14話 鉱夫です
「……」
突然、ヘイズさんの動きがピタリと止まってしまう。
なにやら驚いている様子。
それと、ひどく悩ましげに物事を考えている様子。
どうしたのだろう?
「キミは……何者だ?」
「え」
「普通に考えて、俺の拳をまともに受けられるわけがないのだが……」
「えっと……ああ、それは、慣れているからかもしれません」
「慣れている?」
「前の仕事で、よく失敗をして、親方に怒られていたんで。その時にげんこつをもらって……だから、慣れたのかもしれません」
「……キミの親方は、人間なのか? ドラゴンだったりしないか?」
なんで、そんなわけのわからないことを聞くのだろう?
「もちろん人間ですよ」
「むう……」
「あとは……そうですね。よく崩落や落石に巻き込まれたりしていたので、それも、慣れた要因かもしれませんね」
「ほ、崩落に落石……?」
「あと、間違えて工具をぶつけたりとか。割れたピッケルの破片が飛んできたり……そうそう、砕けた鉱石が銃のように飛んできたこともありますね。あとは……あっ、可燃性の鉱石が爆発して、それに巻き込まれたことも。逆に、とても冷たい……氷点下に届く特殊な鉱石があるんですけど、やっぱりそれの暴走に巻き込まれたことも」
「……」
「そういう、色々な事故に巻き込まれてきたせいか、体には自信があります! けっこう頑丈ではないのかと」
「けっこうどころではないのだがな……」
ものすごく呆れている様子だ。
なぜだ?
「いったい、キミは、どこで働いていたのだ……?」
「鉱山ですよ」
「なに?」
「俺、鉱夫だったんです。子供の頃から、十二年、働いていました」
「…………………………」
ものすごい長い沈黙。
どうして、そんなに驚いているのだろう?
謎だ。
ややあって、ヘイズさんは再起動した。
「な、なるほど……キミのでたらめな身体能力も、それを遥かに超える、もはやおかしいとしか言うことのできない防御力と耐久力も、その秘密をようやく理解することができた……子供の頃から、鉱山で十二年も働く? そのような無茶無謀無理難題をやっていたのなら、納得だ」
なんだか酷い言われようだった。
そこまでおかしなことだろうか?
俺のような、なんてことのない男ができたのだから、わりと、誰にでもできることだと思うのだけど。
そう言うと、
「無理だ。まず間違いなく、百パーセントの確率で、皆、途中で死ぬだろう」
断言されてしまう。
そうなると、問題なく働いていた俺は、いったい……?
「運がいいのか、それとも、なにか特別な才能があるのか。それは、俺にはわからないが……しかし、今のキミが持つ能力は、とても貴重なものだ。それを大事にして、きちんと育てていけば、優秀な冒険者に……いや。国を代表するような冒険者になれるだろう。文句なしの合格だ」
「ありがとうございます!」
やった!
これで、俺も今日から冒険者だ。
合格したことは嬉しいけど……
シオンと一緒に活動できる、ということが、もっともっと嬉しい。
「ご主人様、おめでとうございます!」
「ありがとう。シオンもおめでとう」
「ありがとうございます。これで、一緒に依頼をこなすことができますね」
「だね。がんばっていこう」
「はい!」
……こうして、俺とシオンは冒険者になることができたのだけど。
その夜、最大のピンチが待ち構えていることを、俺はまだ知らない……
――――――――――
無事、冒険者になることができた。
とはいえ、試験が終わった頃は日が暮れていたため、本格的な活動は明日から。
明日に備えて、宿で早く休もうとしたのだけど……
「ご主人様、値段のわりにいいところですね」
「そ、そうだね……」
「ベッドも大きいから、寝るのに困らなそうですよ」
「そ、そうだね……」
……俺は今、困っている。
ものすごく困っている。
本当は、二部屋借りたかったけど、空いてなくて。
他の宿も、すでに満室で。
結局、シオンと同じ部屋になってしまった……
今までは野宿だったから、こういう事態に遭遇したことがないんだよな。
俺は、どうすれば……?
「……ご主人様」
気がつけば、シオンがすぐ近くにいた。
じっと、こちらを見つめてくる。
「……」
「……」
沈黙。
気まずいといえば気まずいのだけど……
ただ、嫌な感じはしない。
慣れていないだけというか。
こそばゆいだけというか。
悪い雰囲気ではないと、そう思った。
「ご主人様……一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます
楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
感想や誤字報告、ありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。




