧めしますが……」
「銀行?」
「ギルドが責任を持ってお金を預かります。各地のギルドでお金を引き出すことができます」
「へぇ、便利だね」
「もっとも、引き出しの際は冒険者証が必要となりますから、なくされたり盗難された場合は、少し厄介なことになりますが」
デメリット……と言うほどのデメリットではないか。
冒険者証は、冒険者にとってとても大事なものだ。
そもそも、それをなくすという話自体がありえない。
「ご主人様。私は、ギルドの銀行を利用した方がいいと思います。やはり、大金を持ち歩くことは危険が高く……それに、ギルドなら管理も安心で、破綻することもないでしょう」
「そうだね。じゃあ、そうしようか」
「はい、了解いたしました。では、さっそく手続きをしてきますね」
受付嬢はにっこりと笑うと、金貨の入った革袋を手に奥へ消えた。
その瞬間……
「なあ!? あんたが、刈り取るものを倒したんだよな!? いったい、どうやったんだ? あの死神のような化け物を倒すなんて……本当にすごいな!」
「もしかしたら、将来、とんでもない冒険者になるかもしれないわね。ふふ、今のうちにサインをもらっておこうかしら?」
「今度、話を聞かせてくれよ。もちろん、ただとは言わないさ。うまい酒と料理をおごるぜ」
一斉に、周囲にいた冒険者達に話しかけられた。
たぶん、声をかけるタイミングを見計らっていたんだろう。
「えっと……話をするといっても、そんな、話せるようなことはないんだけど」
「もったいぶらないでくれよ。あ、もしかして、あんたの力の秘密があったりするのか? だとしたら、簡単には口にできないよな。悪い。冒険者のマナーを破るつもりはなかったんだが……」
「あ、いや。そういうわけじゃないさ。本当に、大したことはしていないというか……全力で殴りまくって、核っぽいところを見つけたから、槍を叩き込んで砕いただけ。無我夢中だったから、細かいところは覚えてないな」
「「「……」」」
簡単に説明すると、冒険者達は唖然とした表情に。
どうしたのだろう?
「皆さん、ご主人様の無茶苦茶な戦い方に、驚いているのかと」
「え、なんで? むしろ、呆れられると思うんだけど」
基本、殴っていただけ。
そんな稚拙な戦い方、笑われる以外にないだろう。
そう思っていたのだけど、みんなの反応は違う。
「おいおいおい……兄ちゃん、正気か? あの刈り取るものを相手に、接近戦を……しかも、殴りつけただって? 普通、たったの一撃で拳が砕けるぞ。あいつは、攻撃力だけじゃなくて防御力も半端なくて、鋼鉄をまとっているようなものなんだ。よく平気だったな……というか、よくやつの防御を突破できたな? 兄ちゃんの拳は、金剛石かなにかでできているのか?」
「もちろん、攻撃力も凄まじいわ。鉄をバターのように切り裂いて、こちらの防御なんか無視して、一撃で致命傷を与えてくる。だから、ヤツと戦うとしたら、近づかないで、遠距離で戦うことは必須なのよ。そのセオリーを無視して、あえて近接戦闘をしかけるなんて……すさまじいわね」
「あんた、この前、新規登録したばかりだったよな? それなのに、刈り取るものを討伐するとか……いやはや、いるんだな。世の中には、本物の天才ってやつが。あ、嫌味とかじゃないぞ? 俺の言う天才ってのは、努力も含まれているからな。なに、あんたを見ればわかるさ。相当な努力を積み重ねてきたんだろうな、って」
ものすごい持ち上げられていた。
認めてくれるのは嬉しいけど、ただ、褒めすぎのような気もして……うーん。
ちょっと複雑な気分だ。
「ふふん」
なぜか、シオンが得意そうな、誇らしそうな顔をしていた。
「……すまない、ちょっといいか?」
新しく声をかけてきたのは、見覚えのある顔だった。
ダンジョンの前で軽いトラブルになって。
そして、刈り取るものに追われていた三人組の一人だ。
「あ、よかった」
「え?」
「ほら。あなた達を逃がした後、どうなったかわからなかったから。あ、でも、他の二人は? ここにいないっていうことは、怪我とか……?」
「い、いや、大丈夫だ。まだ宿で休んでいるが、疲労が強いだけで、怪我は大したものじゃない」
「そっか、よかったよ。これでまた、冒険者を続けられるな。本当によかった」
「……あんたっていうヤツは、本当に」
「うん?」
「ありがとう」
深く頭を下げられた。
俺は、突然のことに戸惑い、なんて言えばいいのかわからなくなってしまう。
その間に、男は言葉を続けていく。
「あんたがいなかったら、俺は……いや。俺達は全滅していた」
「あ、いや。そんなことは……」
「謙遜しないでくれ。俺達じゃあ、刈り取るものを相手に戦うなんて無理だ。仮に戦いを挑んでも、一分と経たずに殺されていただろう」
そんなに危険な相手なのか。
今更ながら、無茶をしたと震えてきた。
シオンが心配して、怒るのも当然だ。
「あの場合、俺達を見捨てても咎められることはない。むしろ、見捨てて当然という判断になる。それなのにあんたは、俺達を助けてくれた……本当に、本当にありがとう! この恩は絶対に忘れない、いつか必ず……!!!」
「えっと……」
別に、恩を着せるために助けたわけじゃない。
だから、恩返しなんて必要ないのだけど……
ただ、それを断ると、この人の想いを否定することになる。
場合によっては、恥をかかせてしまうことも。
「……うん、了解。なにかあれば、その時は頼りにさせてもらうよ」
「あ、ああ! 任せてくれ、必ず力になると約束する!!」
男は笑顔になり、嬉しそうに何度も何度も頷いた。
……そっか。
その笑顔を見て、ようやく理解した。
俺は、この人と、その仲間を助けることができたのか。
言葉にできない達成感が湧き上がる。
俺……
冒険者になって、よかったかもしれない。
本当に、心の底からそう思うことができた。




