表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/42

15話 ご褒美

「ご主人様……一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか?」


 お願い?


 なんだろう。

 シオンが、そんなおねだりをするなんて初めてのことだ。

 なにが欲しいのか見当もつかない。


「えっと……なにか欲しいものが?」

「はい。奴隷の身で、過ぎた話をしているという自覚はあるのですが……」

「そういうのは気にしなくていいから。確かに契約は結んだけど、俺は、シオンのこと、すごく大事にしたいと思っているからさ」

「ありがとうございます」

「えっと……それで、お願いだっけ? 俺にできることならいいんだけど……」

「はい、それは大丈夫です。むしろ、ご主人様にしかできません」

「俺にしか?」


 いったい、どんなものが欲しいのだろう?


 ……シオン、あまりにも予想外の『お願い』を口にする。


「私に、冒険者の試験を合格した、ご褒美をいただけませんか?」

「もちろん、構わないけど……」

「……キス、してほしいです」


 シオンは、どこか蠱惑的な表情で……

 そう、甘くささやいた。


「えっ……!?」


 聞き間違い……じゃないか。

 それは、シオンの表情を見ればすぐにわかる。


 頬を染めて。

 瞳を潤ませて。

 上目遣いで、期待するようにこちらを見る。


「それは……」

「嫌……でしょうか?」

「そんなことはない!」


 思っていた以上に大きな声が出た。


「俺は、なんていうか……色々と鈍いからさ。自分でも自分のことをきちんと理解していないというか、こういう時、なにをするのが、どんなことを言うのが最善かわからなくて……ああ、もう。こういう言い訳っぽいことを言いたいわけじゃなくて」


 突然のことに驚いて、気持ちがぐちゃぐちゃだ。


 軽く深呼吸。

 どうにかこうにか心を落ち着けて、想うことを伝えるべく、言葉をゆっくりと並べていく。


「俺は……シオンのこと、すごく大事にしたいんだ」

「はい」

「出会ったばかりだけど、なんか、他人には思えないというか、家族みたいに感じているというか……あ、今のはたとえね? それくらい、大事に想っている、っていうこと」

「はい」

「だから、危険があれば守りたいと思う。困ったことがあれば、助けたいと思う。それだけじゃなくて、難しいことに直面した時は、手を取り合い、一緒にがんばっていきたいと思う」

「はい」

「そんな感じだけど、ただ、よくわからないことも多くて……はぁあああ。俺、情けないなあ……」

「いいえ、そのようなことはありません」


 シオンは、優しく微笑む。


「ご主人様のおかげで、私は死なずに済みました。それだけではなくて、生きる目的を得ることができました。本当に……本当に感謝しています」

「……シオン……」

「ですから私は、ご主人様の奴隷になれて、よかったと思っています。それを、誇りにすら感じています。私も、ご主人様のことがなによりも大事ですから……だから、この繋がりと絆を、なによりも大事に思っています」

「……うん」

「ただ……ふと、思うのです。今の関係はとても心地良いですが、そこで満足するのではなくて、もう少し……もう少し踏み込んでみたい、と。とても贅沢な願いですが、ご主人様をより近くに感じることができたのなら、と。それ故の……お願いです」

「そう……だな」


 言葉を交わすことでシオンの心に触れているかのようだった。

 彼女の優しさと想いと。

 温かさが流れ込んできて、心がふわふわと浮かんでいるかのよう。


「もちろん、私はただの奴隷です。それ以上でも、それ以下でもありません。そこから先を望むつもりはありません。ただ、今は……」

「……いいよ、それ以上は言わないで」

「……ぁ……」


 シオンの唇に、そっと人差し指で触れた。


「そうだな……うん」


 まだ、自分の気持ちがよくわからない。

 シオンのことをどう思うのか、それは形になっていない。


 ただ、別の部分で形になっているものはある。


「俺は、シオンの主だ」

「はい」

「シオンは俺のもので、絶対に手放したくないって思うし、一緒にいたいって思う」

「はい」

「だから……」


 そっと顔を近づけていく。


 シオンは、こちら見て、静かに目を閉じる。


「これは、その宣言みたいなもの」

「……んぅ……」


 そして……

 俺とシオンの距離がゼロになった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

感想や誤字報告、ありがとうございます。

もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ