24話 絶対に聞くことはできない
「くぅっ……!?」
シオンは全身に力を込めて、勝手に動く体を強引に止めた。
シオンの意思が奴隷に課せられる強制力を上回る。
どうにかこうにか体が止まる。
ただ、直後に雷に撃たれたかのような激痛が全身に走る。
「あっ、あああああぁ!?」
奴隷が主に逆らうことができないよう、設計されたセーフティーだ。
命令に逆らうようなことがあれば、首輪に込められた魔道具が作動して、痛みという名の罰を与える。
あくまでも罰なので死ぬことはない。
ただ、逆らう気力を失わせるほどで……
シオンはふらふらとよろめいて、そのまま倒れてしまいそうになる。
……しかし、その寸前に踏みとどまる。
意識をしっかりと保つ。
意思をしっかりと固めていく。
「私……は!!!」
命令に逆らうシオンに罰を与えるべき、再び魔道具が作動した。
一度で終わらない。
シオンが命令を聞くまで、何度でも何度でも。
痛い。
痛い。
痛い。
シオンは耐えることができず、涙を浮かべてしまう。
ただ、心は耐えていた。
むしろ奮起していた。
痛くて、苦しい。
折れてしまいそうになる。
屈してしまいそうになる。
でも。
そうしたら、もう二度とクロードに会えないような気がした。
このまま一生の別れになってしまうような気がした。
「このままで、終わること……なんてぇ、絶対にぃっ……!!!」
シオンは割れてしまいそうなほど奥歯を強く噛んで。
爪が食い込むほど拳を強く握り。
クロードが残した命令に逆らい。
与えられる罰の痛みを無視して。
「ご主人様、私は……今、あなたのところへ!!!」
シオンは立ち上がり、己の果たすべきことを果たすため、今来た道を戻る。
その瞳に宿る光はとても強く、なによりも輝いていて……
生きる意思にあふれていた。
――――――――――
刈り取るものに戦いを挑んで。
三人を背中に守りつつ、攻撃と防御を繰り返していく。
「お、お前、どうして……?」
「俺達なんかのために……」
「いいから! 今は、とにかく逃げろ!」
「わ、わかった……! す、すぐに助けを呼んでくる!」
三人は、ふらふらと倒れそうになりながらも、必死に走り、この場を離脱した。
階層を移動する階段まで辿り着いたのが見えた。
刈り取るものは、邪魔をした俺にターゲットを変更したらしく、三人を追う様子はない。
たぶん、これで大丈夫だろう。
あとは、三人が救援を連れてきてくれることを期待したい。
ただ……
「シオンが言っていた通り、すごい魔物だ……さすがに、これはまずいかも……ぐっ!?」
刈り取るものは、巨大な鎌を武器に攻撃を繰り返してきた。
速いだけじゃなくて、一撃一撃がとても重い。
どうにかこうにか致命傷は避けて、防いでいる。
ただ、今までの魔物と違い、ダメージを受けていた。
完全に防ぐことはできず、一撃をもらう度に、鈍い痛みが蓄積されていく。
そのせいで動きが鈍くなり、集中力も途絶えてきて……
さらに攻撃を受けてしまうという悪循環。
起死回生を賭けて、全力の一撃を繰り出してみるか?
シオンやヘイズさんは、俺の身体能力がでたらめと言っていた。
なら、渾身の……全身全霊、全てを乗せた一撃を叩き込めば、あるいは勝機があるかもしれない。
でも、俺は戦闘の技術がない。
力しかない一撃を繰り出しても、簡単に避けられてしまうだろう。
どうする?
どうすればいい!?
せめて、一瞬でもいいから、ヤツの意識が別のものに逸れて、隙を見せてくれれば……
「ご主人様から離れなさいっ!!!」
瞬間、シオンの声が響いた。
「シオン!?」
「これでも……喰らえぇえええええっ!!!」
シオンは、全力で槍を投擲した。
その槍は、たぶん、三人が持っていたものだろう。
すれ違い、その時に貰い受けた?
投擲された槍は、鷹のように速く、鋭く飛ぶ。
正確無比な一撃で、刈り取るものの頭部に直撃した。
「……ギギ……」
さすが、冒険者殺しと呼ばれ、恐れられている存在だ。
頭部を貫かれたくらいでは死なないらしく、さほどダメージも受けていない様子。
ただ、狩りを邪魔されたのは不快だったらしく、振り返り、シオンを睨みつけた。
隙だ。
これでもかというくらい待ち望んだ、大きな大きな隙だ。
「それを……待っていた!!」




