20話 ダンジョンへ
あれから依頼をいくつかこなして。
冒険者として、それなりの経験を積んで、慣れてきた頃。
「ご主人様、ダンジョンを攻略してみませんか?」
ふと、シオンがそんな提案をした。
宿の一階の食堂で朝食を食べつつ、話をする。
「ダンジョン?」
「えっと、ダンジョンというのは……そう、魔物の巣のようなものですね」
「巣……?」
「とてもとても大きいな巣で、無数の階層に分かれています。規模にもよりますが、数十種類の魔物が住んでいて、それらをまとめるボスが存在します」
「なるほど……なんとなくイメージはついたけど、とても怖いところなのかな?」
「はい。毎年、ダンジョンに挑み、しかし、帰ることのできなかった冒険者が多数、出てしまいます。危険度は高いのですが……ただ、ダンジョンは、そこに生息する魔物の影響を受けて、特殊な素材を入手することができます。それに、魔物を倒すことで、その素材も体にれることができて……故に、ダンジョンは天然の宝物庫、と呼ばれています」
「おぉ……!」
「危険はあるのですが、いい鍛錬にもなりますし、効率よくお金を稼ぐことができるかと」
「今の俺達なら、問題ない?」
「はい、大丈夫だと思います。いきなり、高難易度のダンジョンに挑むわけではありませんし……そもそも、ご主人様なら、なにも問題はないかと」
「買いかぶりすぎだって。俺なんて、まだまださ。傲ることなく、もっともっと励まないとね」
「……ご主人様は、少しは傲っていただかないと、周囲がどう反応していいか、とても迷うことになるのですが」
どうして、そのような結論に至るのだろう?
シオンの考えていることがよくわからない。
「じゃあ、ダンジョンに挑戦してみようか。ちらっと聞いたことあるけど、普通の依頼よりは、けっこう稼げるんだよね?」
「はい。その分、危険は増しますが……安心してください。ご主人様のことは、私が絶対に守りますから」
「あはは、なにを言っているのさ」
「え?」
「俺は、シオンを守る側だから。そうするべきだからね」
「……」
シオンが赤くなる。
小声で、
「……守るというのは、ご主人様の防御力と耐久力が桁外れに優れているから? 効率的な問題? そ、それとも、私のことが……」
そんなことをつぶやいていた。
ところどころ聞こえていないから、意味はよくわからない。
「じゃあ、この後、ダンジョンに行こうか」
「はい」
――――――――――
ダンジョンは自然のものと、人が管理するものがあるらしい。
前者は難易度が高いものの、レアアイテムを手に入れるチャンスが高い。
後者は、レアアイテムの出現率は低いけど、人が管理しているため、難易度はそれほど高くない。
いわゆる初心者向けのダンジョンだ。
シオンは、
「ご主人様なら、あるいは、いきなり高難易度のダンジョンでも……」
なんて言っていたけど、そんな無茶無謀はダメだ。
段階を踏んで進むべき。
というわけで、街外れにある初心者向けのダンジョンにやってきた。
冒険者ギルドに似た建物。
頑丈そうな壁に囲まれて、さらに、魔道具による結界が展開されていた。
ダンジョンの魔物が外に出れないようにするための措置だろう。
「ん? なんだ、お前達もダンジョンに?」
俺達以外の冒険者がいた。
俺より少し上くらいの、男の三人組パーティーだ。
「って……なんだよ、まだガキじゃねえか。ほら、冒険者ごっこをするなら、ちゃんと街でやれ。ここは危険だ」
「いえ。俺は、ちゃんとした冒険者ですよ。ほら」
冒険者証を見せると、男達がため息をこぼす。
「マジかよ……こんなガキの登録を認めるとか、最近のギルドはおかしくないか?」
「だよな。優秀な冒険者を切り捨てたりするし、なにを考えているんだか」
「秩序とか信頼とか、色々言ってるけど、結局、日和っているだけだよな」
うーん……ちょっと態度が悪いな。
この人達、冒険者ギルドの改革をよく思わない、古いタイプの冒険者なのかもしれない。
まあ、鉱夫をやっていると、こういう人も当たり前のようにいたから、今更、気にすることじゃない。
「ご主人様は、実力で試験に合格しました。それに文句をつけるということは、ギルドに文句を言うということ。あなた方の言動を報告してもいいのですよ?」
やや怒った様子で、シオンが前に出る。
すると、男達は嬉しそうな顔に。
「おいおい、こんな可愛い子と一緒なのか?」
「うらやましいねえ。なあ、せっかくだから、俺が冒険者について色々と教えてやろうか?」
「ってか、うちに移籍しようぜ。そんなガキと一緒にいても、意味ないだろ」
男達はヘラヘラと笑い、シオンに手を伸ばして……
「はい、そこまで」
シオンを背中にかばう。
「俺のことはどうでもいいけど、彼女に手を出そうとするのは、見過ごせないかな」
「え? あ……お、お前、今……」
「いったい、なにが……」
「どうかした?」
男達の様子がおかしい。
「あ、いや……な、なんでもない」
「た、ただの冗談だ。悪かったな」
「? まあ、素直に引いてくれるなら、別に、なにかするつもりはないけど……行こうか、シオン」
「あ……はい」
シオンと一緒にダンジョンに入った。
――――――――――
「……なんだ、あいつ?」
残された三人組の男達は、クロードの背中を唖然とした表情で見る。
「特別、動きが速いわけでもない。脅してきたわけでもない。ただ……」
「……あいつが動いた時、俺、殺されるかと思った」
「俺も……なんていうか、こう、裸でライオンと対峙したような、そんな感覚だよな?」
その感覚を思い出したらしく、三人組は顔を青くして、体を震わせた。
「見た目は、どこにでもいるようなガキに見えたけど……あれ、中身はまったくの別物だろ。実は魔族でした、なんて言われても納得できるぜ」
「俺、あいつには関わらない方がいいと思う……」
「そ、そうだな……無理することはない。放っておくか」
……そんな会話が交わされるのだけど、クロードがそれを知ることはない。




