22話 物語のスタート
俺の両親は、各地を旅する旅人だったらしい。
冒険者だったのか。
あるいは商人なのか。
詳細はわからないけど、各地を旅していたことは確からしい。
そして……
鉱山の近くに来たところで、魔物に襲われて死亡。
俺は、近くにいた親方達に運良く助けられた。
その後、親方のところで世話になって、鉱夫になって働いて……
恩を返すために、一生懸命に生きてきた。
厳しいけど、でも優しい親方。
ちょっと調子のいいところはあるけど、やっぱり優しい仲間達。
仕事は大変だったけど、楽しい日々を過ごすことができた。
ただ……
満たされていたかと聞かれたら、そこは首を傾げてしまう。
みんながいて、厳しいけどやりがいのある仕事があって。
不満はない。
欠片もない。
ないのだけど、どこか、物足りなさを覚えていたのは確かだ。
俺は、一生を鉱夫で終えるのだろうか?
外の世界を知ることなく、ここで終わりを迎えるのだろうか?
それはそれで一つの生き方で、アリだと思う。
でも、俺はわがままなのか、それで納得できないらしく……
みんなの前で表に出すことはなかったけど、くすぶる想いのようなものを抱えていた。
俺の時間は止まったまま。
なにも起きることはなくて、なにも進むことはない。
灰色の世界が続いていた。
そんなある日、世界に色がついた。
シオンと出会った、あの日だ。
空からダークエルフの女の子が落ちてきて。
それをきっかけに、北を目指して旅をすることになって。
正直、わくわくした。
ドキドキした。
俺の物語は、今、ここからスタートするんだって、今までにない胸の高鳴りを覚えた。
――――――――――
「……だから、シオンに感謝しているんだ」
「そうだったのですね……」
素直な心を打ち明けると、シオンは、なぜか嬉しそうな顔になった。
「シオンを故郷に送り届けたい、っていう気持ちは本物だよ? ただ、それと同時に、旅をわくわくしている俺もいて……たぶん、俺は、ずっと昔から外の世界が見たかったんだと思う。顔も覚えていない両親だけど、でも、その血は受け継いでいて……俺も、両親と同じように世界を旅したかったんだと思う」
「……ご主人様……」
「だから、そのきっかけをシオンがくれたんだ。ありがとう」
「……はい」
シオンは、深く、ゆっくりと頷いた。
それから笑顔で言う。
「私も……ご主人様と出会うことができて、嬉しく思っています。ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」
「って……また、同じようなことを言っていますね。ですが、それくらい感謝しているということで……その、そう理解していただけると」
「ありがとう。シオンの気持ちは嬉しいよ」
「私の気持ち……!?」
なぜかシオンが驚いていた。
焦り、顔を赤くする。
「も、もしかしてご主人様は、私の色々と変わりつつ、深く成りつつある想いに気がついて……!?」
「うん? それ……えっと、どういうこと?」
「あ、いえ……なんでもありません。わからないのならば、そのままでいていただければ。はい。ぜひぜひ、そのままで」
「あー……うん? よくわからないけど、とりあえず、わかったことにしておくよ」
「ふぅ……」
シオンは、とても安堵した様子で吐息をこぼした。
一方で、どこか寂しそうで……うーん?
なにを考えているのかよくわからないな。
ただ、踏み込んでほしくなさそうな気はしたので、話は終えることにした。
「さて、そろそろ探索を再開して……」
「うぁあああああっ!!!?」
瞬間、悲鳴が聞こえてきた。




