17話 いざ冒険者!
昨夜は、とても大変なことをしてしまったような気がした。
ただ、後悔はない。
むしろ、嬉しいと思う。
とはいえ、いつまでも浮かれているわけにはいかない。
北に向かう資金を稼ぐためにも、今日から冒険者としてがんばらないと。
……というわけで、さっそく依頼を請けて、街の外に出た。
「依頼内容は、魔物……ウルフの討伐。十匹前後の群れ。報酬は、金貨一枚……なるほど。依頼って、こういう感じなのか」
請けた依頼を振り返りつつ、冒険者についての理解を深めていく。
「ご主人様、一つ提案があるのですが」
「どうかした?」
「その……大変おこがましい話ではあるのですが、私がご主人様に戦い方を教える、というのはいかがでしょうか?」
「戦い方を……」
「ご主人様のでたらめな身体能力と、頭のおかしい防御力は……はっ!? し、失礼いたしました!」
「いいよ、いいよ。それで?」
「は、はい。えっと……ご主人様のスペックはありえないほど高いのですが、しかし、失礼ながら、戦闘技術は身につけられていないように見えました」
「そうだね」
鉱夫として働いていたから、体は頑丈に鍛えられたと思う。
身体能力も、そこそこ自信はある。
でも、戦闘経験はゼロ。
戦い方なんて学んだことはなくて、どのように戦えばいいか、さっぱりわからない。
「うん。シオンに教えてもらえるのなら、すごく安心できそうだね。お願いしてもいいかな?」
「はい、もちろんです!」
話がまとまったタイミングで、ゴブリンと遭遇した。
討伐目標ではないものの、放置はできないし、向こうも俺達を逃がすつもりはなさそうだ。
「ちょうどいいので、あのゴブリンを練習相手としましょう」
「了解。どうすればいい?」
「まずは、相手の動きをよく見て、攻撃を避けることだけを考えてください。攻撃も大事ですが、やはり、それ以上に防御が大事ですから。怪我をしないことを一番に考えて、戦わないといけません」
「相手の動きをよく見る……オッケー、やってみるよ」
前に出て、ゴブリンと対峙した。
俺に戦闘技術がないことを察したのだろうか?
ゴブリンは笑い声を響かせると、手にした棍棒で殴りかかってきた。
「ギッ、ギギィ!」
「よっと」
言われた通り、ゴブリンの動きをしっかりと見て、攻撃を回避する。
ゴブリンの動きは遅く、棍棒も適当に振り回しているだけ。
これなら、俺でも対処できそうだ。
「ギィッ、ギギギ!」
「ほっ、ふっ……ほい」
「ギーーーッ!!!」
避け続けていると、ゴブリンは、怒り心頭といった様子で棍棒を振り回してきた。
それも避けて……うん?
そういえば、これ、いつまで続ければいいのだろう?
「シオン、ちょっと聞きたいんだけど……」
「ご主人様!? 後ろに気をつけてください!」
「ギィッ!!」
ごんっ。
後頭部に伝わる衝撃。
なにやら嬉しそうなゴブリンの声が聞こえてくるのだけど……
「あ、しまった。つい……」
「ギギッ……!?」
振り返ると、ゴブリンが怯んだように後退した。
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「え? ああ、うん。問題ないよ」
「で、ですが、今、棍棒が直撃して……」
「相手はゴブリンだからね。ヘイズさんと比べたら、全然」
「えっと……ゴブリンだとしても、普通は、棍棒で殴られれば相当なダメージを受けてしまうのですが……」
「そうなの? うーん……ボールがぶつかったような感じで、痛いとか、そういうことはないけど」
「……もしかして、ご主人様に防御の練習は必要ない?」
「いや、さすがに必要じゃないかな? 今は、棍棒だから大丈夫だったけど、相手が剣とか持っていたらまずいだろう?」
「そ、そうですね……さすがにご主人様も、刃物を受け止めることは……」
「剣とかは、さすがにちょっと痛いからね」
「ちょっとで済んでしまうのですか!?」
シオンは、どうしてそんなに驚いているのだろう?
「鉱山だと、ピッケルが壊れて破片が飛んだり、スコップが壊れて同じことが起きたり、そういうのが日常茶飯事だからね。剣を持ち出されても、今更、っていう感じはあるかな」
「生身の相手に剣が通じない……もしや、ご主人様の体は魔物と同レベルに……?」
「さすがに痛いとは思うけどね。とりあえず……」
再びゴブリンに視線を戻す。
攻撃を続けるべきか?
それとも逃げるべきか?
そんな感じで迷っているらしく、ゴブリンからは戸惑いの感情が見て取れた。
俺はゆっくりと歩み寄る。
「ギ……ギィッ!」
退けないと判断したらしく、ゴブリンは棍棒で殴りかかってきた。
うん。
シオンに、しっかりと見るように、って言われていたから、今は、その動きが細かいところまで確認できた。
ゴブリンの棍棒を手の平で受け止めた。
「ギギ!?」
「えぇ……!?」
そのまま棍棒を握り、力を込めて、バキィッ! と砕いた。
そして、カウンターの一撃。
空いている方の手でゴブリンの頭を殴る。
「っ……!?!?!?」
ゴブリンは盛大に吹き飛んで……
木の幹に激突。
そのまま、起き上がることはなかった。
「よし!」
魔物を相手の戦闘で、初めての勝利だ。
相手の動きをしっかりと見て、攻撃を防いで。
そして、カウンターの一撃。
これは、なかなか技術点が高いのではないだろうか?
「シオン、今の戦いはどうかな? わりと、いい感じにできたと思うのだけど」
「えっと、その……申しわけありません。ご主人様のように戦う方は、今まで見たことがなく……どのように採点をすればいいか、まったくわかりません」
「あれ?」
俺の戦い方はおかしかったのだろうか?
綺麗に決めることができたと思っていたのだけど……うーん。
戦うって、難しいな。




