16話 シオン・その3
ご主人様とキスをした。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………………………………………………………………………ひゃん」
思い返して。
顔が熱くなり。
そして、変な声が出てしまう。
「ど、どうして、このようなことに……?」
私は奴隷だ。
どのように扱われても文句を言うことはできない。
殴られても。
抱かれても。
それは、ご主人様の自由。
でも、ご主人様はそんなことはしない。
ただただ優しい。
そして、私のことを奴隷ではなくて、家族のように扱ってくれる。
だから、私は勘違いしてしまう。
期待してしまう。
もしかしたら、ご主人様は、私のことを……なんて。
いやいやいや。
そんなこと、あるわけがない。
だって、私は奴隷だ。
物と同じで、物に好意を抱く人なんていない。
仮に奴隷でなかったとしても……
やはり、ありえないだろう。
私はダークエルフ。
どちらかというと希少な種族ではあるものの、色々なものが人間と違う。
それに、容姿は普通だ。
いや。
ちょっと盛った。
並の下、ではないのかな? と思う。
なぜなら、私の家族は……
姉や妹は、絶世の美女、美少女だったから。
そんな家族に比べたら、私は平々凡々。
どこにでもいるような普通の娘だ。
そんな並に、好意を持つなんて、そんなこと……
「ご主人様は……いったい、どういうつもりで……き、キスを……」
思い返すだけで顔が熱くなってしまう。
もしも。
もしも、ご主人様が、私のことを好意的に見てくれているとしたら?
奴隷ではなくて、一人の女として……
「……あぅ」
どんどん顔が熱くなる。
風邪でも引いてしまったかのよう。
「もしもが本当になるとしたら、嬉しいけど……でも、私は……」
ご主人様がどう思っているのか、どう考えているのか。
それはわからない。
ただ一つ、決定的なことはある。
それは……
私が奴隷ということだ。
ご主人様の認識は置いておいて。
私の立場が変わることはない。
奴隷のままなのだ。
そんな奴隷が、ご主人様と対等になれるなんて考えない方がいい。
そんなことは普通に考えてありえない。
夢を見るのは勝手。
でも、夢から覚めた時は辛い。
手に入るかもしれない、と期待していた分、心に傷を負うことになるだろう。
「でも……」
ダメだってわかっているのだけど、それでも期待してしまう。
もしかしたら、って願ってしまう。
「ご主人様、私は……」
私は、そっと自分の唇に指先で触れるのだった。
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