表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/42

23話 刈り取るもの

「あの人達は……」


 ダンジョンの入り口で会った三人組が、悲鳴を上げて逃げていた。


 彼らを追いかけているのは……


「……っ……」


 『ソレ』を見た瞬間、背中がゾクリと震えた。

 あれは……やばい。


 ぼろぼろのローブに、その隙間から見える骨の体。

 巨大な漆黒の鎌を手にしている。


「死神……?」

「あれは……そんな、まさか……」


 シオンは、あの不気味な魔物を知っているみたいだ。


「シオン、あいつは?」

「刈り取るもの……難易度に関係なく、ダンジョンにのみ現れる魔物です。恐ろしく強力な個体で、ヤツと遭遇した冒険者の九割は死んでいます。それ故に、『冒険者殺し』とも言われています」

「……冒険者殺し……」

「ご主人様、今のうちに逃げましょう。幸い、ヤツは、私達には気づいていません」

「それは……」

「彼らのことは諦めるしかありません。私達にはどうすることもできず……これは、事故のようなものです。防ごうとしても防げるものではありません。ご主人様が気にすることはありません……仕方ないんです」


 シオンは色々なことに詳しい。

 冒険者に関しても、俺よりも知識を持っている。


 そんなシオンが言うのだから、今、逃げることは正しいことなのだろう。

 三人組を見捨てることも、仕方ないことなのだろう。


 ……だとしても。


「シオン……ごめん」

「ご主人様?」

「シオンの言っていることは正しいと思う。でも、俺、見捨てることはできない」

「ご主人様! それは……!」

「わかっている。シオンの言っていることは、間違いないと思う。俺にできることは、なにもないのかもしれない……それでも」


 俺は、親方に助けられた。

 そうして命を救われた。


 誰かに助けてもらったことで、今の自分がある。

 だから、『助ける』ということを否定したくない。

 仕方ないと、諦めたくない。


 もちろん、これは俺の自己満足だ。

 無茶にシオンを付き合わせるつもりはない。


「シオン、命令だ」

「えっ……」


 まさか、という感じで、シオンは顔を青くした。

 そのまさかだ。


「今すぐにダンジョンを脱出して、この事態をギルドに伝えろ」

「なっ……ご、ご主人様、そのような命令は……あぅ、か、体が……!?」


 シオンはぎこちない動きで俺から離れていく。

 必死に抵抗しているみたいだけど、しかし、奴隷は主の命令に逆らうことはできない。

 ゆっくりと……しかし、確実に遠ざかっていく。


「ど、どうして……!? ご主人様、ご主人様……!!!」

「……ごめん」


 ほどなくして、シオンは上の階に続く階段に消えた。

 ひとまず、これで彼女は安心だ。


 このまま、俺も避難できたらいいのだけど……


「やっぱり、それだけはできないな」


 あの三人を助ける。


 シオンが震えるほどの魔物を倒せるなんて、そんな自惚れてはいない。

 ただ、時間を稼ぐことくらいはできるだろう。

 というか、してみせる。


 もちろん、死ぬつもりなんてない。


 俺は、まだまだやりたいことがある。

 北のノーザンライトに辿り着いて。

 目的を終えたら、また鉱山に戻って、親方やみんなに会いたい。


 冒険者も続けたい。

 思っていた以上に冒険者は楽しくて、日々が充実していた。

 誰かのためになる、というところもポイントが高い。


 そして、なによりも……


 シオンと一緒に旅をしたい。

 彼女と同じ時間を過ごしたい。


 シオンがいたからこそ、俺は、今までがんばることができた。

 生きる目的と価値を見つけることができた。

 本当の意味で、俺が俺でいられるようになった。


 だから……


「ここで終わりになんて、絶対にできないよな」


 物語で言うと、俺は、死亡フラグが満載だ。

 俺はこのまま死んで……

 そして、シオンだけが生き残る。

 そんな未来が確定しているような状態。


 でも、そんなものは覆してみせようじゃないか。


 だって……


「約束したからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ