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13話 重装甲

 俺の名前は、ヘイズ・アームストロング。

 Aランク冒険者だ。


 Aランクということに誇りを持つ。

 当たり前だ。

 今までの自分の活動の成果なのだから。

 その評価をもらうことができて、なによりも強い誇りを抱いている。


 今日は、冒険者登録希望の試験を行っている。

 ランクに関係なく、ギルドに貢献するため、こういう活動も多い。


 一人目のダークエルフの女は、とても強い。

 どのような鍛錬を積んできたのかわからないが、すでに戦士として完成されているような気がした。


 攻撃は鋭く。

 そして、なによりも速い。

 風のように動くことができるため、彼女を捉えることはなかなか難しいだろう。

 期待の新人だ。


 もう一人の男は……さて、どれほどの力を持つだろうか?

 見た感じ、大した圧は感じない。

 年相応の身体能力はある様子ではあるが……

 冒険者を長く続けるのならば、並では通用しない。

 先のダークエルフのように、その者だけが持つ『武器』が必要だ。


「では、試験を開始する」

「はい、お願いします!」

「先と同じように、まずは、好きに攻撃してくるといい。俺からは、なにもしない」

「わかりました。胸をお借ります、よろしくお願いします!」


 ふむ。

 好感の持てる青年だ。

 おそらく、とても真面目なのだろう。


 しかし、真面目なだけで冒険者をやっていくことはできない。

 理不尽を打ち砕くような力が必要だ。


 果たして、彼にそれだけの力が……


「はぁっ!!!」

「……なん、だと?」


 一瞬、青年の姿が揺らいだ。


 目の錯覚か?

 そう訝しむ一瞬の間に、青年は目の前に移動していた。


 転移魔法?

 いや、魔力は感じられない。


 ならば、特殊な技術や能力が使われた?

 いや、その様子は感じられない。


 ならば……


(単純に、身体能力だけで、ここまで驚異的な加速をしてみせた!?)


「くっ!?」


 驚きのせいで、回避動作が遅れてしまう。


 回避は諦めて、防御に切り替えた。

 両腕を交差させて、盾のように使う。


 そこに青年の拳が炸裂して……


 ガァッ!!!!!


 あまりに激しい衝撃に、一瞬、意識が飛ぶ。

 大丈夫か?

 俺の腕は、まだついているだろうか? 折れていないだろうか?


 そんな心配を本気でしてしまうほど、激しい攻撃だ。


「なんという……」


 この青年の身体能力はデタラメすぎる。

 あまりにも高く、あまりにも歪だ。

 こんな能力を持つ者は見たことがない。


 ただ……


「はっ! やぁ! はぁあああ!」

「……ふむ」


 岩を拳で砕いて。

 風よりも速く動くことができる。

 常識外れの身体能力を持つ青年ではあるが、戦うための技術はゼロに等しい。


 ただまっすぐ前に出て、拳をぶつけるだけ。

 戦闘技術は持たず、フェイントなどの駆け引きも頭にないようだ。


(身体能力はすさまじいが、戦闘に関しては素人そのもの……か)


 たまに、こういう逸材に出会う。

 きちんとした師に弟子入りして、鍛錬を積み重ねれば、一流の冒険者に育つだろう。


 彼を合格にするべきか?

 それとも、まずは鍛錬を勧めるか?

 迷うところだ。


 今のままでも、冒険者として十分に活躍できるだろうが……

 いかんせん、技術がゼロのせいで、下手をしたら、つまらないことで命を落としかねない。


(……もう少し測るとするか)


「よし。今度は、俺からも攻撃をするぞ」

「はい!」


 危険を回避する能力は備えているのか?

 暴力を防ぐことはできるのか?

 それを確かめて、それから判断を下そう。


 そう決めた俺は、前に出た。

 いくらかフェイントを混ぜつつ、青年に向けて拳を放つ。


 ガッ!


(……やはり、ダメか?)


 青年はフェイントに簡単に引っかかり、俺の拳をまともに受けた。

 防御も回避もしていない。


 一応、それなりに手加減はした。

 場所も脇腹を狙ったから、大きな怪我に繋がることはないだろう。


 ただ、これで青年は動くことは……


「えっと……これで終わりですか?」

「なっ……!?」


 青年は、平然とした様子で問いかけてきた。


 やせ我慢?

 いや、そんな様子はない。

 なにも感じていない……そんな様子で、平然と悠然と、今なにか? という感じで、そこにいた。


「お前は……今の攻撃、効いていないのか……?」

「え? いえ、まさか。ちゃんと痛いですよ」

「痛い……そ、そんなレベルの話で済ませてしまうのか……?」


 手加減はしていたが、俺の拳は、本気を出せば鉄板も貫くのだが……


「……もう一度、いくぞ」

「はい、よろしくお願いします!」


 試してみたくなり、もう一度、攻撃に出た。


 今度は……手加減なしだ。

 本気の一撃を叩き込む。


 簡単にフェイントに引っかかる青年の懐に潜り込み、太腿を痛烈に蹴りつけた。

 全力の一撃だ。

 腫れるだけではなくて、断裂を起こすだけではなくて、骨が折れて当然。


 当然なのだけど……


「いたたた……今、どう対応していいかわからないし、やっぱり、Aランクの冒険者ってすごいんですね」

「……」


 どう対応していいかわからないのは俺の方だ。

 どうして、俺の全力を受けて平然としていられる? いたたた、で済ませられる?

 普通なら骨が折れて、悶絶して、泣きわめいているはずなのだが……


 もしかして、この青年が真に優れているところは、あのでたらめな身体能力ではなくて、この無敵と言えるような防御力と耐久力なのか……?


 いったい、この青年は……何者なのだ?

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

感想や誤字報告、ありがとうございます。

もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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