10話 シオン・その2
私は奴隷だ。
気がつけば誘拐されていて。
気がつけば奴隷に堕ちていた。
どうすることもできない。
奴隷の首輪をつけられていて、自力でどうにかすることはできない。
こうなる運命だったんだ。
そう自分に言い聞かせて、人生を諦めていた。
奴隷としての心構えなどを教わり、学ぶ日々。
そんなものを学びたくはないけれど、拒否すれば酷い目に遭う。
だから、嫌だとしても学ばないといけない。
そうして、日々、奴隷として嫌な成長をして……
気がつけば、奴隷らしくなっていた。
そんなある日。
そろそろ売り時だと判断したのだろう。
私は、飛行船で大きな街に移送されることになった。
奴隷だから。
物と同じ扱いだから、『移送』だ。
最後の自由。
だからなのか、わりと自由に飛行船の中を移動することができた。
同じ奴隷の子達は、綺麗な空を見て。
飛行船からの光景を見て、心に焼きつけているようだった。
これから先、どれだけ辛いことがあったとしても、この光景を思い出にがんばろう……と。
でも、私はそんな気にはなれなかった。
奴隷は奴隷。
待っているのは、どうしようもない人生でしかない。
救いなんてない。
幸せなんてない。
ただ、辛いだけの日々だろう。
だから……
私は、気がつけば柵を乗り越えて、身を投げ出していた。
後々、誰かに突き落とされた、という話をしたけど……
あれは嘘だ。
人生の終了を悟り、自分で幕を引くために飛行船から飛び降りた。
ただ、それだけのこと。
これで楽になることができる。
これから先、苦しい思いをしなくても済む。
そう思っていたのだけど……
私は、ご主人様に助けられた。
不思議な人だった。
私と同じ十八歳。
でも、どこか大人びていて。
かと思えば、実年齢よりも幼く見えて。
見る角度によって、コロコロと印象が変わる人だった。
そう……
私のご主人様は、本当におかしな人だ。
普通、空から落ちてくる人を助けようとするだろうか?
超々高度から落ちてくる人なんて、それはもう凶器と変わらない。
受け止めようとしても、一緒に死ぬだけ。
運が良くても、両手の骨が折れて、ついでに他の骨もバラバラに砕けるだろう。
それなのに。
ご主人様は、空から落ちてきた私を受け止めてみせた。
多少、苦戦したらしいけど……
わりと元気に、わりと無事にキャッチしたらいい。
人間?
本当に人間なのだろうか?
話を聞いて、まず私は、ご主人様の種族を疑った。
その後……
ご主人様は私に優しくしてくれた。
他の人達も優しかったけれど、ご主人様は特に優しくしてくれた。
一緒の時間を過ごしてくれて。
常に気にかけてくれて。
なにかあれば、大丈夫? と、本気で心配をしてくれる。
なんて優しい人なのだろう。
……だからこそ。
私を追いかけて、奴隷商人のアクロラがやってきた時は絶望した。
あぁ……私は、ご主人様と離れないといけないのか。
この幸せで、楽しい時間は終わりなのか。
やっぱり、私は、絶望しか残されていないのか。
でも。
ご主人様は、私を決して見捨てなかった。
私なんかのために、ほぼ全財産をはたいて、私を買ってくれた。
そんなことありえるだろうか?
知り合って数日の相手のために全財産を使うなんて。
ありえない。
ありえない。
ありえない。
でも、そのありえないことを成し遂げたのがご主人様だ。
こうして、私は、ご主人様……クロード様の奴隷になった。
クロード様はとても優しい方で、私のことを常に気にしてくれて……
そして、私の故郷である、北のノーザンライトに連れて行ってくれると約束した。
ただの口約束じゃない。
ご主人様は残りの財を使い情報を買い、準備をした。
そして、私と一緒に旅に出てくれた。
どうして?
どうして、私なんかのためにそこまでしてくれるの?
ずっと不思議で。
ずっと疑問で。
でも、答えがわからなくて……
だからせめて、ご主人様に恩を返したい。
役に立ちたい。
疲れているのなら癒やしになりたい。
この体を欲するのなら、喜んで差し出そう。
でも、ご主人様の考えていることはよくわからなくて……
一方で、私は私で、ご主人様のことを考えると、不思議な気持ちになって……
わかららないことだらけ。
私は、どうしたいのだろう?
ご主人様は、どうしたいのだろう?
不思議なことでいっぱい。
謎だらけ。
ただ……
一つだけ、確かなことが言える。
それは……
「私の体と心。そして魂は、常にご主人様と一緒に……」
これから先。
私とご主人様の旅がどのような結末を迎えるのか、それはなにもわからない。
ただ、最後の最後まで、ご主人様と一緒にいよう。
常に隣にいよう。
私は、そう固く誓うのだった。
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