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19話 シオン・その4

 私のご主人様は、ちょっとおかしい。


 いや。

 訂正しよう。


 かなりおかしい。


 こんなことを考えるなんて、失礼にもほどがある。

 厳罰は免れない。

 捨てられたとしても文句は言えないだろう。


 ……なのだけど。


「やっぱり、おかしい……」


 全身を覆われるくらい、ウルフにガシガシとかじりつかれて。

 普通なら悶え苦しむはずなのに、何事もないように平然としてて。


 極めつけは、囮はこうすればいいんだよね? と笑顔を見せるところ。


「ご主人様の身体能力の高さは試験の時に知り、防御力と耐久力も知り……いえ。知ったつもりになっていた……本当は、思っていたよりも上。予想外のさらに予想外……」


 あの、無敵のような防御力と耐久力は、いったい、なんなのだろう?


 常識の範疇を超えている。

 世界の理からも外れているのでは?


 『無敵』という言葉が本当によく似合う。


 普通に考えて、人間があのような能力を獲得することは不可能だ。

 ダークエルフでも無理。

 エルフ、ハイエルフでも無理。


 たぶん、その他の種族でも無理だろう。


 というか……

 世界中を探しても、ご主人様のようなでたらめな防御力と耐久力を持つ人はいないと思う。


「ご主人様は、鉱夫をやっているうちに鍛えられた、と言っていたけど……」


 そんなこと、本当にありえるのだろうか?

 鉱夫に就くことでそれだけ鍛えられるのなら、世界中の鉱夫は最強ということになる。

 各国は、こぞって人を鉱山に送り込むだろう。


 でも、実際はそんなことになっていないわけで……


「いったい、ご主人様は何者なのだろう……?」


 考える。

 考える。

 考える。


「……ダメ、お手上げ」


 答えなんて見つかるわけがない。


 おとぎ話や神話の類でも、あれほどのでたらめな能力は聞いたことがない。

 史上初。


 そのような能力について、考えても答えが出るはずがない。

 わかるのは……

 ご主人様は、人の理解を遥かに超えた先にいる、ということだけだ。


「ただ……」


 とんでもない能力を持つご主人様は、もしかしたら人間じゃないのかもしれない。

 特別な種族かもしれない。

 あるいは、魔族かもしれない。

 もしかしたら、神様の類かもしれない。


 だとしても。


「まあ……なんでもいいのだけど」


 私にとって、ご主人様はご主人様。

 誠心誠意、尽くすべき相手。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 能力について、気にはなるものの……

 しかし、必要以上に気にしなくてもいいだろう。


 私がやるべきことは、ご主人様に仕えること。

 なによりもそれが大事で、それ以外のことは、わりとどうでもいい。

 気にしなくていい。


「ええ、そうね」


 私は、ご主人様の奴隷。

 それを一番に考えて、これからも行動すればいい。


 それだけだ。


「がんばりましょう」


 私は決意を新たにして、これからもご主人様のためにがんばろうと、そう誓うのだった。

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