11話 旅立ち
北を目指すことにしたものの、即日、仕事を辞めるわけにはいかない。
必要な引き継ぎをして。
今後に支障が出ないように、いくつかのマニュアルを残して。
それだけじゃなくて、旅の準備もして。
衣服や食料。
サバイバル用品などを揃えて。
十日で準備を終えることができた。
そして……
「がんばれよ!」
「シオンちゃんを、ちゃんと守るんだぞ!」
「絶対にまた帰ってこいよ、いいな!?」
みんなに見送られて。
「……親方……」
「必要なことはもう言った。だから、俺からは一言だけだ……行ってこい!」
「はい!」
親方に見送られて、俺とシオンは鉱山を出て、長い長い旅に出た。
――――――――――
近くの街まで、歩いて一週間ほど。
そこまで距離は離れていないのだけど、道がちゃんと舗装されていないため、歩きづらく、時間がとられてしまう。
とはいえ、そこまで急ぐ旅でもない。
一定時間内に北へ辿り着かないとシオンの故郷が消えるというわけではないし、堅実に、安全に進んでいこう。
「ご主人様。この先にある街は、ファーグランデでしょうか?」
「そうだよ。よく知っているね」
「ご主人様だけに頼るわけにはいかないので、少しでもお役に立てればと思い、勉強いたしました」
すごい勤勉さだ。
俺も見習おう。
「提案があるのですが……」
「どうしたの?」
「その……私のせいなので、とても言いにくいことではあるのですが、私達は、旅をするには軍資金が心もとなく……」
「そうだね……なんとかしないといけないんだけど、どうしようか?」
準備で、金貨十五枚は消えた。
残り十五枚。
節約すれば、二人で一ヶ月は暮らしていけるだろうけど、それが目的じゃない。
旅の資金と考えると、かなり物足りない。
資金のことは色々と考えていたんだけど、結局、答えが見つからなかった。
いざという時は、冒険者登録をして、それで稼ごうと思っていたのだけど……
「冒険者登録をするというのは、いかがでしょうか?」
「え」
「冒険者ならば、旅をしつつ、資金を稼ぐことが可能です。私は、こう見えて、それなりに腕に自信があります。それに、ご主人様は、あのゴッズ兄弟を一撃で倒してしまうほどの実力者。きっと、うまくやっていけるのではないかと」
「おー」
「あの……どうかされましたか? もしや、私の提案を不快に思い……」
「いやいやいや、違うよ。そんなことはないから。ただ、俺と同じことを考えていたんだな、って」
「ご主人様も……?」
「資金を稼ぐにはそれが一番かな、って。同じことを考えていたなんて、俺達、気が合うね」
「えっと、その……は、はい……」
なぜか、シオンが赤くなる。
どうしたんだろう?
最近、ちょくちょくこういう状態になるのだけど、まったく心当たりがない。
「えっと……でしたら、冒険者になる、ということでよろしいでしょうか?」
「うん、それでいこうか。各地で稼いで、ついでに情報を仕入れて。そんな感じで、街から街へ移動して、北を目指していこう。ルートは判明しているから、そこまで焦る必要はないと思う。堅実にいこう」
「はい!」
――――――――――
シオンは思っていた以上に体力があり、一週間の行程を五日で踏破することができた。
腕が立つという話は本当みたいだ。
見た目は可憐な女の子なのだけど……
うーん、女の子は見た目によらない、っていう話は本当なんだな。
なにはともあれ、ファーグランデに到着した。
「おぉ……!」
活気のある綺麗な街だ。
人もたくさんいる。
武装しているのは、全員、冒険者なのだろうか?
「ファーグランデは、別名、冒険者の街と呼ばれています。冒険者になるには最適の街と言われていて、色々なところから人々がやってくるらしいです」
「そっか。なら、俺達にも最適な街だね」
「さっそく登録しに行きましょう」
「オッケー」
シオンと二人で、さっそく冒険者ギルドを訪ねた。
中は広く、たくさんの冒険者がいた。
噂では、子供は帰りな! っていう感じでからまれることが多いと聞いているのだけど……
そういうことが起きる様子はない。
「以前はたちの悪い冒険者も少なくなかったみたいですが、それではギルドの威厳に関わると、徹底的な取り締まりが行われたみたいです。それと、新人も歓迎して、サポート体制を強化したらしく……」
「今のような、いい雰囲気が作られた、っていうわけか」
納得の理由だった。
俺がいた鉱山も、数年前に、働き方改革で色々なところが変わったからな。
そんなことを思いつつ、俺達は、受付嬢に声をかけた。
「すみません。冒険者登録をしたいんですけど……」
「はい、新規の方ですね? ようこそ、ファーグランデの冒険者ギルドへ。冒険者に関しての説明は必要ですか?」
「えっと……一応、お願いします」
「かしこまりました。では……」
受付嬢曰く。
冒険者は、様々な依頼をこなすことで報酬を得る。
ギルドは、依頼人と冒険者を繋ぐ仲介役。
他にも、様々なサポートを担当している。
冒険者のランクは、最低のGから最高のSまで。
上になればなるほど報酬は高くなるものの、危険度も増す。
パーティーを組んで、依頼に挑むもよし。
気の合う者同士でクランを結成するもよし。
冒険者の数だけ活動の仕方があり、その内容は星の数ほど。
ぜひ、Sランクを目指してがんばってほしい……という説明を受けた。
「なるほど……はい、だいたいのことはわかりました」
「納得いただけて、なによりです。では、新規登録にあたり、これから試験を受けていただきたいのですが、お時間はよろしいでしょうか?」
「試験?」
「一定の実力を示していただけない場合、不合格となり、登録することはできません」
新規の冒険者は歓迎しているものの、誰彼構わず受け入れていたら、それはそれで質の問題に繋がってしまう。
力のない人を受け入れて、その人が死んでしまうと責任問題に発展することもある。
そういう事態を避けるために試験を設けた……という説明を受けた。
納得だ。
鉱山で働く時も、色々と身体能力のテストを受けたからな。
「そういうことなら、了解です」
「私も問題ありません」
「理解いただき、ありがとうございます。では、試験を行いますので、ギルドの裏手にある訓練場へどうぞ」
いったい、どのような試験を受けるのだろう?
俺は、初めての経験にちょっとわくわくしつつ、シオンと一緒に裏手に向かうのだった。
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