25話 偉業
「それを……待っていた!!」
刈り取るものが隙を見せた。
そう認識すると同時に、体が勝手に動いていた。
地面を蹴り、ありったけの力で前へ。
そのまま刈り取るものに抱きつくようにして、地面に押し倒す。
マウントポジションへ。
「これなら、どうだ!?」
後のことは考えない。
他のことは気にしない。
今は、刈り取るものを倒すことだけを考えて……
両手にありったけの力を込めて、上から下に、拳を乱打した。
顔を殴る。
肩を打つ。
胸を抉る。
殴って殴って殴って、殴りまくる。
俺は戦闘技術を持たない。
効率的なダメージの与え方なんて、なにも知らない。
だから、ひたすらに手数を増やして。
それと、ありったけの力を込めて。
でたらめに殴りつけて、ダメージを重ねていく。
「ギッ……ガガガ……!?」
初めて、刈り取るものから悲鳴のような声がこぼれた。
ダメージが蓄積されているのだろうか?
右手に持つ鎌を落とす。
今がチャンスだ。
俺は、さらに拳を叩きつけて……
「ガッ……!!!」
「うぁ!?」
刈り取るものも両手を振る。
その指先は槍のように鋭くなっていて、触れるものを切り裂いて、穴を穿つ。
ヤツは、体そのものが凶器なのだろう。
嵐が吹き荒れたかのような、激しい反撃。
マウントポジションを取られているのに、刈り取るものは的確にこちらを狙い、攻撃を叩き込んできた。
肉が裂けて、血が流れていく。
あちらこちらが痛い。
というか、寒さを感じるくらい、ちょっとまずい状況になっていた。
でも、ここで手を止めるわけにはいかない。
この状況を逃したら、もうチャンスは巡ってこないだろう。
今が最大の好機で、最後のチャンス。
絶対に……逃さない!
「うぉおおおおおおおっ!!!」
痛みは無視。
鈍くなる体も無視。
気合を咆哮に変えて、さらに拳を連打して、加速させていく。
打つ。
突く。
殴る。
打って殴って殴って殴って突いて突いて打つ打つ打つ殴る殴る殴る殴る殴る突いて突いて突いて打つ突く殴る打つ突く殴る打つ突く殴る……
力を入れすぎたのか、攻撃の度に俺の拳も傷ついていく。
肉が裂けて、血まみれに。
骨が露出している箇所も。
それでも攻撃は止めない。
絶対に倒してみせると、決意と覚悟の攻撃を叩き込んでいく。
……ただ。
あと一手が足りないような気がした。
確かなダメージを与えているものの、最後の最後で手が届かないような……そんな予感。
このままだと負ける。
最後の一手を押し切ることができず、負けてしまう。
そう思ったけど、不思議と焦ることはない。
安心していた。
なぜなら……
「これなら、どうですか!?」
きっと、彼女が最後の一手を出してくれるから。
シオンは、持ってきたナイフを連続で、全て投擲した。
狙いは頭部。
一本も外れることなく、全てが刈り取るものの頭部に突き刺さる。
「ギッ……ガァッ!!!」
それでも、まだ倒れてくれない。
なんていう生命力。
これこそが、『冒険者殺し』と言われている魔物の真の恐ろしさなのだろう。
……でも。
シオンは、単純に急所を狙い、ナイフを投擲したわけじゃない。
もう一つの狙いがあったのだろう。
それは……俺に武器を届けること。
「これで……!」
刈り取るものの頭部に刺さったナイフを引き抜いて、両手に持つ。
刈り取るものを上から睨みつけた。
一瞬、ヤツがビクリと震えたような気がした。
「終わりだぁあああああああっ!!!」
両手の短剣を、ヤツの両目に突き刺した。
それだけで終わらせないで、下に切り裂いて……
さらに新しくナイフを抜いて、逆手に持ち、刈り取るものの首にできた二つの傷に突き刺す。
抉り、横に切り開いた。
さらに、槍を引き抜いた。
喉を開いた傷に突き立てて、その奥……体の中心に向けて、槍を押し込む。
途中、ガキンという硬いものに当たり、刃が阻まれた。
しかし、焦らずに対処。
マウントポジションを止めて、刈り取るものを蹴り、軽く跳躍。
宙でくるっと回転しつつ、位置を調整して、槍の柄を蹴る。
ザンッ!!!
足で槍を押し込むような形になり、阻んでいたものも壊した。
そして、最奥に隠されていた『なにか』を打ち砕いて……
「……」
ビクン、と刈り取るものが震えた。
それが最後の動き。
何度か痙攣を繰り返した後、ヤツは動きを完全に止めて……
そうして、どうにかこうにか討伐することができた。
「やっ……た……」
ただ、そこが限界。
さすがに血を流しすぎたらしく、意識を保つことが難しくて……
「ご主人様!?」
シオンの悲鳴を聞きつつ、俺は、そっと意識を手放した。




