12話 冒険者ギルドの試験
ギルドの裏は、スポートができるような広場になっていた。
ここは冒険者に解放されていて、日頃、訓練に使われているらしい。
受付嬢のお姉さんが笑顔で言う。
「試験の内容は簡単です。当ギルドに所属する冒険者と模擬戦をしていただくこと、それだけです」
「なんか、やけに簡単ですね?」
「ふふ、そう思うのも仕方ないですが、甘く見てはいけませよ? 相手は、Aランクの冒険者ですから。一筋縄ではいきません」
上から二つ目のランクの人が相手に……確かに、それは大変そうだ。
下手をしたら落第、ということもある。
緊張する俺を見て、受付嬢のお姉さんが優しく笑う。
「大丈夫ですよ。負けたとしても……というか、負けるのは当然なので。大事なのは、これから冒険者としてやっていくだけの実力がある、ということを示すことです。勝てなかったとしても、それなりの実力を示していただければ合格となります」
「なんだ……よかった」
「これで一通りの説明は終わりですが、なにか質問はありますか?」
俺は……うん、大丈夫かな。
シオンを見ると、彼女も、問題ないという感じで頷いた。
「では、試験を開始しますが、どちらから挑みますか?」
「ご主人様、私が先でよろしいでしょうか? やはり、まずは私が先に出るべきかと」
「うん。俺はどちらでもいいよ」
「ありがとうございます」
シオンが前に出た。
対するは、ゴッズ兄弟に似た大男だ。
ただ、ゴッズ兄弟と違い、無駄な肉は一切ついていない。
全身が徹底的に鍛え上げられている。
徒手空拳ではあるものの、その拳は、もはや凶器のレベルだろう。
「……冒険者のヘイズだ。よろしく頼む」
「シオンと申します。よろしくお願いいたします」
礼を交わして、二人は身構えた。
シオンは、いつでも動けるように足に力を込めている。
一方のヘイズさんは、両拳を顔の前にやり、いつでも拳を放てる体勢に。
「好きに攻撃をしろ」
「え?」
「俺が攻撃をしては意味がない。お前の力を測ることが目的なのだから、まずは、好きに攻撃をしてほしい」
「……わかりました」
シオンは軽くステップを刻んで……
地面を蹴り、一気に前へ出た。
「ふっ!」
最初は、回し蹴り。
そこから拳を連続で叩き込んで、肘打ちに繋げていく。
流れるような連携で、一切の隙がないように見えた。
「すごい……」
シオンは、腕に自信があるって言っていたけど……
まさか、ここまでなんて。
驚いているのは俺だけじゃなくて、ヘイズさんも同じだった。
「やるな……全てガードするつもりでいたが、いくらか避けることはできなかった」
「ヘイズさんも、さすがです。あれ以上、踏み込ませないように、カウンターを狙っていましたね? もしも私が判断を間違えていれば、ここで勝負はついていたでしょう」
「ふむ……賢いな。いい冒険者になるだろう」
「合格をいただけるのですか?」
「もう少し判断材料が欲しい。今度は、俺からいくぞ」
ヘイズさんが、一歩、踏み出した。
たったそれだけで周囲の空気がビリビリと鳴るかのよう……そんな強烈な圧を覚えた。
ドンッ! と、地面を吹き飛ばすかのような強烈な踏み込み。
ヘイズさんは、その勢いで前に出た。
一足でシオンの目の前に移動して、その剛腕を……
「むっ!?」
叩きつけることはない。
シオンはすでに回避行動に移っていて、距離を大きく空けていた。
速い。
というか……速すぎない?
今の動き、明らかに人間の限界を超えていたような気がするんだけど……うーん。
ダークエルフだから、身体能力の差があるのかな?
「逃さん」
「逃げさせていただきます」
ヘイズさんは追いかけて、拳を連打した。
高速で連続して矢を射出する、攻城兵器のようだ。
普通は、視認することが難しい。
気がつけば直撃。
そのままアウト。
そうなるはずなのだけど……
「……速いな」
シオンは、今度は距離を空けず、ヘイズさんの拳を全て避けていた。
直撃はゼロ。
かすることさえない。
それでいて、不必要に距離を空けず、必要最低限の間合いで避けている。
完璧な回避だ。
ヘイズさんほどの実力者の拳をあそこまで見切ることができるなんて、そうそうできることじゃない。
というか、誰にでもできないのでは?
「……なるほど」
しばしの乱撃の後、ヘイズさんは距離を取り、攻撃を止めた。
構えも解いて、体をリラックスさせる。
「素晴らしいな。攻撃は、やや軽いが……いや。常人に比べれば遥かに重いが、やや決定打に欠けるところはある。上位になれば、苦戦するやもしれぬと思っていたが……本来の武器は、そのスピードと目にあるか。完全に回避されたのは、これが初めてだ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「文句なしの合格だ。これからの活躍に期待する」
無事、シオンは合格を勝ち取ることができた。
「ご主人様、やりました。私……」
「やった、やったね!」
「ひゃっ……!?」
シオン以上に嬉しくなってしまい、ついつい彼女を抱きしめてしまう。
「シオンはすごいね。腕に自信があるとは言っていたけど、正直、ここまでなんて思っていなかったよ。すごい、本当にすごいよ。あと、かっこよかった」
「え、えっと……その、ご主人様」
「うん?」
「このようなところで、このようなことをされてしまうのは、少々、恥ずかしく……」
「……あっ、ごめん!?」
慌ててシオンから離れた。
しまった。
嬉しくて、ついつい勢いに任せてしまったのだけど……嫌われていないだろうか?
シオンに嫌われたら、俺はもう……なんか、生きていけないような気がした。
「ふふ」
俺の杞憂をよそに、シオンは楽しそうに笑う。
「ご主人様、まるで子供みたいですね」
「そうかな?」
「失礼かもしれませんが、とても可愛らしいと思いました」
「うーん……複雑な感想」
とりあえず……嫌われていないみたいだ、よかった。
ほっと安堵しつつ、俺は、シオンと一緒になって笑い、喜ぶのだった。
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